到達階層チャレンジ
魔物以外の気配が鬱陶しくなった私は、アリスの了承を貰ったうえで到達階層を増やすことにした。
ほぼ真直ぐに階段から階段へと歩を進め、10層のボス部屋前まで半日かからずに到達した。その間に屠った魔物は6層のそれと顔ぶれも変わらず、遠距離からの魔法付与した矢で殲滅してしまった。当然ながら、魔石やドロップを残していたはずだけれど、進路上で目についたもの以外は放置してしまう。今更拾って回るほどの価値もなければ、お金に困っているわけでもない。
時間優先で突っ切ってきた気もしなくはないけれど、2人の実力的には片手間でこなせるレベルなのだから無駄は極力省いたと言える。
10層のボスはヘビーキュプロス。9層までに居た単眼の巨人キュプロスが、3mくらいの腰巻しか着けない筋骨隆々で棍棒を振り回していたのと違い、このボスは軽装備ながら金属質の鎧を纏って剣を携えていた。
剣は2mほどの幅広片手剣で肉厚、切り裂くよりは叩き切る攻撃のようだ。鎧を纏って難敵に見えるものの、関節部分は剥き出しだし剣もただ振り回すだけの攻撃に正面をアリスに任せる。
「アリスは正面から当たって。受けきれないようなら流しても良いけど、どれくらいの強さか確認だけはしておいて」
「受けきれない事は無いと思いますよ。ボスとは言え、ノーマルキュプロスの
10倍とかは無いでしょうし。可能ならば右腕を切り飛ばしてみますよ」
「そうね。私は後ろに回って両膝裏に一撃入れて動きを止めるから、腕と言わずに首を落としてしまいなさいな」
私は右から、アリスは左から回り込んでワンテンポ早く突きかかれば、ヘビーキュプロスは横薙ぎに長剣を振り回す。アリスはタイミングを合わせた三日月斧で、絡め取るように長剣を上に弾いて直ぐに右肩から先を切り落とした。
ヘビーキュプロスは片腕を失っても動じず、残った左手でアリスを掴みにかかったけれど、その隙に後ろに回っていた私が居合一閃で両膝裏を切り裂いて動きを封じた。
「ナイスです、ユーミさん。仕上げ行きます!」
刀を鞘に納めながら一歩飛び退いた私に近寄るように、アリスは腕を失った右側を駆け抜けつつヘビーキュプロスの首を跳ね飛ばした。
そこに残ったのは中サイズの魔石と大型の片手剣。とてもではないけれど人が使うサイズではないので、空間収納に取り込みついでにインゴットに変換する。期待はしてはいなかったけれど、鉄鉱石の鑑定結果に少しばかり落胆する。
「呆気なかったですね。ドロップした剣は?」
「鉄鉱石だって。もっと下層に行かないと良いものは無いんじゃないかな。とりあえず行けるとこまで潜ろうよ」
そんな訳で、レベルの見合う魔物を探してどんどん下っていくことになった。
11層からはアンデットが混ざり始め、15層のボスはデュラハン。こちらには浄化のスキルを持つアリスがいるので、上層よりも簡単に駆逐していける。スケルトンやレイスは出会う度に広範囲の浄化を繰り返して行き、ボスなどは物の数秒で決着がついてしまったくらいだ。
20層のボスはポイズン・スパイダ―に守られたキラー・スパイダー。ボス部屋の天井付近に糸を張り巡らせた巣を作り、粘着力の強い糸をお尻から飛ばして絡め取ろうとする。捉えられたら毒の牙を突き立てられるのが目に見えているので、劫火の壁を付与した矢で片端から燃やし尽くした。
25層のボスはコカトリスで飛び回りながらの石化攻撃には参ったけれども、当たる端からアリスの修復が飛んでくるので、状態異常も気にせず一射で射落とし首を切り落とした。
30層のボスはアースドラゴンだった。
小型ながらも流石ドラゴン種、硬い鱗と強靭な尻尾攻撃に手を焼かされた。魔法耐性も持っているようで、付与魔法の矢でも体力を削ることが出来ずに接近戦を強いられた。
「さすがドラゴンだね。図体の割には動きが速いし、硬くって焦れてくるね」
「ですね。でも鱗さえ剥がせれば、そこからは比較的攻撃が入りやすいですよ」
「だけど、鱗を剥がすのは私には難しいよ」
「私が剥がしますから、ユーミさんはそこから削ってください」
「だね。申し訳ないけど、分担よろしくね」
右の後ろ脚と尻尾を切り落としたところで火を吹き始めたけれども、動きが極端に遅くなったので交互に首筋を狙って削り切った。
ドロップに地竜の鱗が数枚出て、これと鉄鉱石を混ぜて鍛えると丈夫な刃物が出来ると解ったので、欲しい枚数ドロップするまで集中的にアースドラゴンだけを狩ることにした。
階段の踊り場は安全地帯なのだけれど、ここまで下りてこれる冒険者が少ないとはいえ人が居る以上は安全とも言えず、幌馬車を出しての泊まり込みになった。幌馬車を出したのは階段から5kmほど離れた岩陰で、結界を二重に配置して見張りを立てる野営スタイルをとる。食材は豊富に備蓄してあるので、2か月以上は籠っていられるだろう。アースドラゴンのリポップがおよそ1日なので60アタック以内に100枚出てくれれば嬉しい。




