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勇者たちの御守り

 カードを新しくしてから個人的な素材集めを優先していて、ちゃんとした依頼を受けたのは3週間も経ってからだった。もっとも、その間も常時依頼の素材は納めていたので、お金にも余裕があったし、同業者に目を付けられることも無かった。

 受けた依頼は軍からの個人指名(ユーミ宛)の物で、勇者の付き添い? 引率? そんな微妙なものだったけれど、断ることが出来ないので仕方なく私一人で受けることにした。


 盗賊の討伐に残ったメンバーは、あれからも魔物狩りなどに引っ張り出されて経験を積んでいるらしい。そう依頼書にある以上は遠慮なく監視役に徹しようかと思う。


「えーと。聞いているのより多いのはなぜでしょうか」

「依頼書の通り、5名の面倒を見ていただきたい。ただ国にとって重要な方々なので、護衛兼回復師として1名の同行者を用意している」

「分かりました。とりあえず出発しましょう」

「出発は良いのだが、弓を間違えてはいないだろうか」


 この前の偉い人が一緒に来ていて、私とそんな会話を交わすに至った。彼らの監視役としてだけでは無く、私の実力確認として同行者を連れてきたようだ。

 今日の装備は遠・中距離用の短弓(ベアボウ)錬金仕様(材質強化)の矢を携えている。傍から見ればその辺の狩人と変わらない装備に、がっかりと言うより不満があるようだった。空間収納(ストレージ)には超遠距離用の化合弓(コンパウンドボウ)も入れてはいるけれど、まず使う事は無いだろうしそんな事態に遭遇などしたくはない。

 更に、アリスには今回お留守番をお願いしている。彼女のスキルをこの国ではあまり見せたくはないので、回復師が来てくれたことは幸いだと思う事にした。


「バックアップだけならば、これで十分です。装備に文句があるのでしたら、依頼をキャンセルなさいますか? ペナルティーは甘んじて受けますよ」

「いや、そこまでする必要はない。彼らを無事に連れて帰ってきてくれれば、問題は無いのだからな」

「ハットリさんでしたっけ、出発しましょう。あなたがリーダーなんですから、指示をお願いしますね」

「あぁ、了解した。まずは森の入り口まで、いつもの並びで移動しようか。ユーミさんは騎士の方と殿(しんがり)をお願いします」


 最初から躓いた感は否めないのだけれど、見張りが1名だけだった事を良かったと思うしかないだろう。ただし自信の無さが前面に出ている彼らを見ていると、手を出さずに帰ってくることは難しそうだと思えてならない。


 ぞろぞろと徒歩で向かう道中、すぐ前を歩く水島裕子(みずしまゆうこ)が話しかけてくるようになった。同じ年頃の女性同士という事もあるだろうけれど、女性ながら被弾の多い前衛職からどうやら外れたいらしく、なにかアイデアは無いものかと聞いてくる。

 彼女のジョブは素手喧嘩(バーバリアン)。バーバリアンって野蛮人とかって意味だったかと思うけれど、当然ながら言葉や行動がそうだとは見えない。発現しているスキルに無手、突進、剛力を持っているそうで、籠手(ガントレット)と軽鎧を纏っただけで超近接戦(殴り合い)をしているのだとか。


「無手のスキルがあるからと言って、武器無しは厳しいでしょ。教えてくれている人は格闘戦の人なの?」

「それがね、そういった戦い方をする人って軍には居ないらしいの。だから見様見真似と言うか、見た事のある格闘技をイメージしている感じかな。城には騎士が多いからだと思うけど。あの人たちにとっては剣を振れてなんぼって感じだから、私たちの除け者感って半端ないの」

「コンドーさんだっけ? 前の方を歩いている大きな盾を持っている人」

「うん。近藤君がどうしたの?」

「あそこまで大きくなくても良いから、彼みたいに盾を持ったらどうかな。併せて短槍(シュートスピア)とか戦斧(バトルアクス)なんかを持つの。扱いにくいなら戦棍(メイス)みたいな鈍器でも良いと思うよ」

「それって良いのかなぁ」


 良いも悪いも、平和な世界から来た女子高生に魔物との肉弾戦を望む方がどうかしている。スキルはあくまでも動作補正の有無程度の物で、それ自身に縛られる必要など無いはずだと思っている。

 実際、冒険者に適した戦闘系スキルを持つ八百屋のおやじとか魔術系スキルを持つウェイトレスの知り合いだっているし、その人たちが劣っているかと言えばそんなことは無い。努力さえすれば人並み以上には成るのだし、それこそ努力が実を結ぶのなんて当たり前すぎる事だろう。


「あなた達が戦闘職から外れられないのは聞いているけど、その中でやりたい事や希望するスタイルなんかがあるなら、やってみるべきだと思うよ。私だって、弓だけでなく短剣も扱えるように訓練しているし」

「そうだよね。戻ったら用意してもらえるよう頼んでみるよ」


 一緒に歩いている見張り役の騎士は、私たちの会話が聞こえているだろうに口を挟むことはして来なかった。「用意しましょうか?」って事くらい言えないのだろうかって、少しばかし腹が立った。いっそ、「その背中の盾を寄こせ」と言ってやろうか。

 森に着くまで戦闘になることは無く、斥候(シーフ)御園晃(みそのあきら)を先頭に数歩離れて私たち集団が歩く形で、ゆっくりと森に分け入っていく。索敵範囲は私の方が広いようなので、私の方から進む方向を指示しておく。

 およそゴブリンなら5匹まで、オークやボアは2匹までに絞ったおかげで、半日以上も森の中に居たにもかかわらず掠り傷程度ですますことが出来た。


「ユーコさんは戦い方を変えるべきです。今のまま前に出ていても戦力になっていません。仮にコンドーさんと一緒にタンクへ据えたとしても、アタッカーであるハットリさんとユキナさんだけでは火力が足らないままでしょう。ミソノさんも索敵範囲が狭いので、先制攻撃が厳しいとなるとミソノさんも遊撃での火力を上げる他ないかと思います、メンバーの入れ替えを検討されては?」

「それは無理なのです。あの日、先に帰されたメンバーはもう居ません。僕らも知らないうちに戦場に連れて行かれたそうで、今どうしているのか情報も入らないのです」

「それなら役割の見直しと、装備の変更を早急にしないと死にますよ」


 この森の魔物で手に余るようならば、戦場に出て行くことなど出来ないはずだ。そこにはオーガの上位種でさえ下級と言われるほどに強い魔物も、それを操る魔族も居るのだから。




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