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凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ 【書籍6巻作業進行中、書いてて凄いたのしかったです、読者の皆にはごめんね】  作者: しば犬部隊
指名依頼”上級探索者、遠山鳴人捜索任務”

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40話 ハ!カ!タ!のソルト! そして、探索の全う。

 


「あは…… ぁ、あ、良い」



 夕焼けに染まる病室、病衣に包まれたしなやかな肢体が近づく。



「いや、だから質問に答えろ。お前マジで誰だ。なんでアシュフィールドの貌で笑ってんだよ。マジで怖いんだけど」



 恍惚、アレタ?の整った貌が、一気に溶けるように表情を崩す。



 長い手指が、白い貌を覆っている。



「あ、はぁ…… ねえ、なんで、なんでえ、分かったの、この子と私、何が違うのぉ」



「黙れ、マジで誰お前。こっちの質問にまず答えろよ。やべ、ほんとに怖いんだけど」




「すごいなぁ…… 全部、同じなのに、貌も声も仕草も言葉も、身体も同じなのに、ねえ、あなた、貴方によく似たあなた…… あなたにとってこの子はなんなの?」



 ダメだこりゃ。



 味山は一向に話の噛み合わない存在を前に本気で焦り始めていた。



 ナースコール、ナースコールだ。アシュフィールドの部屋なのに、別人がアシュフィールドヅラして寝転がってやがる。



 味山が後退りしながら部屋の隅にあるボタンを押そうとーー



「あは……」



「は?」



 身体の動きが止まる。呼吸だけが辛うじて行える、それ以外はダメだ。足が動かない。この不審者、なんかやばい。


 味山がいくら身体に力を入れようともピクリと、ピカリと痙攣するだけだ。



「あ…? おい、お前……何した……? 身体動かないんだけど」



「あは…… ねえ、教えて、何が違ったの、私とあたし何が違うの? あなたは貴方なの?」



「話が通じねえな、この不審者! おい、アシュフィールドをどこにやった?! あんまアイツに舐めたことしないほうがいいぞ! マジで怖いんだからアイツ!」



「……あの子ならもう、いないよ」



 その女の眼が味山を舐めつける。は? こいつ今なんて言った? 味山が目を見開いた。



「いないの…… あの子は誰にも気付かれなかった。だから、消えた」



「訳わかんねえことダラダラ喋りやがって…… あのヤンキー娘がそう簡単にくたばる訳ねえだろうが! ぐ、うおおおお、ナースコールウウウ!!」



「あは、無理だよ、あなたは動けない。現象固定、"#〒1♪$$"」



 女の口が高速で何かの文言を紡ぐ。言葉、である事だけはわかった。しかし、聞き取る事も推測することも出来ない。



「ちょ、ちょちょ、お前、これ、ホント分かんない。なんで俺動けねえの?」



 女がベッドから立ち上がり、動けない味山に近寄る。火照ったほお、みずみずしい小さな唇。



「あは…… 似てる…… あの人もたまに同じ顔してた…… ねえ、私を見て」



「うおお、こいつホント人の話聞かねえ!! おい! アシュフィールド!」



「なあに?」



「お前じゃねえわ!ボケ! アシュフィールドを呼んでんだ!おい!アシュフィールド! お前こんなわけのわかんねえ奴に好きにされるような奴じゃないだろ!」



 味山が目の前の女、アレタ・アシュフィールドの身体に向けて叫ぶ。



 はだけた病衣から白い陶磁器のような鎖骨が覗く。味山がそれから目を晒す。



「あは……かわいい、照れてるの?」



「怖くて目えそらしてんだよ。アシュフィールドにバレたらどんなペナルティがあるか」



「ううん、きっと、あの子は怒らない。あなたに肌を見られてもあの子は怒らないよ」



「それを決めるのは絶対にてめえじゃねえ。おい、俺に近づくな…… 来るな!」



 味山が叫ぶ、しかし女は紅潮した頬を緩ませるだけだ。



「く、……来るな……」



「あは…… 似てる……その黒い髪…… 栗色の瞳。短い手足に、分厚い胸板…… うふふ、怒った貌もかわいいなあ」



 動かない。身体の芯、手足の先にまで鉄の棒で串を刺されて固定されたようだ。食塩の袋を抱えた間抜けな姿のまま味山は固まる。



 瞳だけは動く、アレタの白い貌、切れ長の瞳に浮かぶ暗い海色の瞳。それが熱に浮かされているように緩む、味山を見る。




「はあ…… ァ」



 深い女の匂い、脳の芯を麻痺させる花か果物に似た匂いが味山の脳に満ちる。



 身体が、熱い。アレタ・アシュフィールドの貌で、その女は、女の貌をしていた。




「あは…… この子のほうが身長が高いのね…… 抱きしめてあげれるね」



「くるな……触ったら、殺す……」



 見下ろす女、見上げる味山。



 触れたくなる玉のような白い肌が、ピンク色に表す。


 薄い病衣が、しっとりした汗で張り付き、アレタのしなやかな肢体のラインを映した。



 互いの吐息がかかる距離で、女と凡人が見つめ合う。女はどこまでも蕩けた貌で、男に欲情を向ける。男は、殺意を込めた目で仲間の身体の中に巣食う女を睨んだ。




「誰も気付かなかったこの子に、あなただけが気付いた。なんで? ねえ、なんで……私とこの子、何が違うの……?」



「へ、そんなもん簡単だ……」



 味山の台詞に、女が首を傾げる。その仕草もアシュフィールドのものだ。



 味山はその女が、アシュフィールドの仕草をすることが許さなかった。






「アシュフィールドのほうが100万倍美人なんだよ、ブス」



「………あは…… かわいい」



 それが、凡人の精一杯の抵抗だった。蕩けそうな脳みそを頰の内側の肉を噛みちぎって気付けで堪える。



 口の中はもう血だらけになっていた。




 長い手指が、味山の頬を撫でる。その女に触れられた部分が熱を持つ、溶けてしまうような錯覚を覚えた。



 まるで、皮膚を通じて、もっと、もっとその奥、身体の奥底にあるものに触られている感覚。



 やばい、やばい。これ、ヤバい。ダメになる奴だ。



 アレタの超絶美人顔が、惚けてこちらに向けられている。くそ、これだから無駄に顔の良いヤツはダメなんだ。



 女の目が閉じられる。貌が、味山に近づく。顔を逸らそうとしても、その両手に頬を固定されていて、動けない。



 魂に触れられそうな魅了。凡人にそれに抗えるような器はなくーー



 アレタの唇が、味山の寝起きでカサカサの唇に重なろうとーーして。





「……タダヒト……」



「っ!?」



 止まる。止めた。止まった。



 夕焼けの中、重なる男女の影の動きが止まる。


 向けられた唇が、一瞬止まり、味山を見た。


 味山は聞いた、仲間の必死の叫びを。



 いる、間違いなく、この中にアシュフィールドはいる。




 味山にはとても抗えようのない大いなる存在の誘惑、しかし、仲間の声を聞いた。


 アシュフィールドも戦っている。そりゃそうだ、あいつが好き勝手にされるだけの訳がねえ。


 義務がある。


 仲間の助けの声を聞いたからには、言い訳は出来なかった。




「了解、アシュフィールド」





 味山は確かにアレタの声に返事をした。安心するかのようにアレタの瞳が閉じられ、またすぐに欲情を映した瞳が開かれる。




「……あは…… 邪魔者が入ったね。すごい、まだ身体を取り戻そうとしてるんだ…… あなたがあの子に気付いたから、あの子も頑張ったんだーー」



「おい、ブス」





「……あは、口悪ぅい…… そんな唇はふさいじゃお……」



 再び近づく女の唇。触れればきっと柔らかいそれに向けて、味山は嗤った。




「言ったよな、触ったら殺すって」



「あは、やれるもんなら、やってみてよ……」




「了解、ブス」




「えっ」



 余裕と欲情しか映していなかった女の瞳が、今日初めて驚きを映した。



「う、ふごおおおお、ぬぎいいいい!! おい! クソ耳!! 仕事の時間だ、起きろオオオオオオ!!」



「うそ…… なんで……」



 ぷるぷると震えながらも、味山の腕が動き始めていた。



 女が、一歩、後ずさる。



 それをみて、味山が口角を吊り上げた。探索の時に良くする人の悪い笑い、人相悪く嗤った。




「あっはぁ!! お前、びびったな!! おい、お前え! びびったよなぁ?!!」



 唇の端から血が流れる、噛み潰した頬の内側、唾液が染みる。




「クソ耳!! 仕事の時間だ!! 俺に、使われろ!!」




 TIPS#//€ "耳no大#@Riキを使用……!



 プシっ、味山の耳たぶが裂けて、赤い血が夕焼けに染まる病室に飛び散る。




 関係ねえ。味山は叫んだ。その力の名前を。己の探索者道具の1つを。





「"耳の大力"を使用する!!」




 ぶちぶち!! 身体の中で何かが引きちぎれる、その瞬間、味山の動きを縛り付けていた見えないナニカがはじけた。



 動ける。味山が腰を落とし、身体を傾けながらおんなをにらみつけた。



「うそ…… あ、ああ……すごい、貴方……そのにいるの?」



「おい、お前…… アシュフィールドから出て行け、アシュフィールドを返せ」



「あは…… いいよ、やってみてよ…… でもこの身体を傷付ければどうなるか、わかってるよねえ……」



 女が笑う。余裕綽綽のその貌に味山は唾を飛ばしながら叫んだ。




「うるせえエエエエ!! 身体をのっとる系の能力者のあるあるをドヤ顔で言ってんじゃねえええ! ドブスが!!」



 パン!!



 味山が両腕を大力を持って振るう。



 戒めの解けたその身体、その腕が向かう先は、女……




「え?」



 ではなく、祖父からの仕送り、TIPSとガス男が持って行けと伝えていた食塩の袋。


 ハカタソルトの袋を味山が勢いよく潰し、開いた。




「え?」



 目を丸くして、味山の奇行を見る女、そしてその目はさらに驚愕によって大きく見開かれる。



 味山が、破けた袋に手を突っ込み、握り込んで、




「悪霊退散じゃァァァァ!! オラぁ!!」




「ッキャアアアア?!!」



 サァン!!! 勢いよく振りかぶられた腕、握り込まれた塩が夕焼けに反射して煌めいた。



「ッイタ!?! イタイ!! 目!! 目に入った!!」



「オラ!! 塩食らえ! 塩!! 出て行けええ!! この悪霊があああああ!!」



 味山が女に向けて握り込んだ塩を投げつける。サァン!! サァン!! 大力によって投げ振られるその塩が床に散らばりパチパチと音を立てる。




「ちょっ?! あなた?! これ、何、イッタアアアい!!や、やめて!」



「うるせえエエエエ!! このニセフィールドがあああああ!! よくアシュフィールドを殺ってくれたなあああ!? 弔いじゃあああ!! あっくりょうたいっさん!!」



「い、いや!! まだ……まだ、死んでなーー」



「ぐちゃぐちゃ喧しいんじゃこの、ドグサレがああ!! 人の身体に乗り移るとかややこしい事してんじゃねえ!! 物理で来い、物理で!!」


 サァン!! サァン!



 味山がひたすらに女に向けて塩を撒き、いや投げつけ続ける。



 女が思わずしりもちをつき、体勢を崩した。




「オラぁ!! さっさと滅べ!! アマ公!!俺に光を!! 悪霊を、妖怪を滅ぼす力を!!」



「イタっ?! 待って、なんかほんとに変、身体が…… 私の光が……小さく……? なんで」



 女が塩をぶつけられながら、呆然と呟く。何かに気づきハッとして顔を上げた、そこにーー




「グダグタうるせえエエエエ!!」



「ぺっ?!」



 しゃあああん!! 振りかぶった味山の腕から放られた塩が顔面に直撃する。



 女がその勢いに後ろにこけた。




「あ、はは、あはははは!! そうだね! 思い出した!! 日本!撒き塩! 貴方言ってたね!! よくないモノに撒いたりするって!! あはは、面白い! ニホンでも同じなんだ!! あは! 置塩とかもあるんだよーー」



「はよ消えろやあああ、悪霊があああ!! ナニダラダラ喋っとんのじゃ!! ゴラ!」




「あーー」



 スパァン!! 



 仰向けになり笑う女の貌に叩きつけられた塩、ハカタソルトが今日一番の良い音を奏でた。



「ーーは…… アジ…山只人…… 見つけた…… あなた……貴方な……」




「喋んな!ドブスが! 悪霊退散!!」



 ズサあああ。



 袋に残った塩、袋をひっくり返し直に笑う女の貌に降り積もる。



「……ァ」



 蕩けた表情、それが何か別の表情に変わる瞬間、塩がそれを隠した。




 かぁー、かぁー。



 窓の外、海ガラスの声が呑気に響く。沈む夕日が顔面を塩で埋められた女と、食塩の空袋を握りしめ、肩で息をする男をオレンジ色に染め上げた。





「はあ、はあっ、はあっ…… これがハカタソルトの力だ」




「……ケホっ……… ケホっ」



「っ、この野郎!! まーだ息があるか!!」



 味山は床に散らばった塩を掬おうと、しゃがみ込みーー



「ストップ!! ストッープ! タダヒト!! ストップよ! ケホっ あたし! あたしよ」



「あ?」



 起き上がる。塩の山が崩れて、整った白磁の肌、蒼い瞳に飾られた小さな顔か左右に振られた。



「ぺっ! ぺっ! カラっ!! うぺっ、ああ、当分…… 塩分の強い食事は控えないといけないわね…… 半年分の塩を味わった気分だわ」



 女が…… いや、違う。



 味山は塩を掬うのをやめて、その声を見つめた。



「アシュフィールド?」



「ぺっ、ぺっ…… なあに、タダヒト」




「あ、アシュフィールド……お前、お前なんだよな?」



「うえ、カラっ、唇にもまぶりついてる…… ええ、そうよ、正真正銘、あたし。……よく気づいたわ…… いや、違う、気付いてくれたわね」



 女が、アシュフィールドが笑った。と、いつもの顔で、彼女にしか出来ない照れ笑いのような、安心したような、顔で笑った。




 血の色に変わる夕日が2人を照らす。



 海ガラスはどこにいくのだろうか、遠く遠くから、その声だけが病室に届く。



 回る世界の中、味山とアレタが2人しかいない病室で見つめ合う。




 そして、アレタが頬をかきながら一度味山を見て、一度、目を晒して、そしてまたもう一度こちらを見て、笑った。





「ただいま、タダヒト」




 その声、その声こそ、味山がたどり着いたものだった。



 数多の選択、出会いを経てようやく掴んだその言葉。



 味山は知らない、この胸にこみ上げてくる安心、安堵、後悔、それら全てが混じり合った感情の出所を。知る由も、なかった。



 でも、この言葉をようやく言えた。



 ようやく、言えたのだ。





「おかえり、アシュフィールド」



 そして、床に座ったままのアレタに手を貸そうとーー











「アレタ!! 悲鳴が!! 何があったんだ……い……?」



「センセイ!! 病院走っちゃダメっす……よ……?」




 ガタン!!


 自動ドアを力づくて開いたソフィとグレンが叫びながら言葉を詰まらせた。




「あ」



「あら」





 部屋に広がる無数の小さな白い粒、投げ捨てられたハカタソルトと書かれたビニール袋。



 夕焼けに染まる部屋の中、はだけた病衣姿で塩塗れになっている美女と、肩で息をしながら美女に手を差し出している男。





 空気が止まり、誰も動かなかった。





 だが、しかし、ソフィとグレンは同時に全く同じ言葉を。






「「どういうプレイ?」」







 味山はうんと頷いて、とりあえずクスクス笑い始めたアレタに手を引いた。



 手のひらを握る。思ったよりも柔らかい。



 それに驚きながらも、部屋を見廻し、この惨状をどう説明すればいいのかを考えて、2秒くらいで諦めた。




 もうめんどくさいからアシュフィールドに任せよ。



 味山は諦めたように笑って、ソフィとグレンを迎え入れるようにドアを振り向く。




「何はともあれ、これでアレフチーム全員帰還だな」




 ソフィとグレンは、何かやばいモノを見たように味山から顔を背ける。



「ふふ、タダヒト、バカね」



 手を繋いだまま、アレタが背後で笑う。



 まあ、もうそれだけでいいか。


 味山は細かい説明を諦めて、投げ捨てていた食塩の袋を拾い、ゴミ箱にきちんと入れた。




 ハカタソルト、そう書かれた透明なビニール袋が夕日を照らし返す。



 それはとても、綺麗なものに味山には見えていた。





読んで頂きありがとうございます!


宜しければ是非ブクマして続きを午後午後が午後から午後午後#//#$$$€$$















見つけた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 誤字? 「すごい、貴方‥‥‥そのにいるの?」 そこにいるの? その中にいるの?  どっちかな? [一言] 面白い。
[良い点] これがOHARAIかあ・・・ [一言] 病室に横たわる女の顔に特大の盛り塩、最悪な絵面が完成しちまう
[良い点] ほーん、なるほどね? オープンワールドの某ヤンデレさん見てたおかげでギリギリ致命傷だったぜ(トラウマ再発)… (´・ω・)<作者様のヤンデレとても魅力的なので楽しみにしてます 以前書い…
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