聖精教会
「毒滋草の納品依頼と草原豚の納品依頼ですね。いずれも明後日正午までの期日ですけど、この二つの依頼をお受けすることで間違えはありませんね」
「うん」
狩猟協会で会員証を貰って早速依頼を受けてみた。難易度は最低の一。全十段階あるみたいで、最低難易度は村の生活でもやったことがあるようなお使いレベル。難易度三までは基本的に常時依頼かお使い的な内容みたい。ただ、難易度三からは魔物の討伐も入る。常時依頼は薬草採取や街周辺の害獣討伐や食材の納品が主。これら常時依頼は期日内に行えなくても違約金は発生しない。ただ、協会の信用度が減るとのこと。
「エー。依頼受けたのか」
「ん?カンベルさん。なんか疲れてる?」
「誰のせいだ、誰の。お陰でここの会長に怒られただろ。しかも、未だに納得してくれてねー」
「んー、残念だったね?」
「お前な……」
カンベルがどうして私を責めるような視線をするのかが解らないけど、そんなに迷惑な感じを受けてる感じでもないので良しとする。
「で、妻なら面倒はきちんと見れと言ってきやがったから、暫くは一緒に行動して教える事になった」
「面倒見てくれるの?」
「だが、飯は自分の稼ぎで食え」
「…………」
「なんか言えよ!俺はお前の財布じゃねー!」
「いいけど。お金なくても食べられるし」
「は?」
お金を払って美味しい料理を食べるのは重要だけど、無いならないで素材そのままの味を楽しめば良いよね。
あ、なら鍋とか買って茹でたり出来る用にだけでもした方がいいかな。たしか換金してくれるみたいだし。
「依頼受けたならさっそく行くのか? いや、あの村なら教会がなかったか?もし加護授かってないなら授かった方が良いな」
「加護?」
なんだか知らない単語が聞こえたので、換金所へ向かおうとする足を止める。
「ああ、知らなかったか? 聖精教会くらいは聞いた事あるだろ」
「うん」
聖精教会はこの世界を創造した大神である混沌神より始まり、陽光神、闇陰神、天上神、地母神、海父神の六柱を中心にさらに小神たちとその遣いである神獣や精霊が存在する。
私たちはその遣いである精霊と交信し、信仰と友愛と精力を以て力を借り様々な現象を発現している。精霊にも格の差があるみたいだが、神関連では最下位の格であり、故に人間やその他生物にその力の恩恵を一番与えている最も身近な存在。
魔物たちも精霊を使役しているが、文字通り力による強制的な使役。その為、決まった現象しか発現は出来ないみたい。ただ精力と恩恵、そしてそれを行使する知力が高いと現象は多岐に渡ると村で教えて貰っている。
そしてドラゴンは魔物よりも格のある魔獣に分類される。魔物としての格が上がれば魔獣というらしいけど、そこまで村の人たちも詳しくはなかった。
「加護ってのは、その人物に近い神様からの恩恵の事だな。種族や精神面で大体の方向は決まるみたいだが、中には複数の神様から加護を授かった奴もいる」
「……ご飯の神様いる?」
「いや、知らんわ。お前、本当に飯の事しか考えてないのな。まあ、ご飯なら天地海の何れにでも関連するだろ」
私だって、ご飯の事ばかり考えていない。ただ目先にあるのがご飯なだけ。お腹が空いたら動けないし、食べられる時に食べないといけないことはこの二年でしっかり学んだ。だから、まずはご飯。
「どれでも良いんだ」
なんか少し残念。珍しいのとかないのかな? 複数所持している人が珍しいだけ?
「ちなみに俺は三つ持ってる!」
「むー」
ここに珍しい人がいた。なんかその威張った笑顔を殴りたい。
「おうふっ」
「あ、つい」
お腹を殴ってしまった。だけどかなり鍛えられているのか、あまり痛そうじゃないね。
「その歳にしちゃかなり威力があるが、いきなり女の子が手を出しちゃダメだろ」
「うん、ゴメン。それで、どんな加護?」
「反省してんのか?まあ、俺がエーに着いてくならお前の加護を聞いちまうし教えてもいっかな」
そうして首から狩猟協会のカード……いや、もう一枚の白いカードを見せて貰う。
「こっちは狩猟協会のように一国じゃなく世界中の教会での身分証明に使える。加護はここに記載される。加護によって支援の内容が変わるみてーだな。俺なんて三つもあるからかなりの待遇だ、うらやましいだろー」
もう一度殴りたいけど、我慢してカードを眺める。加護の方が気になるからね。
「身体強化の加護? 風人の加護? …………幼女引力の加護?」
「最後のは見ないでくれ! まあなんだ、身体強化はそのまま身体能力が向上しやすくなる。風人の加護は疾走と風精霊の恩恵を受けやすくなる。最後は、そのよく解らん! 迷子の幼女とかよく見かけるけど、それは偶々だ!」
「ふーん」
加護って、固有技巧にある《森の寵愛》みたいな感じかな。貰えるなら何だって貰おう。
「なら後で教会に連れてって」
「…………反応薄すぎだろ。ああ、新人に教えろって言われてるからな。暫くは行動を合わせるわ。教育費出してくれるしな」
「??」
前後は口の中だけで発音していて聞こえなかったけど、知らないままより、色々教えてくれるならいいや。ご飯奢ってくれたし、やっぱり良い人だね。
「教会行く前に換金させて」
「ああ。んでも他国の金なんてあるのか?」
「ちょっと、いろいろ」
「村の餞別? いや、あんまり聞かない方がいいな」
カンベルを置いて、受け付け横の換金所のおじさんに声を掛ける。
「これ、この国のお金に換金お願い」
魚屋で使えなかった物と、荷袋にある硬貨を一通り渡す。この国のリンド硬貨も有るかもしれないけど、よく分からないから任せる。
「ああ、狩猟協会の会員になっていたな。会員証を渡してくれ」
受け付けの隣なのでさっき登録したのを見ていたのかな。
「そのまま振り込むか?」
「まず換金してから」
「それもそうだな」
おじさんが小さい荷袋に手を入れ表情を変える。
「お前さん、これクウロゥの袋か」
そう言いながら、硬貨と宝石を出していく。あ、宝石もあったんだ。
「クウロー?」
「知らんのか? 空間神クウロゥから名付けられた袋だ。実際は闇精霊と風精霊に頼んで作るみたいだがな。難しい上に、この大きさでも精力をかなり消費するから、それなりの値段で売ってる品だ」
「そうなんだ」
私にも作れる可能性はあるかな。それなら買う必要もなさそうだね。小さいのに一杯入るのは嬉しいから、作りたいね。
「んで、宝石は買い取りか?」
「宝石は売らない」
「そうか、査定するから待ってろ」
「うん」
おじさんを見てからカンベルを見たら驚いた顔をしていた。
「お前、クウロゥの袋持ってたのかよ」
「うん。カンベルさんも?」
「ああ、お前のより少し大きいがそれでも金貨二枚はするんだぞ。素質さえあれば誰だって作れる可能性はあるが、こうイメージっつか形を考えて、それを精霊たちに伝えて、それに見合った精力を注ぐなんてなかなか出来ないって代物だぞ。しかも、時間神ジンロゥの効果を付与したって言う物はさらに高額だしな。闇精霊と相反する光精霊も含めた三精霊の力を借りるなんて物だ。確かに時間停止や時間の速効遅効なんて素材てか料理の保存に効果的だが……」
なんだか思い入れでもあるのか、私を放置して一人で話している。すると換金所から変な声が聞こえた。
「な、幻硬貨だと。こんなに沢山。しかも、大金貨まで! お、おい。これ、本当に換金するのか!? 欲しい奴に売ればさらに高く売れるぞ!」
おじさんが驚いたせいで、カンベルを始め数人がこちらを注目する。いや、私とカンベルの二人で居たときから注目はされていたんだけど、ようやく視線が柔らかいものになり始めた所におじさんの声で再び視線が強くなった感じ。
「おい、エー。幻硬貨ってマジか」
「幻硬貨ってなに?」
なんだか凄い物をあの盗賊たちは持っていたんだね。正確には殺された誰かだけど。
「それも知らないのか。ずっと前に滅んだ国の硬貨だよ。銅貨とかは数があるが、それでも鋳潰されたり紛失したりで数は減ってるからどれも高い。その中でも大金貨なんていくらするか……」
「ええ、ここだとシンク大金貨一枚でリンド大金貨十一枚になります」
「リンド大金貨っていくら?」
「はあ。大金貨は一枚百万リンドだよ。つまり、えーと、千百万?はあ!?」
カンベルうるさい。
「全部換金予定か?」
「うーん」
今手元にある百十リンド以外は全て換金に出している。宝石はあるが、もっと高く売れると聞いて二枚だけある幻硬貨という中の大金貨から一枚を無言のまま手元に戻す。あとは全部換えちゃおう。
「全部お願い」
「振り込みが良いな。換金額はそれを見てくれ。二度手間だが、手元に戻したいなら言ってくれ。その方が安心だ」
どうやら口で言えない金額みたい。凄い額みたいだね。
「無闇に見せびらかすなよ」
「うん」
預金額が一千三百六十八万四千三百五十五リンド。数字が多過ぎて良く解らない。とにかく多い。あの大金貨一枚でほとんどの金額になるみたいだけど、どれだけ高いのかが不明。
「カンベルさん。どれだけ手元に合った方がいいかな」
現金にするにも価値がまだ良く解らないんだよね。魚が三百リンドで、持ち込みありでご飯が百二十リンドだった。一回のご飯で五百リンドくらいかな? 他にも買うならどれだけ皆は持っているんだろ。
「俺らは獲物を売って、その時に不足分を預金から引き落とすからな。お前がこれから狩猟道具を買うなら最低でも五万はあった方がいいな。あまり持ち歩いても邪魔だし危険だしな。それに、お前ならあるだけ食いそうだし」
「ちゃんと考えて食べるよ」
「絶対嘘だ!」
なんて失礼なんだろ。
とりあえず八万以下の金額を全て下ろした。
「とりあえず買い物の前に教会に行くか」
「うん」
思わぬ大金が入ったみたいで嬉しく思いながら狩猟協会を後にする。
なぜか再びカンベルに手を引かれて。
【アドルノーバン王国通貨単位】
十リンド=銅貨一枚。
百リンド=銅貨十枚=大銅貨一枚。
千リンド=大銅貨十枚=銀貨一枚。
一万リンド=銀貨十枚=大銀貨一枚。
十万リンド=大銀貨十枚=金貨一枚。
百万リンド=金貨十枚=大金貨一枚。
【ベンスリー帝国通貨単位】リンド通貨の1.5倍
ベンス銅貨=十ベンス=十五リンド。
ベンス角銅貨=百ベンス=百五十リンド。
ベンス銀貨=千ベンス=千五百リンド。
ベンス角銀貨=一万ベンス=一万五千リンド。
ベンス金貨=十万ベンス=十五万リンド。
ベンス角金貨=百万ベンス=百五十万リンド。
ベンス白金貨=千万ベンス=千五百万リンド。
【リングリード王国通貨単位】リンド通貨の半額。
リグル小銅貨=五リグル=十リンド。
リグル銅貨=十リグル=二十リンド。
リグル小銀貨=百リグル=二百リンド。
リグル銀貨=千リグル=二千リンド。
リグル小金貨=一万リグル=二万リンド。
リグル金貨=十万リグル=二十万リンド。
リグル大金貨=百万リグル=二百万リンド。
【亡国サグシルク共和国通貨単位】現在は幻銅貨などと言う。
シンク小銅貨一枚でリンド銅貨三枚
シンク銅貨一枚でリンド大銅貨二枚
シンク小銀貨一枚でリンド銀貨五枚。
シンク銀貨一枚でリンド大銀貨二枚と銀貨五枚。
シンク小金貨一枚でリンド金貨十枚と大銀貨二枚。
シンク金貨一枚でリンド大金貨四枚。
シンク大金貨一枚でリンド大金貨十一枚




