十八話 集うまでの一刻
フランシスは堂々と作戦会議と言い、一刻程した後に戦術家、もしくは参謀を各々連れて再びこの場へくる事、と伝える。其々が大手の傭兵団を率いる三人、ラスベル、ジェイル、イェルサは各自頷いた。作戦と言う以上、団長らが立ち会いの下戦術の専門家が話し合うのは当たり前だからだ。
平時では一人が普通である戦術家達も、合同となれば話は変わる。其々に兵種の打ち合わせも必要になり、何処に配置、何処にどれだけの戦力をと様々な話し合いを行う必要がある。
駐屯している天幕群に馬に乗ってゆっくりと向かう。随分と規模が大きくなってしまった以上、町の中で全員が泊まれる場所はない。となればこうして天幕を張って駐屯と言う形をとるしかない。
まだ野営に慣れていない者達に負担を掛ける事となるが、我慢してほしいとフランシスは内面で頭を下げた。
アルラの天幕は揉めに揉めた物の、フランシスの天幕で寝ると言う事に決着した。命知らずが手を出そうとしても、フランシスが切り飛ばせる様な布陣と相成った。
自らの居場所へ戻った彼は、足早に馬を繋いで自分の天幕へと向かった。仕事の話始めたのは明け方であった為に、アルラはまだ眠っている様子だった。毛布にくるまって寝息をたてる彼女の横で、フランシスは無遠慮に横で大きく手を鳴らした。
パン、パンッ、と乾いた音がなって、その音でアルラはもぞもぞと上体を起こした。無理に起こされて不機嫌そうな顔でフランシスを見る彼女に、フランシスはすくむ事もせずに事情を話した。彼女のブロンドの髪が不機嫌そうに震えた
「……着替える」
ゆっくりと完全に起きたアルラが、フランシスへ目も向けずに呟く。それを聞いてフランシスは、無言のまま天幕を出た。
十数分後、アルラと共に再び先程集まった場所へ向かう。馬に二人乗りする形だが、フランシスが鎧を着込んでいない為か、軽々とはいかないまでも、あっさりと進んでいた。
使用人の案内を受けてさっさと会議室に入ったフランシスとアルラだったが、がらんとした室内に座る事になる。一刻と言ったものの、体感でその数分前に到着してしまったのだ。何かと律儀であった。
暫し時間が経って、一番初めに着たのは、赤髪の大きな背を持つ女――イェルサであった。
イェルサは唯の女とは思えぬ程筋骨隆々である。その二の腕は筋肉で満ち満ちており、飾りなどではない事を強く主張する。全体的に巨大な彼女であるが、その顔も精悍だ。強く前を睨む目は淡く赤みをおびており、鼻は比較的高い。唇も体の厳ついイメージに反して小ぶり。整っていると言えるだろう
ウェーブの掛かった髪は手入れを怠っているのか艶はないが、長い髪は充分に魅力を引き立てていた。本人にその気はないのだろうが。
「おんや。あんたのとこだけかい? まったく、これだからあの野郎共は嫌いなんだ」
吐き捨てる様にいってから、失礼するよ、と向かい会う様な席についた。その横におずおずと、本を抱えた男が座り込んだ。あれが銅傭兵団の参謀か、とフランシスは一瞥する。が、フードを目深に被っており、深く特徴は見れなかった。
それから改めて自己紹介をしあっていると、ノックの音がして、ジェイルが入室した。
短めに良く整えられた金髪が揺れる。フランシスと同じ碧眼である彼は、どちらかと言うと甘い雰囲気を醸し出す目をしていた。肌は白く、顔や体つきも全体的に中姓的だ。細めの体には、程々の筋肉が付いていた。
腰のベルトには刺突剣が挟まれ、顔や雰囲気と相まって優雅な空気を醸し出している。
「おや。ちょっと遅れたみたいだね?」
「そのようです。が、予定時刻よりは少し早い程度なので問題はないかと」
その横で、厳格そうな顔の女が短く嘆息を吐いてから言った。戦術家としては優れていそうだが、フランシスに格の上下は付けづらい。だが、自信に溢れているのは見て取れた。
イェルサはなんとも思っていないのか、足を組んで髪の先を指で弄くっている。ジェイルは何事かを戦術家の女と話していて、手持ち無沙汰なフランシスだけが残る。アルラは、イェルサの連れてきた参謀役と雑談している様だった。
意外にも、社交性があるようだ、とはフランシスの意見だ。歯に衣着せぬ、尊大な物言いの割に、人に好かれる一種の人望があるというべきか。フランシスは何となく、そんな事を少女に感じていた。
遅れる事、約半刻程。ようやくギィ、と扉が鳴る。全員の視線が一点に集中した扉から現れたのは、無論ラスベルである。隠しきれていない眠そうな顔、小山かと思う程高い背丈。筋肉は隆起し、自らの怪力を誇示する。
イェルサのチッ、という舌打ちが部屋に響いた。
「ボケラスベル。あんたこれで何回目だい? 毎回毎回遅れてさもあたりまえみたいにきてさぁ」
「誰がボケだと? 俺の睡眠は必要だから取ってるんだよ」
益のない言葉の小突きあいが始まり、ジェイルと一緒にフランシスも溜め息をついた。
そんな一幕を置いて、"王都襲撃事変"の会議は始まる事となる。




