0113.一階の拾得物
いつの間にか、左隣の廃墟の前に瓦礫の竈があった。
「窓や入口に近いと、煙たいからな」
メドヴェージがにやりと笑った。
薬師のねーちゃんが魚を獲り、パン屋のレノが手際良くホイルで包んで、魔法使いの工員クルィーロが熾した【炉】の火で焼く。
少年兵モーフには、探し物くらいしかできそうにない。
いや、それも自信がない。
さっきも、部屋の探索で隊長の刃物探しを手伝ったが、小さな鋏一丁しかみつけられなかった。
モーフは、焼魚をもそもそ頬張りながら、自分と他の者たちの働きを比べた。
ピナの妹は、床に散らばった物や、抽斗やロッカーを漁り、何か食べ物らしき物を次々と花柄の紙袋に入れた。
アマナはクルィーロと一緒に何か探し、衣類を持ち出した。
ピナも、何かに使えそうな紐や袋を集め、レノはこうして給湯室から必要な物を探し当てた。
「坊主、お前、意外と掃除が上手ぇんだな」
もう食べ終えた運転手のおっさんは、何が楽しいのか、笑いながらモーフの背中を叩く。
モーフはそれに応えず、焼魚を食べ続ける。
……その掃除だってそうだ。
魔法使いのクルィーロが、水を操って細かなガラス片を片付けてくれた。薬師のねーちゃんが言う通り、箒では完全に取り除けなかったのだ。
食後、玄関ホールに荷物を運んだ。改めて、ここで手に入った物を確認する。
給湯室だけでも、結構な物が手に入った。
開封済みの紅茶が一箱。中にはティーバッグが七個あった。スティックシュガーは、百本入りの未開封が一箱と、バラが十一本。
プラスチックのコップが一人一個ずつで十個。アルミホイルは、新品二巻と使い掛け一巻。小さいビニール袋一束もあった。
事務室三部屋からは、カッターナイフ三本、予備の刃が一箱、鋏が大小合わせて六丁。
膝掛け七枚、手袋片方。
麻紐一巻、ビニールテープとガムテープが二巻ずつ。丈夫な紙袋が三枚。
食べ物は、個別包装の飴やクッキーなどが、合わせて三十一個もみつかった。
放送局の番組ロゴ入り布袋が三枚、ビニール袋に包まれた状態で出て来た。
「景品の見本だったのかな」
高校生のロークが、言いながらロゴ入りの買物袋を開封する。
ソルニャーク隊長が立ち上がった。
「そろそろ他の階も見て回るか。その間に他の物を分けておいてくれ」
買物袋にカッターを一本ずつ入れ、少年兵モーフとクルィーロに渡す。二人は立ち上がって受け取った。
「お兄ちゃん、早く帰ってきてね」
「あぁ、同じビルだし、すぐだよ。すぐ」
クルィーロが、アマナの金髪をくしゃりと撫でた。
「お気をつけて」
薬師のねーちゃんが三人に声を掛ける。
ビル内の様子を見に行くだけだ。みんなに見送られ、モーフは複雑な気持ちになった。
クルィーロが廊下を歩きながら、右の部屋の戸を閉めた。
「窓、割れてるから。寒いだろ」
その言葉でモーフは小走りに進み、隣の部屋の戸を閉めた。
一番奥の部屋は、倒れた棚が戸口で支える。三人掛かりで動かして、やっと閉められた。
……一階だけでも、あんなに食い物があったんだ。こいつは期待できそうだ。
少年兵モーフは、カッターを上着のポケットに入れ、足取り軽く進んだ。
階段室の窓ガラスは割れたが、侵入防止の鉄格子は無事だ。その向こうに駐車場が見える。車はどれも焼け焦げ、殆ど原形を留めない。
掃除用具入れの横の戸を開けると、狭い廊下が伸びる。角まで進んで顔だけ出すと、小部屋と通用口が現れた。
「そっちは警備員室だろう。先に上の階だ。外は後で確認しよう」
隊長に呼ばれ、モーフは慌てて引き返した。
クルィーロが箒を一本、手に取る。
……掃除? 何で?
だが、クルィーロは箒を上下逆さにし、柄尻で階段を一段ずつ叩き始めた。
「何してんだ?」
モーフは思わず聞いた。




