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ウォーアクス戦記  作者: 秋月
二章 王国首都パートマデット
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二十四話 喪失と決意

 雨は止んで少し経つ。フランシス達が敗北を喫してから、三日が経っていた。


 彼らが何処にいるかと言えば、橋である。ここを陣――最終防衛線として守り抜くというのが傭兵連合の役目へと切り替わる。橋の北に、伏兵としてフランシスとイェルサが率いる八十程度、南側にジェイルとラスベル率いる百二十強の兵。


 ジェイルとラスベルが待ち構え、中腹付近まできた時にフランシスとイェルサが襲いかかる。言ってしまえば単純な挟撃であるのだが、目的は殲滅ではない。その為か、総勢の雰囲気は以前よりも柔らかかった。


 だが、緩んでいる訳ではない。ここで負ける訳にはいかないという強い意思を持っているからか、各々の目には滲むような決意が見えた。




 直に、ぬかるんだ道を行く黒い集団が目に入る。大きな損耗を免れたロベリット領主軍は、しかし随分と士気が萎えているように見えた。


 暴れまわったフランシスのせいもある。だが、精強極まった傭兵連合の面々とぶつかりあったも大きいだろう。仮にも戦士を名乗る者なれば心構えはできていても、いざ戦いとなると竦む。


 そんな者達が戦場に立てば、たとえ戦に勝ったとしても疲労は激しい。事実、戦いに勝ったロベリットより、負けた傭兵連合側のほうが、余程気力がこもった目をしているのがそれを顕著に表していた。


「……あんた、左目はいいのかい?」


 イェルサが待機場所で合図を待ちながら、傍らのフランシスに話しかける。即時撤退を指揮したのは彼女とジェイルであるが、彼女はあまり指揮が得意なほうではない。どちらかと言えば、士気を上げるのが得意な方だ。


 だからこそ、士気が心配なのは個人としての技量が桁違いなフランシスだった。左目の視力を失い、まだ三日であり、なれない右目だけの視界は如何なものか。かつて片目を失ったイェルサの戦友は「距離が分からなくなる」と言っていた。


 距離感が無くなるのは戦いには致命的だ。こちらの攻撃が届かない位置で振ってしまえば致命的な隙を生み、相手の攻撃のリーチがつかめなければもろに直撃してしまう。


「痛みはあまりない。打ち身の方が痛いぐらいだからな」

「いや、そうじゃなくてだねぇ。視界の方だよ」


 失った部位について臆面もなく話せるのは、傭兵故の(したた)かさからか。失った側であるフランシスも、話して意識する事で痛んだりなどもなかった。


「視界か。……そうだな。若干の違和感はあるが、問題ない」


 ぶっきらぼうに言い放ったフランシスは、腰から短刀(ナイフ)を抜いて自らの右目のギリギリまで近づけた。あまりにも唐突な行動に、イェルサは絶句する。


 フランシスの短刀は、一寸弱ほど前で静止している。立体感を掴めず、距離感の確認が不可能な隻眼の者としては見事な手際だったと言えよう。さしものフランシスも手が滑るのは恐ろしかったか、少ししてからすぐに短刀をしまったが。


 イェルサも納得し、改めて自分の馬を落ち着かせ始めた。見れば、ロベリット領主軍は橋の中腹まで差し掛かっていた。それは、作戦の決行が間近である事を語っていた。




 橋を渡る為に、ロベリット領主軍は縦列で橋を渡っていた。V字の戦列を維持する必要もなければ、素早く渡る為に隊列を変えるのは当たり前だ。当たり前で、あるのだが。ロベリット領主軍戦術家、ヴァジルは不安を隠しきれなかった。


 確かに、橋を渡るに縦列を組む必要はある。だが、隊列が延びきってしまうのが何よりも彼の懸念であった。周辺の警戒は腕利きの重装偵察騎兵であるアルドに任せてこそいるが、それでも不安は残る。


 敗走したと思われる防衛軍が、何時警戒網を抜けて強襲をかけてくるか分からない以上、用心するに越した事はない。ヴァジルはそうやって警戒網を広げることで、先の戦、奇襲を免れる事ができた。


 だが、今回もそうとはいかないだろう。ヴァジルはため息をついた。偵察されている事、警戒されている事さえ分かっていればそれを避ける方法はいくらでもあるからだ。


 とはいえ、既に前方で敵――傭兵連合が陣を構えているのは分かっていた。


 数は不明ながら、恐らく傭兵連合との最後の戦いになるとヴァジルは思っていた。お互いに程度の差はあっても、疲労は溜まっている。戦力も相応に削られ、しかしお互い止まる訳には行かなかった。


 傭兵連合は王都防衛が任務である。故に、ここで守りを諦めて逃げるは末代までの恥。また、名誉にも傷がつく。傭兵達とて、遠い先の自分の命を懸けているようなもの。引き下がるわけには行かない。


 だが、とヴァジルは呟く。此方も負けるわけにはいかないのだと。こちらはこちらで、領主と、その娘の命が懸かっているのだから、と。


 出来ることなら一瞬でけりをつけたい。戦術家としてヴァジルはそう考え、騎兵を前に出す指示がとんだ。どうしても王都襲撃を成功させ、一命でも犠牲者を出さなければならない彼らは、焦ったとも言えよう。


 橋にて強襲せんとする、フランシス、イェルサ強襲隊を見逃す――つまり、背後確認を怠るという愚を犯したのだから。






 そう言えば、二章終章時に、幕間として世界地図を紹介したいと思っております。恐らくは、三章一話目が執筆終了次第、幕間、三章一話目の順で投稿すると思いますのであしからず。


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