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ウォーアクス戦記  作者: 秋月
三章 黄金の稲穂と砂塵の中で
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三十一話 旅路の中の乗馬男

 晴れた空と視界の中、長い長い行列が道を行く。がちゃり、がちゃりと鬱陶しく鳴る音は、行列の全員が少なからず武器を身につけているからこその音だ。かの軍勢より掲げられた掲げられた旗は鋼色の曲がった鬼の角が描かれている。鉄鬼傭兵団だ。


 パートマデット攻防戦後、二週間程失った人材の補給や武器の新調と忙しない日々を過ごしてからフランシス達、鉄鬼傭兵団は一路南――ベルロンドへ向かって旅立った。理由は単純、仕事が減ったからだ。


 そもそも四つの傭兵団が一つの街に存在している事そのものがおかしいのだ。同じ仕事をするのだから、その分仕事量は減る。三つで限界であり、フランシス達の参入で当の昔にバランスは崩れていた。


 そこに、戦力増強の知らせが入れば、強力な傭兵を相手にする賊などいない。自らが入って来たことで崩れたバランスを戻す為、フランシス達は街を出たのだ。

 

 重装偵察兵アルドは捕虜の身となったが、ロベリット領主の行方不明の件調査の為にフランシス達の下より引き取られ、連行されて行く事とあいなった。


 その年で長い年月を牢獄で過ごす事になるであろうアルドにフランシスは哀れみを感じたが、決して俯かない青年の姿に、フランシスは何となく安堵していた。


  三つの傭兵団、そしてその団長らとの別れはそう深い物ではなかった。しかし、それぞれは戦友という、かけがえのない絆がある事を信じて疑わない。だからこそ旅立ちの時、皆武器を掲げ、門出の祝福を戦神に願ってくれたのだろうから。


 フランシスは左目を失い、未だに右肩の筋肉の断裂が直りきっていない。重症を負った状態からは何とか安定し、今は戦闘を団員に任せる事で極力安静にしている。百人規模の大傭兵団の仲間入りともなれば、英雄は無くとも問題ない。


 それに、フランシス程の強者ではなくとも、ケンドリックや"鷹の目"と謳われるノールもいる。戦闘や盗賊討伐に関して支障は無かった。それでもどこと無く不安げではあったが。


 そんな行軍途中、アルラが進言と言う形で口を挟んだ。


「団長。少し、気を張りすぎではないか?」


 そうか? と聞くフランシスに、アルラはそうだ、と返した。


 つい先日見習いを卒業したばかりの一戦術家に過ぎないアルラにもわかる程、フランシスは気を張り詰めている。休んでいろと言われている身とは思えない程であったのだ。常にその厳しい空気に常に当てられる身となっているアルラの、一種抗議であった。


「後ろに乗っている身にもなってくれ」


 ふう、とため息を吐くアルラに、フランシスは申し訳なさ気に頭を掻いた。アルラは現在、フランシスの馬に相乗りする形だ。筋肉も身長もないアルラにとって馬の制御とは至難であり、かといって馬車は殆ど荷馬車で、乗り心地などあった物ではない。


 あくまでも妥協に妥協を重ねて後ろに相乗りした身であるアルラだが、それでも環境改善の努力はやめなかった。


 フランシスは、自分で気を張りつめている気は無かったのだが、そういわれてしまえば警戒を抑えざるを得ない。長く息を吐いて心を落ち着けようとする団長を見かねたのか、ノールが馬を近付けて話しかけた。


「私は団長殿の事をあまり知らないのですが、気晴らしにお聞きしても?」


 的確なフォロー、と言うべきか。戦闘の様な本当に張り詰めた場面であるならその限りではなくとも、二つの事――この場合、過度な警戒と雑談――を、同時にやってのける事はできない。ある意味強引で、しかしフランシスの気を抜かせるという観点からすれば合理的な手段であった。


 そんな援護射撃に、フランシスは心中で感謝を述べながら、その話に答えた。


「あぁ。問題ない」

「そうですか。では、団長殿はどちらの出身であらせられるのですか?」


 私は一応、パートマデット首都近くの村です、と付け足したノール。フランシスはふむ、と一言呟いた。


「俺は、イル・ステシュ帝国の、とある村だ。豚や羊の肉が特産物だった」


 とある村、と言って明言しないのは、何も村が全滅した事が理由ではない。村長が保管しておかなければならない村の名前が記された書が、事故やミスによって紛失してしまうのはままあることであり、フランシスの村もその一つだった。


「ほう、羊肉ですか。独特の臭みあって、私は結構好きですな。団長殿は?」

「嫌いではない。が、最近は、余りたべていないな」


 酪農でできた肉は商売用の肉がほとんどで、余暇が出来ても干し肉にして冬を越す蓄えにするものだ。無駄に使う余裕などないに等しい。子供の頃のフランシスにとって――多くの子供にとっても――焼肉や干し肉はごちそうだった。フランシスも、時には一切れぐらいはくすねていたものだ。


 その度にこってりと絞られたのを思い出して、フランシスは思わず微笑んだ。


「そうだ。ノールは"鷹の目"を持つと噂されているが。実際、どうしてそんなに目がいいんだ?」


 ふとした拍子、フランシスは問いかけた。ノールの驚異的な目の良さ――"鷹の目"は、フランシスをして好奇心を刺激させるものだ。ノールは何気無く天を仰いだ。そして、清々しい顔で口を開いた。


「私は捨て子でしてな」

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