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特典と装備購入

「お待たせしました」


 そう言いながら聖加室へロンリルが入ってくる。


「あなたへの登録も無事に終わりましたので、特典を伝えさせて頂きます」


 どうやら世界中の教会で情報を共有する作業もしていたとカンベルから教えて貰う。

 そんなことよりも特典が気になる。無料でご飯が食べられるのかな?


「まず一つ。二十日間の教会の使用。つまり無料での寝食の提供です」

「やった」

「おい!教会を潰すつもりか!?」


 ごちゃごちゃ煩いカンベルの脛を蹴って黙らせる。重要なことなのに、取り消されたらどうするのかな。


「こ、こいつ……」

「カンベル、騒がしいですよ。彼女も怒るのも解ります」

「で、でもよ」

「これは決定したことです」


 そう言われたら逆らえないのかカンベルが黙る。本職と特典神官の立場もあるのかもしれない。


「次に無料での浄めの泉の使用許可及び、治慈院での治療費の半額免除です」

「浄めの泉?」


 治慈院のことは知っている。聖精教会が運営している治療を行う場所。簡単な切り傷から精霊術を用いた手術。高額だけど、四肢の欠損修復も行える施設。そんな治慈院があるのは知っているが、浄めの泉は聞いたことはなかった。


「浄めの泉は身体から不浄を取り除いてくれる泉です。毒は治慈院での解毒も行えますが、浄めの泉の方が効果は高いですね。また、呪い系は泉の方が確実です。まあ、特典の泉は我々神職が利用する方が対象ですね」


 聞けば泉は各教会に二ヶ所あら、片方は住民に有料で提供している。もう片方は神職が毎日の朝と夜に利用する場合とのこと。

 神職が穢れた存在ではいられないので、二ヶ所作っているとの説明を受ける。いずれも効果は同じなので、特典者は朝と夜の御祓の時間以外なら無料で神職用を使っても良いとのこと。もし御祓の時間に使用する場合は有料になるそうだとも注意を受ける。そんな狙ったように利用することはないだろうから、基本無料と覚えていたらいい。


「最後に神官長の一部権限の行使が許可されました。そこの神官権限を持っているカンベルより立場は上ですね」


 カンベルより上と言われて嬉しい。なんかカンベルの悔しがる顔が見れて嬉しい。

 神官とか神官長とかは興味ないからどうでもいいんだけどね。流石に特典で全権渡すことはしないみたいだね。


「こいつの部下……」


 やはりカンベルが悔しがっている。


「特典の確認は各教会で行えます。ただし、犯罪を犯しますと特典は当然剥奪させて頂きます。加護はそのままですが……」


 どうやら犯罪しても加護が消えないのが悔しいみたいだね。でも、神様自体から贈られるものだから一方的に無くす事が出来ない。特典は教会が加護者との繋がりを良くする為の物。いわば賄賂。犯罪者との繋がりは損害になるので、特典剥奪もすぐに行う。


「んじゃ、どうする?今日はこのままここで泊まるのか?」

「あ、そっか。宿探さないでもいいんだ。…………でも、買い物もあるし宿にも泊まってみたいかな」


 宿の方が美味しい物あるとカンベルが教えてくれたしね。


「よかったー。なら、さっそく買い物行こうぜ」

「なんでそんなに急ぐの?」

「暗くなったら動きにくいだろ」

「まあ、そうかな」


 ロンリルを置いて二人で話す間も、カンベルに手を引かれて教会の入口に向かって歩いて行く。

 急ぎ過ぎじゃないかな?


「ほら、何買いたいんだ?俺が案内するぞ」

「んー、あ」

「お、何か思い付いたか?」


 違う。そのまま教会から出て気付いた事がある。


「待って」

「ん?なんだ?」


 カンベルは気付いてない?確かに見えにくくはなったけど。


「精霊……」

「あ?精霊?」

「ん。ね、私に着いてきたいの?」


 私の周りを一つの精霊が舞っている。その精霊が私の目の前で止まり、左右に揺れる。


「違う?んぅ、そう?いいの?」


 流れてくるイメージ。それは他の契約している精霊たちと同じ絆。どうやら契約(家族)になりたいみたい。

 世界中のいたる所にいる精霊は分布の偏りはあるものの、基本的に何処にでもいる。

 共に長い間生活したり、遊んだり、精力を上げれば稀に契約することが出来る。私が契約した精霊たちもいずれか二つは行っていた。

 精霊は一で全。全で一の存在らしく、契約するとその属性の精霊がいる場所ならばどこでも友好を深められる。個々の精霊は生まれた場所か心地の良い場所からはあまり離れないが全で一の存在なので、どこでも恩恵を受けられる。

 今目の前にいる精霊も居場所が教会にある。着いてくることはやはりないみたい。ただ、契約はしたいとのこと。


「ほとんど遊んでなかったんだけど、いいの?」


 他の精霊とも遊んでいたのに、着いて来たのはこの精霊だけ。それだけ気に入られたのかな。


「ありがとう。じゃあ、私と家族になろう」


 精霊の意思を受けて、精霊を胸に受け止める。

 精力を組み上げて胸に集める。この時、精霊の格に釣り合うだけの精力を渡さないといけない。ただ、《精霊遊技》があるので他の人よりもその負担は軽減される。さらに早速《森羅万象の加護》の恩恵が現れる。契約にも効果が表れるのか、普段以上に負担が少ない。


「ふぅ。これからよろしくね」


 無事に精霊との繋がりが出来上がった。家族との絆と私は言っている。

 新たに家族になったのは《光精霊》。どこにでもいるけど、《風精霊》などより少し格が上の精霊。

 向こうも繋がりを確認したのか、最後に一周舞ってから教会へと入って行った。


「契約したのか?」

「うん」

「そんなあっさり。やっぱ精霊に愛されてるんだな」


 契約って難しいことなのかな?私は今までこんな感じだったけど。そう言えばファエルはまだ契約出来てないって嘆いてたような?


「んじゃ、買い物に行くか。何が欲しいんだ?」


 思ったよりも時間が経っていたようで、日がかなり傾いてきている。カンベルもそう思ったのか、精霊の話から買い物へと話を切り替えた。


「んー、服の上に充てる防具と剣。あとは、解体に使えるナイフとか鍋」


 頭の中で整理しながら答えていく。

 防具に関してはどちらでもいいが、剣は買い換えたい。盗賊から貰った錆だらけの剣は切れ味があるいので、出来れば売って少しでもお金に変えたい。

 ナイフも餞別で貰った物があるが、質が良くなくすでに野猪を狩って歯零れしている。速攻でそんな状態にして悪いと思うけど、早いか遅いかの違いだと割りきる。最悪、食べて自分の糧にだって出来る。他に盗品にもナイフはあったが、宝石や細工彫りなどの鑑賞用ナイフでしかなかった。

 次に一番大切な鍋。ただ煮込むだけで素材が料理になる素敵道具。水を入れなかったら鍋底で焼けるし、深いので沢山入れて炒めることも出来る。移動で調理道具の数も限られるので鍋は万能道具なのだ。あとは、木の匙とかがあれば言うことない。


「そんなら先に鍛冶師の元に行くか」


 カンベルが良く行く場所は質はそこそこで、値段が安い場所みたい。さらに、鉄鍋なども扱っているらしい。


「武器はもっといい物を扱っている場所もあるがどうする?あと三日したら月一の大市が開かれるから、掘り出し物狙いなら大市がオススメだがな」

「んー、とりあえず明日の依頼もあるから。安くても剣一振りと鍋かな」

「防具よりも鍋か。ほんっとにブレないな」

「ご飯は大事」


 でも大市も気になる。武器や素材なら《鑑定》を使えば情報が解るしね。でも、商人はみんな持ってるのかな。

 《鑑定》を手に入れるまでは、一つずつ野菜の状態を観察したり、食関連の技巧がない時に食べられるか調べたりと結構大変だった。

 しかも初めて見る植物は食べられるか不明だったので、とりあえず食べて美味しいか調べたりなんか普通にしていた。何度か毒で苦しんだけどね。


「お、見えてきたぞ。彼処が俺が利用する鍛冶店だ」


 居住区とくっついている感じで、店側の方が小さい。それでも、店内には何人かいるみたいで人気はある感じ。武器よりも金物にしかお客がいないけど、鍋には期待出来るね。


「ちは」

「……ん?カンベルか。お前、幼女を孕ませたってな。この鬼畜が」


 店内に入り、店員と思われる男性がカンベルに気付くなりそんな事を口にする。それを聞いてお客たちもカンベルへ冷めた眼を向ける。


「それは誤解だ!ほら、こいつがそう見えるか?」

「…………もう出産したのか?それなのに、すぐに連れ出すとは。出産に体力がいるのも知らないのか?」

「だから違げーよ!」

「嬢ちゃん大丈夫か?カンベルにキツいことされてないか?」


 店員が私に話し掛けてきたけど、流れが良く解らない。だから、適当に話を合わせておく。


「大丈夫。言葉はキツいけど優しいから。私はカンベルが好き」


 ご飯くれるだけじゃなく、案内までしてくれるしね。加護特典は私より下だけど。


「そうか。幸せにな」

「うん?うん、なるよ」


 やることをやりきったら、何時かは幸せになれれるかな。


「それで、何か入り用か?新居の道具か?」

「いい加減冗談はよせよ!」

「ちっ。お前のマヌケ面をもっと見たかったがな」


 よく解らないけど、店員とカンベルが仲良い事だけは理解出来た。


「それど、何か買いに来たんだろ?」

「ああ、こいつの買い物だ」

「嬢ちゃんのか。本当にどんな関係なんだ?」

「新人猟師と補助の関係なだけだ」

「なんだ、つまらん」

「おい!」


 私の事を忘れる位に仲が良いね。でも、そろそろ買い物したい。


「この剣売れる?」


 なので、二振りの剣を置く。もちろん盗賊が使用していた錆びて歯零れのある剣を。


「買い取りか。…………鞘はそこまで状態が悪い訳じゃないが、剣自体の価値はないな。素材としてなら買うが?」

「それでいい」


 お金になるなら何だっていい。お金があっても困らないし、あれば美味しい物を沢山食べられるしね。


「鞘二つで五百リンド。剣は合わせて……三百ってところか。ほら、八百リンド確認してくれ」

「うん」


 慎重に数えてきちんと八百リンドあることを確認する。それじゃ、買い物に移ろう。


「まずは安いけど丈夫な剣と、鉄鍋……大きいのと小さいのを一個ずつ。値段見てからだけど、解体も出来るナイフと鉈」


 鉈は木を伐ったり、物によれば骨を断つのに使えるかなと思った。ナイフも刃が長かったり、先が鋭かったり、刃が薄かったり色々あるので値段を見て何種類か買いたい。


「まずは剣か。安くて頑丈って言うがどんなのが良いんだ?」

「んー、片手で使えて軽いやつ」


 私が店員と話している間、カンベルはお客の誤解を必死に解いている。なんだか、噂がかなりの勢いで広まってるらしい。


「少し待ってろ」


 店員もそう良い、奥へと入って四振りの剣を持って出てくる。


「希望に合うのはこの四つだな。持ってみろ」

「うん」


 差し出された四振りの剣を順番に手に持って、誰もいない空間に向かい軽く降ってもみる。

 どれも軽く、持ちやすくもある。次いでに《鑑定》を使い状態を見てみる。


 【愚直な直剣】

 攻撃力:10 貴重度:一般

 説明:青銅を用いられて作られた一般的な剣。鈍器として活用できる。

 付与:なし


 【青銅の直剣】

 攻撃力:11 貴重度:一般

 説明:青銅を用いられて作られた一般的な剣。切れ味はそこそこ。

 付与:なし


 【白鉄の直剣】

 攻撃力:21 貴重度:一般

 説明:白鉄を用いられて作られた一般的な剣。美しい刀身に反して切れ味が鋭い。

 付与:なし


 【黒鉄の細剣】

 攻撃力:19 貴重度:一般

 説明:黒鉄を用いられて作られた一般的な剣。美しい刀身に反して突くことに特化した剣。

 付与:なし


「これ、いくら?」

「白鉄の直剣か。見る目があるな。それだと、四千五百リンドはするな」

「買う」

「んな、あっさり。いや、毎度」

「鉄鍋は?」

「ああ、それならそこに陳列してる中から選んでくれ」

「ん」


 お客がいた日常的な金物が陳列してある中に形や深さが違う鉄鍋も何種類かあり、大きくて深い鉄鍋と浅目で一回り小さい鉄鍋を選ぶ。どうやら木の蓋が付属しているみたい。近くには火箸と薄い鉄板。金網と金(ザル)まであった。あとは金物じゃないが、木の匙とお椀もありそれらを店員まで持っていく。


「こんなにか。完全に新生活って感じに料理関係だな。やっぱり二人で暮らすのか?」

「んー。たぶん」


 依頼中は二人で過ごす時間が長いから間違いじゃない。


「そうか。とっ、これら全部で、えーと、これとこれがだから……少し待っとけよ。…………よし、全部で六千二百八十。まけて、六千にしてやる」

「いいの?」

「おう。祝いだ」


 祝いってなんの祝いだろうか。でも、まだ買えそうかな。

 そう思い、大振りの鉈─骨も砕けるやつ─とナイフ二本─標準的なものと刃渡りが長く薄めの特徴的なもの─をこちらもオマケしてもらい一万リンドでの購入となった。


「えっと、じゃあ……」

「おいおい、お前が払うのか?旦那は?おい、カンベル!」

「なんだよ?」

「新妻が買い物するんだから、お前が出してやれよ」

「はあ?だから、それは冗談だって気付いてるんだろ?」

「はあ?だが、嬢ちゃんはお前と暮らすって言ってるぞ。さっきも好きって言ってたしな。そういうことなんだろ?恥ずかしくてはぐらかすなよ。嬢ちゃんが可哀想だ」


 私が何気なく言ったことが大事になってる?にいづまって、お嫁さんだったかな?まあ、冗談だと思うからいいや。


「子供の言うこと間に受けるなよ。なんだよ、どいつもこいつも」

「嬢ちゃんはこいつが好きなんだよな?」

「うん」

「で、一緒に暮らすんだよな」

「たぶん」

「お腹大きいって聞いたが、どうした?」

「もうすっきり。少し苦しかったけど、今は元気」


 さっきと同じ事を聞かれた。意味不明なことも聞かれた。


「嬢ちゃんは覚悟してるってのに、お前な」

「だから違うっつってるだろ。エー、お前はもうなんも言うな」

「むー」

「ほら、カンベル払ってくれ。嬢ちゃんに払わせる気か?」

「はあ?だってそれはそいつの買い物だろ」

「甲斐性みせろよ!」

「あー、うるせー!払えばいいんだろ払えば!」


 カンベルが怒りながらお金を机に叩き付けた。


「…………二千五百リンド足らん」

「ねえよ!これだってさっき落として来たんだぞ!」

「嬢ちゃん、この男で本当にいいのか?短気だし貧乏だぞ」

「カンベルでいい」

「そうか」


 店員が私に向いた時に、不足分を机に置きながら答える。なぜかカンベルが床に手を着いて泣いていたので、邪魔だったから蹴っておいた。


「お前、こんな子供の尻に敷かれてるんだな」


 最後には店員やお客たちにカンベルは同情されていた。よかったね。

 無駄に時間が経ち、結局防具は買えなかった。落ち込むカンベルに手を引かれながら、カンベルの投宿する宿で二人部屋に替えて貰い夕食を食べた後はそのまま眠った。宿での変更はカンベルが使い物にならなかったので、私が勝手にさせて貰った。夕食もね。カンベル、ごちそうさまでした。

 思ったよりも疲れていたのか、すぐに私は眠りに就いた。

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