野営の足しにしよう
その後さらに1度の休憩を挟んで、早めに最初の野営地点へと到着した。ここは街道に面して少し開けていて、キャラバンの重要な野営地として認知されている。魔物の数が少ない事と丈の低い草が茂っているので、見晴らしの良い点でも見張りがし易いそうだ。
間隔を空けた広めの三角形に荷馬車を配置し、その中で火を熾したり横になったりするスペースを確保する。見張りは荷馬車の御者台等から外を警戒することで、危険の早期発見に努めることになる。
「ユーミは私らと見張りのローテーションに入って。最後にしてあげるから、早めに寝るんだよ。相方は私だからね」
「はい。よろしくお願いします。今からちょっと離れて良いですか」
回復役のソランさんから指示を受け、少し隊から離れる許可を貰う。
ソランさんはお花摘みだと思っているのだろうが、ピョコピョコとウサギが見え隠れしているので狩るつもりだ。
御者台から幌の枠に腰かけ、弓を構えれば周りの視線が集まってくる。視線を気にすることなく狙いを定めて続けざまに2射。更に別の方向に2射矢を放ってから地面に飛び降りる。元々の運動神経はあまりよくない方だったけれど、レベルが上がった事もあってこの程度の芸当は余裕でこなせるようになっていた。
「何かを仕留めた、のかい?」
「ウサギを。2羽もあればスープの具に足りるでしょ」
「じゃぁ、一緒に行ってあげよう。捌く必要があるだろし、念のために護衛としてね」
重騎士だけあって一番体格の良いボーズさん。禿頭で顔に傷があるのだけれど、目が小さくて愛嬌があるから怖さはあまり感じない。同行を申し出てくれた厚意を素直に受けて、手分けして拾いに行って血抜きをしてから野営地に戻る事にする。
「噂に聞いてはいたけど、すごい腕前だね。あの距離で見えているんだよね」
「半径で500mちょっとならば気配を探れるんです。あとは遠見のスキルで見て探す感じです。ボーズさんは捌くのが上手ですね。私ではこうは行かないですよ」
「田舎の出だからね、子供のころから慣らされた仕事だよ。それより見張りの件は申し訳ないと思っているよ。王宮のメンバーからも出しては貰うけど、今回の昇級対象は特別扱いなんだとさ。見た感じ貴族のお坊ちゃん方でも無いようなんだけどね。なんかの箔付けなんだろうか」
「付き添いのナタリーさんとはちょっとした知り合いなんですが、どうやら勇者様らしいですよ。彼ら」
「あぁ、前線に出す前の対人訓練なのか。昔は罪人なんかを相手に殺しの練習をしていたらしいけど、最近は鉱山奴隷が不足しているからなぁ」
魔物には獣型と人型がいるけれど、それ以外に魔族という者が存在する。魔物の人型とは比べようもないくらい人間に近い容姿を持ち、知能も恐ろしいほど高くて残忍かつ狡猾だそうだ。そういったモノたちを相手にしなければならない勇者は、対人戦闘でも躊躇うことなく殲滅できるように訓練すると教えてもらった。
もっとも、魔族全てが敵対する存在なのかは何とも言えない。狡猾で残忍なのは人間の中にもいるからこそ、冒険者である私にも同じ試練が課せられているわけだし、視点が変われば善悪などすぐに逆転するものなので、「悪しき存在だ!」なんて声高らかに叫ぶ者がいたら、そんな狂信者は避けて通ろうと思う。避けて通れない今回は除くけれど。
きれいに剥いだ皮はよく洗って持って帰り、被服店で冬用のミトンにでも仕立ててもらうことにしよう。肉はブツ切りにして、乾物だけのスープに入れてプチ贅沢をしてしまうのだ。
がっつり食べるならば冒険者サイドの6人で分けるのだけれど、つまらない諍いは避けたいので王宮サイドにもお裾分けをしてもらう。仕留めた私が行くのが筋かもしれないけれど、そのままボーズさんに配ってもらった。奴らに声を掛けられても面倒なだけだしね。
明るいうちに夕食を済ませて焚火は消してしまう。寒い時期ではないし、明かりが欲しければ高価ではあるけれど魔石のランタンも用意してある。戦闘になれば照明弾のように光の魔法を打ち上げれば事足りるのだそうだ。
ソランさんの指示に従って、馬車後方のすぐ脇でマントに包まって横になる。火は消したけれど星明りが有るので真っ暗闇とはならず、なんとなく人が横になっているのが見て取れるくらいだ。王宮サイドの女性陣はナタリーさんの他に勇者が4名いて、どの子も十代後半に見えた。その4名は馬車の中で寝るのだと、しばらくゴソゴソしていて漸っと静かになった。
ナタリーさんは早々と私のすぐ後ろにある荷馬車に入っていったけれど、別段示し合わせた訳でもないので声はかけなかった。




