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ウォーアクス戦記  作者: 秋月
二章 王国首都パートマデット
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十四話 パートマデット王国首都

 商団の移動は滞りなく進んでいる。遠目に盗賊が見える事もあったが、フランシスを見て下がる物も多かった。近くで最有力であった早風団の討伐は、盗賊にも強く影響を与えている。噂は力を持つのは何時の世も同じであった。


 ガラゴロと、街道を行く馬車は、まるで問題無い様に見えた。しかし、フランシスは警戒を緩めない。馬に乗って、左右をしきりに確認する。物音に耳を澄ませ、行く先を鋭く見据える。


 過剰とも言える警戒は、フランシスには常だ。その様子をアルラが眺めているのにも、気付く程度には気を研ぎ澄ましていた。




 だが、そんな日も一週間。とうとう、パートマデットがその姿を現し始めた。


 遠目に見えるそこは、果てまで続くかと言う程長い石垣で覆われているのが見える。石垣とはいっても、馬車の幌ぐらいの高さは須らく持っている。その防御力は計り知れない。


 中央区付近に見えるは、王国の象徴たる城である。石で作られたそれは、造形等よりも大きさで荘厳を表しているようにも見えた。


「ようやく見えたか」


 フランシスは感動しつつも、ぼやく様にそう呟いた。アルラも同じ様にしていた。


 パートマデット王国は貿易国家だ。巨大な港町であるポート・パティマスの他、いくつかの港町を領地として持ち、さらに数多くの小国と交易路を結び、豊かに発展をとげていた。


 無論、いくらかは戦もあり、戦わねばならない時もあったが、そこはそれ、同盟国と肩を並べて戦力ですりつぶすような戦いでどうにかしていた。イル・ステシュ帝国に勝るとも劣らない、各国との連携力を持って、世界へ羽ばたく国だ。


 そんな王国の首都は、王国と同じ名前――パートマデットとなっている。故に、首都を呼ぶときは王国首都、という枕詞がつくのが常になっている。事実、その字面に劣らない壮大さであった。


 ポート・パティマスとは違った賑やかさの風を身に浴びながら、フランシス御一行――もとい、傭兵団は王国首都へ到着したのであった。




「団長」

 アルラが不意に、馬に乗っているフランシスに話しかけた。振り返ったフランシスに合わせて、良馬はその足並みを緩め、アルラでも容易く追随できる速度となる


「どうかしたか?」

「いや。……及第点だったか、聞きたくてな」


 フランシスはあぁ、と納得の声を漏らす。そういえばまだ見習い扱いであった、と。顔にこそ浮かばない物の、細かな動作は気になってしかたがない娘の動きだった。フランシスはふっと視点を外した。


 緊張している様子の彼女へ、静かにフランシスは告げた。


「合格だ。団員それぞれに聞いてみたが、疲労もほぼ溜まっていないし、眠気があると言う事もなかったらしい」


 やせ我慢をしている者がいないとは言い切れないが、フランシスはそれを見逃す程鈍っていないつもりだ。


「ただし、まだ見習いのままでいて貰う。偶然だと言い張る者もいるからな」


 そんなフランシスの言葉に、アルラは素直に頷いた。「納得するまでやる」、いわば不退転とも言える様な心持を奥に見たからでもあるが、自分の実力をこの程度で見切られては、と思われるのが癪だった、と言うのもあるかもしれない。


「承知した」


 そういってアルラは馬よりも二歩程後ろに下がった。




 王都に入ると、やはり騒然としている。ワイワイと賑わうそこは、まさに商人の国と言うべきか。様々な売り文句で満たされていて、買いも買ったり、売りも売ったりと、忙しなく人が行き来している。


 馬は宿に置かなければ、通行の邪魔である。事実、フランシスへ恨めしげな視線を送る物は多かった。だが、それもどこ吹く風。ゆっくりと進行するフランシス傭兵団の面々は、初めての――もしくは、久々の王都に興奮しながら、その流れに身を任せた。


 宿は何処か、と探す一行。十五人以下であるからこそ、宿を取ると言う選択肢がある。もっと大きい所だとそうはいかない。三十人も泊められる宿は殆どない事を考えれば、ある意味当然とも言えたが。


 とはいえ、十三人でも充分な大所帯。フランシスも人ごみには慣れていても、王都の細かい地理を知っている訳ではなかったから、宿もほぼほぼ当てずっぽうで探しているし、見つけられても十三人を泊めてくれる宿は少なかった。


 全員、慣れない旅でくたびれている所はある。となれば、早めに宿でしっかり眠らせてやりたい。自分の利益の次に、仲間の事を考えなければならないフランシスは、仕方なく数ヴェリルを皮袋から取り出した。


 団員に「少しまっていろ」と言ってから、フランシスはおもむろに路地裏へ歩き出す。見れば、暗がりの中に幾人かのみすぼらしい人影が見えた。


 家無し――乞食の者たちだ。仕事が溢れるこの街で尚食いあぶれ、もしくは犯罪に手を染めたが故に働き口のない者達である。そんな彼らは、僅かな金を得る為に様々な事を知っていた。無論、細かい地理も知っているだろう、というきたいから、フランシスは歩み寄っていた。


「誰か、十三人が泊まれる宿を知らんか」


 暗闇に向かって投げ捨てた言葉に、幾つかの返答が上がる。そちらへ向かって硬貨を投げ、フランシスは足早に裏路地を去った。




 さて。思ったのですが、これ戦記じゃないですよね?(おい)

もっと泥臭く、かつ淡々と戦いの記録を書いて行きたかったのですが。そういうのを期待されていた方には申し訳ないです。


 十一話からフラフラしていた団員数を編集し直しまして、辻褄が合うようにいたしました。

ノール達を含めのべ十一、フランシスとアルラを含め十三です。混乱を招いてしまい、深く反省する所存にございます。

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