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ウォーアクス戦記  作者: 秋月
二章 王国首都パートマデット
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十七話 戦いに向かい立つ

「随分面倒臭い事情があるね」


 と、細身な優男が溜め息と共に吐き出した。


 優男が言うのは、ロベリット領主の事である。聖エンパイア教国に所属する街であるが、なんと教国はこの事に対し一切の干渉を行っていないのだと言う。寧ろ、困惑さえしているらしい。フランシスも一緒になって溜め息をついた。


 ここで戦線布告を公にしてしまえば聖エンパイア教国としても戦う姿勢を示さざるを得ず、それは唯の戦争だ。教国側としても、王国側としても、避けたい事態なのだ。


「確かにねぇ。あたしらにとって戦争は食い物だけど――」

「ないのに越した事は無いからな。それで?」


 女が呟き、その続きを巨漢が紡ぐ。静かに睨みあおうとした二人は、しかしフランシスの鋭い眼差しでまた前を向く事になる。


「国軍は動かせない。公ではないからな。……ロベリット領主、その配下四百四十名との交戦をお願いしたい」


 恐らくは、時間稼ぎだろう、とフランシスはむぅ、と呟いた。要するに、国軍を動かせないから、教国側と話をつけるまでもたせてくれ。恐らくは、そんな所だ。


「四百四十。……百二十程度なら何とかなるが、それはきついな」

「右に同じく」


 巨漢が計算するようにそう言えば、追随して優男が口に出す。巨漢――ラスベル率いる鋼槌団は、総勢約八十の傭兵団である。相応に大きな規模であり、それを四十上回る戦力であっても問題ないと告げるのは自信の証だ。


 優男、ジェイルの言葉も同じだ。彼の率いる白薔薇団は総勢百名程である。一人一人の練度は鋼槌団よりも低いが、ジェイルの溢れるカリスマと指揮によって同等の戦力として働く事ができる。


「情け無いねぇ。ま、状況次第だけど、百は行けるさ」


 気軽に構える女は、イェルサ。(あかがね)傭兵団の頭領である。百の主張は他よりも低く、大したことの無い様に聞こえるが、それは間違いだ。何故なら、彼女の傭兵団の総勢は五十五名。そのすべてが腕利きである。


 そうして三人が――顔見知りである三人が状況確認を済ませたところで、フランシスの方に一斉に視線が向く。この場の誰もが名以外を聞いていないフランシスに興味が向くのは当たり前とも言えた。


 考え事をしていた彼は、三人の視線に気付いて顔を上げた。


「……あぁ。俺はフランシスだ。鉄鬼傭兵団の団長をしている」


 鉄鬼傭兵団――アルラが「無名では格好がつかない」と言って勝手に付けた名である。最初こそ反発があったものの、鉄鬼……つまり、フランシスが団長を勤める傭兵団の名としてふさわしいと、そう判断が下された。


 自分の(あずか)り知らぬ場所で決められていた事にやや不満のあるフランシスだったが、今は自分がいてもそう変わりはしなかっただろうと開き直っている。


「総勢七十五名。やれる戦力は……たぶん、百以上はかたいな」


 自らの従える戦力、その三十五以上は確実とのたまうフランシスは、その言葉に一切の嘘がない事を全身で示している。フランシスも、賊を狩る間にも戦力の増強を怠らなかった。じわじわと増えた戦力は、充分戦力として数えられるに至る。


「頼りがいがあるねぇ。さて、百二十が二、百が二。ぴったり四百四十。純粋に戦力としては互角、かな」


 白薔薇団のジェイルは頭の中でそそくさと計算を済ませた様で、大臣は置いてけぼりだ。先程まで睨み合っていた者達――約二名――が、コロリと手のひらを返して仕事を請ける前提で話している様に見えたからだ。


「悪くは無いな」


 がそういって、ラスベルは他三人の顔を一瞥した。その視線に三人ともそれぞれに頷き、それを見たラスベルが大臣に向かって口を開いた。


「この仕事は、俺達で請けよう」




 こうしてフランシス傭兵団改め、鉄鬼傭兵団が参謀と、七十数名を傘下に加えてから、初めての大きな戦いが幕を開ける事になる。戦略や戦術を組み立てる者のいない山賊を討伐する事とは違い、本当の戦いになるだろう事をフランシスは考えていた。


 一体、幾ら犠牲になるだろう? 活路を切り開かんとする敵の、もしくは叩き潰さんとする敵の猛攻で、何人がその血を流す? フランシスは、そんな事ばかりを考えていた。


 戦術家が敵となれば、こちらも十数以上を単位とした犠牲が必要になる筈だ。どんな戦略を使い、どれだけ絡め手を使い、時間を多いに掛けても。最終的には、人と人の――武器と武器の、戦いが必要になる。


 となれば、犠牲無しはありえない。戦死者や戦傷者が無し、も絶対にない。それが越えられぬ事実としてフランシスの頭の中で仁王立ちする。


 深く目を閉じる。


 再び、開く。


 フランシスは戦場を越えた男の一人である。だが、そのすべてが必ずしも"戦いを越えられたか?"と問われれば、それは別の話だ。一部の者達は、戦の中に自分を見出し、戦に魅入られる者もいる。逆に、戦を直視して狂い、逃げ惑う者もいる。


 そう考えれば、フランシスは酷く奇異な人間だと言えた。戦を直視して尚狂わず魅入られず、しかしその結果を悲嘆する。フランシスはそんな、不思議な人間であった。


「よし。……作戦会議を、始めるか」


 努めて気楽に見える様、フランシスは言葉を発した。




 うーん、人名と固有名詞が非常に多くなってしまった。反省。混乱してしまった人の為に、一応の役割をおいておこうと思います。

フランシス:斧使いの傭兵。フランシス傭兵団の団長であり、主人公。

エル・B・アルシェン:パートマデット王国の大臣。混乱を避ける為、"エル"などではなく、大臣と表記している。

ラスベル:巨漢。鋼槌団の団長。イェルサと仲が悪い。

ジェイル:優男。白薔薇団の団長。イェルサとラスベルとは顔見知り。

イェルサ:女。銅傭兵団の頭領(団長)。ラスベルと仲が悪い。男勝りな女性である。


 各自の容姿は今度本文中で説明します。平にご容赦くださいませ。

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