95話 祭りだ! あじやまのゆめ
……
…
〜?きっと&/$¥、&あじや/まのなか?にて〜
夜、暗闇。上を見上げれば満点の星空。
ぱち、ぱちり。ぱきっ。
はじまりの火葬者が熾した焚き火から、火の粉が舞う。
火が暗闇をぽっかりと食い破る。穏やかなせせらぎとフクロウの鳴き声が満ちる静かな渓流の夜。
そこに、彼らはいた。
「キュキュマー!! キュキュ!!」
「ぼおう! ぼおおおおう!」
「いとおかし」
河童と小さな猿とガイコツが、それぞれ切り株の椅子に腰掛けながら、映写機から映される空に広がる映像を見て声を上げる。
「キュキュキュキュ! キュキュキュマ! マー!」
最近の彼らのマイブームは味山鑑賞。味山が夢の中に現れるまで彼らはこうして、味山只人を鑑賞する。
「ぼぼぼぼ! ぼう!」
ガス男が後ろで金曜ロードショーのアレみたいに映写機を回し、"神秘の残り滓"達がそこに集まってそれを見て楽しむのが流行っていた。
『メシが、まずい』
映像の中、味山只人がバカなことを言い始めた。
がたり、みんな切り株のイスから立ち上がる。
キュウセンボウが、短い手を振り乱し騒ぐ。よほどたのしいのだろうか、ポップコーンがボロボロ溢れる。
「キュキュー!」
先ほどまでいじけかけていた味山に直接文句を言いに行ってやると勝手に顕現しようとしていたのが、嘘みたいに映像にかじりつく。
「うむ、それでこそニホン男児よな。あのまま拗ねておったらもう2度と力なぞ貸しておらなんだ、うむ、美味い」
もっちゃ、もっちゃ。
蘇、と呼ばれる乳製品を鬼裂が食べながら、うんうんとしたり顔で頷く。ガイコツなので表情は変わらないが。
そもそもお前、ガイコツのくせにそれ食ってどうするんだ、とは誰も聞くことが出来なかった。
「ぼうぼう、ぼあう」
はじまりの火葬者、名前をジャワと名付けられたそれが手を叩いて喜ぶ。木のコップに入った黒く、しゅわしゅわする飲み物が彼のお気に入りだ。
「おっと、けむくじゃら、いや、ジャワよ。こーらが溢れとる。黒もや男がまた怒るぞ」
「ぼあ?! ぼう、ぼぼう!!」
ジャワが身体をびくりと震わせ後ろを振り返る。
「ジャワ、気をつけておくれよ。コーラはベタベタする。この後すぐにドラム缶風呂に入るんだ、それにキュウセンボウ、ポップコーンをこぼしすぎだ。食べ物を大切にしないならもう君にお菓子はあげないよ」
「キュ?!!」
「ぼおう……」
後ろで、手回し式の映写機を回すガス男がジャワとキュウセンボウを嗜める。
ちゃららあん、ちゃらららーん。なんとも言えない穏やかなbgmとともに、ゆっくりゆっくりガス男の回す映写機。
煌めく光が、せせらぎ満ちる夜の渓流に味山劇場を映していた。
「いや、それにしても今回は中々に焦ったな。東條とか言ったか? 貴崎の家の者に撃たれた時はもうダメかと思ったぞ」
「キュキュ! キュッキュッ、マー!!」
キュウセンボウが短い手足をバタバタ動かし、水かきで自分を指さす。
あの時俺を出しておけば良かったんだ、そう言わんばかりに。
「ははは、キュウセンボウ、そんなに無茶を言ってはいけないよ。キミの力は中々に使い所が難しい、あの場面でキミを引き出しても打開には繋がらなかったろう」
「キュキュー……」
がくりと肩を落とすキュウセンボウ、そんな彼の肩をけむくじゃらの指がトントンと叩いた。
「ぼ、う♪」
それはものすごいドヤ顔だった。唇が捲れ上がり形のよい歯茎はにっこりと。
え? 俺の火はそのあと大活躍だったけど? 見てた? すごい火力だったしょ? やっぱ俺の火を使う味山が一番映えるわー。
そんな顔だった。
「キュマー!! キュぁキュ!!」
「ぼっぼっぼ」
キュウセンボウが頭の皿から煙を吹き出す、ジャワが人差し指にぼうっと火を灯し、チッチッチ、と指を振る。
短い手足のマスコット達が取っ組み合いを始める。
「ああ、こらこら、マスコット2匹よ。大妖怪に人の好敵手ともあろうお前達が無闇に争うな、明るくなった後に相撲で決着をつけよ、相撲で」
鬼裂が蘇を食べ終わり、マスコット2匹に声を掛ける。
映像は続く。
鬼裂はそれを見て笑った。
それでいい。お前はそうして目の前の感情を尊び、それを目指すだけでいい、そうすればーー
「さすれば、今度こそお前は辿り着けるさ、味山只人…… む、今のは、なんだ? 俺は何をーー」
鬼裂が、自分の頭蓋骨をさする。烏帽子の下の頭蓋骨には脳みそは入っていない。
なのに、今、何かとても懐かしいものを感じたようなーー
『探索者に必要なものを知ってるかーー』
映像の中、味山只人が嗤いだす。ああ、その顔になれたのならもう大丈夫だ。お前は必ず戦い続けることが出来る。
確信めいたものを感じる鬼裂、椅子から立ち上がる。
「おや、鬼裂、どこにいくんだい? まだ劇場は終わっていないが」
「ふん、あやつがあの顔になったのなら答えは出た。勝ったろう、風呂入ってくる」
「ははは、なるほど。お風呂はもう沸かしているんだが、その前に彼らの喧嘩を止めてはくれないか?」
キュキュアー! ぼぼーう!
静謐な渓流の夜にマスコット達の声が響く。
偉大なる2つの存在。
音に聞こえし西国一の大親分。
そして鬼より河童より、いや、もしかすると天照やイザナギなどの大神よりも前の存在、大いなる火葬者。
「キュキュ!! キュパー!」
「ぼおおおう、ぼう!」
くちばしから冷たい水を吹き出し、手のひらから花火のように火を吹き出してそれを受け止める2匹を見ているととても、そんな存在には思えない。
「……はあ、静かな夜なのだがな。おうい、キュウセンボウ、ジャワ、その辺にしておけ、黒もや男が怒るぞ」
「キュー……」
「ぼーう……」
互いに、だってこいつが。みたいな顔をするキュウセンボウとジャワ。
鬼裂が首を横に振ると、すごすごと2匹とも素直に自分の椅子に戻る。
ガス男がその様子を見て静かに笑う。
鬼裂はふと、立ち止まり、ガス男を見つめた。
自分や、キュウセンボウ、ジャワ、そして耳とかいう化け物。
それらはみんな、味山という男の中に取り込まれた存在だ。
食事、移植、方法は数あれど最初から味山の中にいたわけではない。
「キュキュ…… キュッキュキューン……」
「だめだ、キュウセンボウ。明日までポップコーンはお預けだ」
「……ぼーら……」
「コーラもだめだ、ジャワ。身体がベトベトな上に喧嘩までするから砂利まみれじゃないか、お風呂に入り、歯磨きするまでコーラも禁止」
映写機を回しながらマスコット2匹に説教をするガス男を鬼裂が見つめる。
では、こいつは?
こいつは、一体、いつから味山只人の中にいる?
そしてーー
鬼裂がガス男のことについて何か、違和感に気づく。
それは言語化出来る、あともう少しの瞬間、それははじまった。
『Q3000の超てんさいてきな頭脳だ』
『ひっひっひ、なあ、おい。気合い入れろよ、キュウセンボウ、鬼裂、ジャワ、ガス男、そして』
嫌な、予感がする。
鬼裂が、キュウセンボウが、ジャワが、びくりと動きを止めた。
ガス男だけが、ただ、ゆっくり映写機を回し続ける、淀みなく、ただ、ずっと。
『クソ耳』
ぞわり。
キュウセンボウが、瞬時に頭の皿に水を張り巡らせる。
ジャワが全身の毛を逆立たせ、両手に猛々しい火を灯す。
鬼裂は腰から太刀を引き抜き、呪血式を身体に構築させた。
『ジャワ、火借りるぜ』
「キュ?」
「ぼ?」
「な、に?」
彼ら、神秘の残り滓達をもってしても、彼らの主人、凡人探索者のその行動は理解を遥かに超えていた。
ジャワの手元の火が、仄暗く、そして明るい星空に昇っていき。
『う、ぎゃああああああああああ?!!っ!! 死ぬううう、あついうういいいいいいい』
「ばかか、アイツは」
映像の中の、味山只人が火に、包まれた。
キュウセンボウもジャワも、くちばしと口をあんぐり開けてその映像に見入る。
そのあまりの馬鹿げた行動に、彼らは一瞬忘れていた。
なんのために、戦闘態勢に移ったのかを。
「おみみだよ」
「は?」
ざばり、渓流の水、それが不自然な音を立てた。
同時に、焚き火の火が届かぬ闇の中から、声がした。
「おみみだよ」「おみみだよ」「おみみだよったら」
「「「おみみだよ」」」
耳。
大きな耳に、でっぷり太ったこどもの身体。
ざぱり、ざはり。
渓流から、それが這い出た。
「キュ」
「ぼ」
「おい」
思わず、神秘の残り滓が、それらをみて声を漏らした。
ぱち、焚き火が跳ねる。
暗い耳穴の奥、火の明かりは届かない。
「「「おみみだよおおおおおおおおおおおおおおお」」」
「キュキュッアーー?!!!」
「ぼおおおおう!?!」
「馬鹿な、なんだ、こやつら?!!」
一斉に、クラウチングスタートの後、走り詰めてくる耳達。
おののき、叫ぶ、キュウセンボウを、ジャワを、そして鬼裂を、その怪力で捻り潰そうとーー
「無理だね、本体でもないただの耳糞風情が。彼らに敵うはずもあるまい」
ガス男の声。老人のようで、こどものようで、青年のようで、壮年のようで、少年のような、男の声が渓流に混じる。
「キュア!!」
「おび、おびひびびび?!!」
体当たりをかましてきた耳に対してキュウセンボウが先にとびかかる。
小さな身体で耳穴にはりつき、そのまま振るうは濡れた水かき。
九千坊の尻子抜き。耳穴から赤い濡れた何かをずるりと引き抜く。またたくまに、耳が萎み、ぱたりと倒れる。
「ぼおう」
「お、みみ、みみみみみ、みいいいいいいいい」
辺りが一気に明るくなる。朝が来たかと思わんばかりの光量。
ジャワを狙った耳、その醜い身体が一気に燃えた。赤々と猛る火はまたたくまに耳を包み、そして飲み込んだ。
はじまりの火葬者。星の光よりも明るく、耳を薪にして闇を照らす。
「面妖な」
「お、み?」
鬼裂になぐりかかった耳、その勢いのまま、鬼裂に迫り、そして立ったままの鬼裂と、すれ違う。
ぱたん。次の瞬間には一対の向かい合わせだった耳はぺらりと離れ、真っ二つに泣き別れた。
チンっ、火の明かりを受けてその刃が闇夜の中、煌めき主の下へ納められる。鬼裂が、斬った。
「化け物はお前だけだと思ったかい? 耳。彼らは味山只人が選び、そして味山只人を選んだ神秘達。お前の耳糞程度に遅れをとるはずがないだろう」
ガス男が、映写機を回すのを止める。
「お前は、味山只人を奪えない。彼らがここにあり続ける限り、味山只人はお前にはならない」
「キュウウウウ!!」
「おみみ!」
「ぼう、ぼおおう!」
「おみみなんだ!」
「わらわら、湧いてきおって…… 風呂の時間が遠のくわ」
「おみみん!」
渓流から続々湧いてくる耳。3体の神秘達は何一つ臆することなく、その耳を迎え撃つ。
「ええい、訳のわからん! 黒もや男! 簡潔に説明しろ!」
「ふむ、映像を止めてしまったからね。すまない。簡潔に言えば味山只人が賭けに出たようだ。よほど君たちを信じているのだろう」
「きゅ?!」
ガス男の言葉に、キュウセンボウが耳から尻子玉を抜きながら叫ぶ。だから要するになんだ! と言っているふうにも見える。
「ああ、キュウセンボウ。こう言えば伝わるかな。君たちがここで負ければ味山只人はもう2度と人間には戻れない。その化け物、耳に飲まれて消えるだろう」
「ぼう!」
ジャワが、4体目の耳を消し炭に変える。その火は耳を前にしてより一層勢いを増していた。
「その通りだ、ジャワ。キミの言う通り、キミたちがここで耳を全滅させれば完全にこの力は味山只人の制御下に置かれる、君たちこそが、味山只人の唯一にして最強の切り札なのだ」
その言葉に、鬼裂が笑いを返した。
平安でかなりのヤンチャをかましていた最恐の男にはそれだけで充分、理解できたのだろう。
「制御、く、ははは! そういうことか、黒もや男! これは、味山只人の戦か! あやつ、本当に大馬鹿よな! そのイカレ具合は頼光の化けジジイがおればさぞ喜んだものだろうよ!」
鬼裂の刃が3体目の耳を切り裂く。その刃の冴えは衰えない。鬼狩り、怪物狩りの刃は、怪物の血を吸えば吸うほど鋭くなる。
「ああ、ふ、ふふふ」
鬼裂の言葉に、ガス男の身体、その輪郭が震えた。
そして、顔のない、黒いもやがそれでも笑った。
「ふふふ、はははははははははは!! あはは! ぎゃはふひ、にひ、すひ、ぶほ、ほほほ、うへはははは! 鬼裂! キミの、まったくキミの言う通りだ! これは、予想してなかった!! ああ、ああ、それでこそだ!! アイツ、本当にイかれてやがる!! 味山只人、キミは全く、最前にふさわしい!! そうでなくては! そうでなくてはならない! ああ、良い。本当に期待できるというものだよ! 今回は!」
突然、気の狂ったように笑うガス男の様子に神秘達の動きが止まる。
キュウセンボウも、ジャワも、そして鬼裂も。
きっと、同じことを感じた。
ガス男から、あの男の気配を。彼らの伝承を再生させた凡人、彼らに敬意を払い、食し、そして語り合った。
彼らの友人の姿に、この姿のないガス男がどうしてもーー
「きゅ」
「ぼう」
「ああ」
神秘達が、笑う。
まだまだ湧いて出てくる耳達。それと戦う神秘達。
それはまるで、祭り。
神秘達が、3人頷き合う。
「黒もや男!! お前も参ぜよ! そこでただみているだけか」
「キュ!」
「ぼう!」
「え?」
「祭りだ! 勿体なかろう! 我らの友人! その晴れ舞台ぞ! 踊れ! 騒げ! 見ているアホより、踊るアホウだろうよ!」
鬼裂が、耳を斬り払い、ケタケタと骨を鳴らす。
「日本人ならな!」
その言葉、ガス男の輪郭が、また揺れた。
「……………ありがとう鬼裂」
.
パチン。
指が、鳴る。
ガス男の指パッチン。
そして、
ゥヴヴヴヴヴヴヴヴヴ。
ゥヴヴン。
「ぼ?」
「きゅ?」
「え?」
「チェーンソー。化け物退治にこれほど相応しい武器はないだろう。本番に備えてのリハーサルだ。耳糞とはいえ、耳。お前はいい練習台になるだろう。ふむ、チェーンソーを持ったガス男、これはもうつまりチェンソーマーー」
「おみみ!」
1匹の耳が、大きく跳躍する。
星空に、耳がばたばたと羽ばたき、ガス男の元へ一気に落ちていく。
ブオオオオオオオオオオオオオオオ!!
「みみみみみみみみみみみみみみみみみみ?!!」
振り上げられたデンノコが、耳をバラバラに引き裂く。
溢れる臓物は、パーティークラッカーのように弾けた。
「うん、最後まで言わなくてよかったかもしれないな。さあ、偉大なる神秘の残り滓達! 味山の切り札にして親愛なる友人たちよ、祭りを! 我々の! いや、間違えた、味山只人の祭りを始めよう!!」
ゥヴウウウウウウウウウウウウン!!
星空の渓流、河童が暴れ、原人が燃やし、鬼狩りが刃を振るう。その祭りの中に、チェーンソーを振りかざすガス男が参加した。
「あやつ、あんな性格だったのか」
「きゅ」
「ぼ」
神秘の残り滓達の呟きは、やかましいデンノコの音に塗りつぶされていった。
彼らの祭りが続く限り、味山只人に負けはない。
彼らは、若干そのやかましい電動音にひきつつも、友人のために化け物ひしめく祭りのなかに再び進み始めた。
アジヤマこそこそ話。
*鬼裂が食べた乳製品は呪血式の応用で骨に吸収されるよ! カルシウム!
読んで頂きありがとうございます!ブクマして是非続きをご覧ください!
<苦しいです、評価してください、たくさん読んでたくさん感想くれてありがとうございます、前は見てます。みんな神。> デモンズ感




