16.王女とのお茶会
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「王女として相応しくない、はしたない行動を取ってしまったと思うわ。ごめんなさいね」
先ほどの剣幕とは打って変わってまるで別人のように萎れた様子の王女から、謝罪を受けて、リリカは途方に暮れた。
あれから正午を挟み、すでに午後のお茶の時間を迎えていた。
謁見室に入ってすぐ、事情の説明どころか自己紹介もなにもする間もなく、あっという間に気を失ってしまったリリカは王城の客室へと運び込まれた。
そうして昼時を過ぎて、ようやく目を覚ましたのだった。
すぐ傍で控えていた客室つきの侍女から
「お目覚めになられたならば、王女殿下よりお茶の席へお誘いするようにと、お声が掛かっております。お詫びの印だそうです。どうぞこちらでご準備を」
そう言われて、浴室へと連れ込まれた。
拒否する事も出来ずに風呂に入れられ着替えをさせられた。
そうしてこのサロンまで連れてこられたのだ。
日当たりのいいサロンに用意されたテーブルには、たくさんのお茶菓子やサンドイッチやひと口で頬張れるサイズのちいさなパイといった軽食が所狭しと並べられていた。
席に着いて、待つ事しばし。
やってきた王女は、席に着くやいなや謝罪を始めて、リリカは慌てた。
「いえ、あの。王女様、お顔を上げてください。その、こちらこそ……その、申し訳ありません」
自分で口にしておいて、何に対して謝罪しているのかまったく分からない。けれどリリカには、それ以外に口に出しても良さそうな言葉を見つけられなかったのだから仕方がない。
「いいえ。恋の種が選ぶ運命の相手は、その本人であってもどうにもできないと分かっていたのに。突然呼び出した挙句に詰め寄るなど。本当にはしたなかったわ」
肩を落して恥じ入る王女は、さきほどの鬼気迫る迫力とは全然違って見えた。
謝罪合戦になりかけたところで笑顔になった王女から香りの高い紅茶とまるで宝石のようなケーキを勧められる。
「マナーについては気にしなくていいわ。食べながらでいいから」と、求められるまま恋の種の日にあったことを、すべて話した。
話しやすい雰囲気をつくるように、適度な相槌と軽い質問に促されるまましゃべり続けた。
リリカに理路整然と話せる訳もなく、何度も話は行ったり来たりを繰り返すことになったと思う。
何杯も紅茶のお替りを淹れて貰い、その度にお茶の種類は替わり、テーブルに用意されていたケーキや軽食はほぼ全種類の味見をしたに違いない。
そうやって、3杯目のお替りを飲み終えたところで、リリカに話せることは何も残っていなかった。
「そうして、ルキウス様は、ルマティカへ帰られることをお決めになられたのです。正しい判断をされたのだと思います」
私がそういって話を終えた後、王女は黙って紅茶を口へ運んで、ほうっと長めに息を吐き、目を閉じた。
「そう。そういうことだったのね」
静かに呟いた。
王女の美しい声が静寂に溶けてリリカの心を冷やした。
そう。だから、もう二度と彼はリリカの元へはやってこない。
多分その内に、彼の右肩にはリリカではないもっと高貴な女性の姿が浮かぶのだろう。
リリカには……もう誰の姿も、浮かばないかもしれないが。
「貴女は正しく運命の人だったんだわ。ルキウス様の。ううん、この国にとっても。特別な運命の人」
リリカの話を真面目に聞いていたはずなのに。王女があまりにも的の外れた感想を言うので、リリカは思わずカッとなった。
「嘘です。そんなはず、ありません」
強い否定の言葉がリリカの口から飛び出していった。




