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第6章.王国の滅亡

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48/60

48.王国が滅びたのですか?

 ウェンディに乗って浮遊大陸に着くと、早速エマとウィルはテオドールの執務室に案内された。


 テオドールは二人を迎えると、落ち着かない様子で立ち上がる。


「二人とも、これを見てくれ」


 彼はさっと執務室の端まで走ると、うやうやしくある籠を引っ張り出して見せた。


 籠の中には、ふかふかの綿花。


 それをそっと手でよけると、中から大人の拳大の卵が現れた。


 エマは目を見張り、ウィルは片眉を上げる。


「……可愛いだろ!」


 テオドールが籠に頬擦りする。


 エマとウィルはぽかんと呆け、ウェンディは痛々しそうにかぶりを振った。


「……まだ、出て来ていないので何とも」

「何てことを言うんだエマ!……これは君の子供でもあるんだぞ!?」

「はぁ……」

「そろそろ出て来るんだ。ほら、ここを見てみろ!」


 エマはでれでれのテオドールが指し示す卵の箇所を見る。


 そこには小さな穴が開いており、口先らしきものが見え隠れしていた。


「!!」


 エマは声にならない叫び声を上げた。


 卵の中に、竜がいる!


「子竜はこれを破って出て来るのだ。本当ならば、私がこじ開けてもいいのだが」


 おほん、とウェンディが咳払いをする。


 テオドールは肩を落とした。


「……と、このように、うるさい奴がいるので何も先に進まん」

「テオドール様。ここで甘やかすのは、親の態度ではありませんよ?子竜は自分の力でちゃんと出て来ます。お子様を信じて下さい」

「ぐっ……まあいい。とにかく今日、出て来るはずなのだ」


 エマは再び卵に顔を近づけた。


 直接産んだわけではないが、血を分けた子供。


 エマはどきどきと胸を鳴らし、同時に少し後ろめたい気持ちでウィルを振り返った。


 ウィルはどこか斜に構えたように腕を前に組んでこちらを眺めている。


「ウィル、あの……」

「ふーん」

「えっと……」

「可愛さなら、こっちも負けてないけど?」


 エマがぽかんと口を開けていると、おもむろにウィルがシャツをはだけた。


 テオドールとウェンディが「おーっ」と声を上げる。


 ウィルの背中に、赤子の顔がある。


「初めて見ました。これが一万年に一度の、魔王の分裂……」


 ウェンディの声に反応したのか、赤子がひっそりと目を開ける。


「ほう、もうだいぶ大きいな。あとひと月といったところか……」


 テオドールは立ち上がり、ウィルの背に回った。


「……お互い」


 テオドールはそう言ってから、ためらうように口をつぐんだ。


「いや、こんな時にこんなことを頼むべきではないのかもしれないが」


 族長は改まった態度で続けた。


「二人とも、しばらく浮遊大陸ここにいてくれないか。エマを少しの間だけ、貸して欲しい」


 ウィルは黙ってシャツをかき寄せると、族長を振り返った。


「産まれた瞬間に、母の顔を見せてやりたいんだ」


 静寂がおとずれる。


「母……」


 ウィルのその一言に、その場にいる全員が胸を締めつけられるような気がした。彼は重い口で続ける。


「……いいだろう。少しだけなら、な」


 エマは歩いて行って、慰めるようにそっとウィルの側に佇んだ。テオドールはそれをどこか羨ましそうに眺めてから、卵に慈しむような視線を落とす。


 殻の割れ目から、ちろちろと竜の舌が出入りしている。割れ目は徐々に拡がって行く。


 新しい命が誕生するのだ。


「……となると、この竜は何を食べるんだ?」


 ウィルが気を取り直すように、素朴な疑問を竜族にぶつける。ウェンディが答えた。


「何でも食べますわ。竜は雑食ですの」

「でもこの竜、人間に変身もするんだろ?」

「ええ。けれど子供の内は、竜の姿のままですのよ。物心がついてくると、人型に変身出来るようになりますの」

「へー。なら便利だな。魔王の子のように、母乳を飲まなくてもいいのだから」


 それを聞くや、ウェンディが問う。


「母乳……」

「魔王の子にはそれが必要になるのだ。しかしエマからは出ないので、ミルクに頼ろうかと」

「……そ、それは私、存じ上げませんでしたわ!」


 ウィルは怪訝な顔になる。ウェンディの目はきらきらと輝いていた。


「そうと聞けば、じっとしていられません。ウィルフリード様とエマ様のためにも、我々科学班が限りなく母乳に近いミルクを作らなければ……」

「……ウェンディ?」

「魔王と勇者様の危機は我々の危機にも繋がりますもの!竜族の化学力を結集して、最高のミルクをお作り致しますわ!」


 ウィルとエマはウェンディの圧に目を白黒させていたが、ありがたい申し出に二、三度頷いた。


「本当?助かるわウェンディ」

「任せて下さい。これも、世界を救う活動の一環ですから」


 それを聞き、テオドールが静かに座り直す。


「話がまとまったようだな。ちょうどいい、みんなそこに座ってくれ」


 兵士らが持って来た椅子が差し出され、魔王と勇者は座った。


「そういうわけで、我々は今、赤子を抱え、かなり弱い立場に立たされている。そこでだ。互いに知恵を持ち寄って、魔族に対抗して行こうではないか」


 エマは頷き、ウィルは黙している。


「まず、伝えなければならないことがある。先頃、エマの住んでいたギルモア王国が魔族の手に堕ちた」


 沈黙。


「……え?今、何て」

「だから、エマ。ギルモア王国が、魔族に占拠されたのだ。王国は滅びた……知らなかったのか?」


 エマは椅子からふらっと落ちそうになり、咄嗟にウィルに支えられた。


──それでは、王は?父や母の村は?


(嘘よ……じゃあ、王国へ調査に行くと言っていたミリアムとアンドリューは、どうなってしまったの……?)

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