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第6章.王国の滅亡

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50/60

50.幼馴染が封印されたのですか?

 浮遊大陸から魔法陣の上に乗って再び魔王城に戻ったエマは、竜の姿のウェンディと共に目を見張った。


 魔王城の玉座の間が、魔族に占拠されている。皆それぞれに魔王城から目ぼしい衣装や宝飾品を盗み出していた。ほとんどがガーゴイルだ。


「ウェンディ!」


 エマが指を掲げて叫ぶと、魔族は一斉に逃げ出した。竜の力を知っているのだ。ウェンディは力の限り息を吸い込むと、再び吐き出した。


 閃光。


 魔族は灰になって消えた。


「うそ……いつの間に魔族が」

「ここは危険です。勇者様、まずはどうなさいますか?雑魚は私が即殲滅させますので、お好きな場所へ行って構いません」

「場所ね……王都がどうなっているのかを知りたいけど、その前に旅立ちの準備をしないと」

「はい」

「まずは仲間よ。アンドリューとミリアムを探さなきゃ」

「仲間、ですか?」

「そう、私の幼馴染なの。信頼出来る戦士と魔法使いよ。きっと知恵を貸してくれるわ。……でも王都へ行ったきり、会ってないのよ」


 ウェンディが嫌な予感に表情を曇らせる。エマもお察しとばかりに肩を落とした。


「そうですか。とにかく今は、旅路の準備をしなければ……」

「そうね。食料や装備を整えないと」


 二人は気を取り直し、玉座の間を出た。階段を降りてまっすぐに厨房へ向かうと、何やら奥でガサガサと音がする。


 ウェンディとエマは厨房の壊れた扉から、そうっと顔を出した。


 食料棚がガーゴイルの集団に荒らされている。それを見て驚いたエマがかたん、と扉に足先を打ち付けると、彼らが立ち上がってこっちを見た。ばっちりと目が合う。


「あ」


 ウェンディが再び竜に変身した、その時。


「どけえええ!」


 厨房の向かい側にある勝手口から、アンドリューが駆け込んで来た。ガーゴイルは咄嗟に攻撃を仕掛けたが、彼の流れるような剣さばきでバスバスとなぎ倒されて行く。


 一瞬の出来事だった。


「ふーっ。さーて、メシメシ……」

「アンドリュー?」


 聞き覚えのある声に、筋肉戦士が振り返った。


「あっ、エマ!帰って来たのか、早かったな」

「ねえ、ミリアムは?」


 エマの問いかけに、アンドリューは沈痛な面持ちになる。


 重苦しい空気が立ち込め、エマはおろおろと目を泳がせた。


 勇者の前に、いつもミリアムの胸で光っていた勲章が無言で差し出される。


 エマは恐ろしい予感に冷や汗をかき、顔をこわばらせた。


「……実は」


 アンドリューが言いにくそうに、しかし決心したように告げる。


「ミリアムは……この中だ」


 時が止まった。


「……はい?」

「ミリアムは、この勲章の中に封印されている。見てみろ」


 エマは差し出された勲章を見つめた。


 太陽のような形の勲章。中央に、半円球の透明な宝石がはめこまれているのだ。


 その宝石の中に、小さな小さなミリアムが、何か言いながら内側から宝石を叩いている。


「ほ……本当だ!!」

「俺も、まさかと思ったぜ。王から与えられた勲章が、まさかこいつを封印するとは」

「ど、どういうこと?」

「これは憶測だが……勲章は優れた兵士に贈られる」


 エマは口を押さえた。


「で、王が魔族だとすると」


 そんなことが、あっていいのか。


「魔族からすると、優秀な奴なんかいなくなってもらいたいわけだ。恐らくこの類の勲章を貰った奴は、今軒並み勲章の中に封印されてると思うぜ。ま、アレだ。俺たちは目立って優秀ではなかったから、封印を免れたんだ」


 アンドリューは自嘲気味に笑った。


「勇者装備はクソ仕様だったし、忠誠を誓った王は魔族だし、勲章も己を封印させる術具であった、と。まーったく、俺たちって何だったのかね?騙され利用され……結局国は滅びるしよぉ」


 皆、何も言えず下を向く。


 が、エマは前を向いた。


「まだ、間に合うわ」


 アンドリューも顔を上げる。


「ミリアムは死んでいない。国だって、人がいれば立て直せるわ。それにアンドリュー。あなたは魔王城に戻って、何かやらなければならないことがあったんじゃないの?」


 戦士はようやく我に返った。


「ああ、そうだ。ミリアムを出してやる方法を探しに来たんだ。魔王なら、何か知ってるんじゃないかと思って……」

「今すぐ図書館へ行きましょう。封印を解く方法が、きっとあるはずよ」

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