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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第十一章 南は

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0221.新しい討伐隊

 ルベルは、魔獣の討伐隊に組み入れられた。


 魔装兵は、魔力の強さや(おさ)めた魔術の学派によって、能力が大きく異なる。

 科学文明国の軍隊のように、陸海空軍で部隊の役割毎に同一階級の兵士全てが、同じ武器の扱いを修得し、同じ技能を持つように訓練される訳ではない。魔装兵個人の能力を考慮し、必要に応じて作戦毎に所属を変えることさえあった。



 今回の作戦で集められたのは、ルベルを含めて七人だ。

 呼称と能力を述べるだけの自己紹介を終え、今はマスリーナ港へ向かう艦上で魔獣の説明を受ける。


 「……五日前、調査団の航空カメラマンが撮った写真だ」


 湖の民の隊長が、資料の中から大判の写真を抜き出し、机の中央に置いた。

 焼け跡に点々とコンクリートの建物が残る。マスリーナ港は一応、入港できそうだ。


 隊長がボールペンで、街区のひとつを指した。隊員たちが机に身を乗り出す。

 街区ひとつ分が赤黒い。

 隊員が首を(かし)げ、様々な色の髪が同時に揺れた。

 赤毛のルベルも何やらわからず、隊長の眼を見る。


 「これが、今作戦の標的だ。能力の詳細は不明だが、長い触腕(しょくわん)を持ち、ビルの残骸などをへし折った……と報告書にある」


 「何匹居るんですか?」

 黒髪の隊員が質問した。

 首に()げた徽章(きしょう)は【飛翔する(タカ)】学派。

 挿絵(By みてみん)

 彼自身も戦えるが、術で一時的に武器や防具を創り出し、味方を補助するのが主な役割だ。魔物の能力や数に応じて(あらかじ)め準備すれば、それだけ安全、確実に仕留められる。


 ルベルは魔獣を数えようと、再び航空写真に視線を落とした。

 数え終わる前に、隊長が短い答えを寄越す。


 「一頭だ」

 「……えっ?」


 ルベルは思わず顔を上げ、隊長を見た。質問した隊員が写真と隊長を見比べる。


 ……聞き間違い、だよな?


 「一頭だ。空襲犠牲者の遺体を喰らい、実体を得て魔獣となり、生存者をも喰らい尽くしたのだろう」

 隊長は声に悔しさを滲ませ、詳細を語った。


 ……街区ひとつ分って……冗談だろ?



 魔物は、一般的に異界の生物を指す。

 それが何かの拍子で、この物質界に(まぎ)れ込むことがある。


 迷い込んだ当初は肉体を持たず、存在の希薄な幽体として夜を漂う。

 この世の生き物を喰らうと、この世での「存在」が増し、幽体が密度を上げ、濃くなる。

 そしてついには、肉体を得るに至る。


 肉体を得て、この世で安定したモノを「魔獣」と呼ぶ。

 魔獣には、この世での寿命や成長に制限がない。魔力を持つ生物やその死体を喰らえば喰らう程、寿命が延び、肉体も大きくなる。つまり――



 魔装兵ルベルは唾を飲み込もうとしたが、口がカラカラに乾いて叶わなかった。


 「こんなの、どうやって倒すんですか?」

 「何か凄い作戦があるんですか?」

 「俺たちだけで戦うんですか?」

 「武器は……」

 動揺した隊員が口々に問いを発する。


 隊長は、六人の部下をひとりずつ見て答えた。

 「別の艦も現地へ航行中だ。マスリーナ港で合流。水軍部隊との共同作戦だ。武器は【魔哮砲(まこうほう)】を使う」



 今回の戦争で、初めて実戦投入された新兵器だ。

 その名は、ラジオなどで何度も耳にするが、新聞や雑誌などに写真は載らず、軍内でも見た者は少ない。


 報道が事実なら、開戦当初の二日間を除き、アーテル・ラニスタ連合軍の爆撃機を全て撃墜した。

 強力な新兵器を使うとの言葉で、隊員に安堵と期待感が広がり、場の空気が明るくなる。


 魔装兵ルベルは哨戒任務などで、もう何度もその威力を目撃した。


 ルベルは【索敵】の術で、遙か彼方の敵機をも(とら)えられる。

 その情報を【刮目(かつもく)】の術と、声を届ける魔法の道具【花の耳】で、【魔哮砲】の操手と前線の艦長室に伝える。

 どんな訓練を積んだのか、【魔哮砲(まこうほう)】の攻撃が外れるのを見たことがなかった。


 ネモラリス共和国の国民として、一軍人として、【魔哮砲】の威力を頼もしいとは思う。

 ただ、この間こっそり見た【魔哮砲】の姿を思い出し、何とも言えない気持ちになった。

☆参照調査団の航空カメラマンが撮った写真……「0200.魔獣の支配域」参照

☆今作戦の標的……「0184.地図にない街」「0185.立塞がるモノ」「0200.魔獣の支配域」参照

☆その名は、ラジオなどで何度も耳にする……「0137.国会議員の姉」参照

☆報道が事実なら(中略)爆撃機を全て撃墜した……「0168.図書館で勉強」参照

☆この間こっそり見た【魔哮砲】の姿……「0154.【遠望】の術」「0157.新兵器の外観」参照

 挿絵(By みてみん)

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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