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狩猟協会

「はあー、稼ぎが全て消えた……」


 私の横で何か言ってるけど、膨れたお腹を擦っていて聞こえなかった。

 私は満腹で幸せだけど、カンベルは何だかんだ悲しそう。どうしたんだろ?


「おい、エー。協会に行くんで良かったか?」

「うん」


 食事中にカンベルから狩猟協会についての説明を聞いて、素材の売買は基本的に協会が仲介しているとのこと。信用のおける人物は店舗と個人契約をしているらしいが、店舗が扱う品を一定の質と量を確保出来る人物でないといけなく、まずもって狩猟には捕獲量の保証ができないので限られた知識と技巧が必要。さらに、個人契約中はその街から離れられないという条件がある。

 私としては、強くなりながら旅をして目的を果たさないといけないので、狩猟協会への登録がオススメだと教えてもらえた。


「しっかし、一人で狩りなんて大丈夫なんか?」

「大丈夫だよ」


 狩猟は問題ない。狩猟協会に登録する理由は、素材を売ってお金を稼ぐ事と、そこで売られている未知の素材(食べ物)を買うため。買うだけなら登録はいらないが、登録すれば若干安くなるみたい。私としてはお金よりも素材のほうがお腹が一杯になるけど、武器とかを買うならお金も必要ということで、現在案内をしてもらっている。


「着いたぞ。受け付けまでは着いていってやるよ」


 そうして、再び手を繋ぎ協会へと入っていく。迷わないようにと、ここまでも手を繋いで来たので特に抵抗も感じない。


「よ、カンベル。この三日大物二匹狩ったんだって?」

「あ、ああ」

「儲けたんなら奢ってくれよ。俺なんて二日間空振りで、今日なんて兎一羽だけなんだぜ」


 協会へ入り、受け付けまでの移動中になんだか軽そうな男性が近づいてくる。

 カンベルの知り合いなのか二人は話している。その間も他の猟師や買い付けに来た人が私たちを見てくる。その中から、一人の女性が近づいて来た。


「こんにちは」

「あ、セスタさん。お久しぶりです」

「ええ、カンベルさんお久しぶり。それで、この手を繋いでる女の子は貴方の子供?」

「ん?ほんとだ。嬢ちゃん、カンベ……なあ、なんでこの嬢ちゃんこんなに腹大きいんだ?しかも、幸せそうに腹撫でてるし」

「え?あー、それは」

「え、カンベルさん。まさか、貴方の妻とかじゃないわよね?でも妊娠してるみたいだし……臨月近い感じだけど。まさか無理矢理したのかしら?」

「はあ?カンベル、ちょっとこっちこい」


 少しお腹に食べ物が入る隙間が出来たかなと思っていると、カンベルが男性に連れて行かれた。その様子を協会の職員らしい人も加わった大勢に見られている。


「貴女大丈夫?あ、そこに座ったほうが楽だよね」


 なぜか椅子に案内されて座らせられた。


「えと、名前聞いてもいいかな?私はセスタって言ってここの裏手にある酒場で働いてるの」

「エーだよ」

「エーちゃんね。エーちゃんはカンベルさんの知り合い?」

「うん」

「その、えーと、カンベルさんとはどんな関係?」

「ん?始めに声掛けられてから、半分無理やりにお店連れてかれて……。私の言う事気にしないで一杯出して貰って。もう入らないくらいって言ったら喜んでくれて、私も嬉しくなったかな。こんなの初めてだったけど、私も幸せになれたし」


 アブガルに未練があった所、奢ると言って半ば無理やりに大衆食堂に連れて行かれた。だけどそこで、私にお金の心配はするなと言って食べたいものをどんどん注文してくれた。結局最後のデザートまで食べて私は幸せ。こんなにお腹が大きくなったのは初めてかもしれない。なんとなく擦っていると、暖かい眼でセスタが眺めてくる。


「無理矢理ってことは問い詰めるけど、今はずっといるの?その、カンベルさんのこと好き?」

「うん、好きだよ」


 ここまでもずっと案内するのに付き合ってくれたしね。


「そう、解ったわ。ありがとう。エーちゃんが好きなら文句は言わないわ」

「んぅ?」

「なんでもないのよ」


 セスタとの話が終わろうとしたところ、男性の怒鳴り声が聞こえた。


「この幼女好きの変態。いくらなんでも手込めにするか?」

「だから、飯奢っただけっていってるだろ」

「それであんな腹になるか!」

「それは彼女が一杯食ったからだろ!」

「彼女って……付き合ってるのは認めるのか。なんて、うらや……けしからん!」


 セスタと視線が絡んだ。もしかして、私の事で話してるのかな?飯奢ったとか言ってるし。


「少し行ってくる」

「エーちゃん!?」

「大丈夫」


 野次馬を掻き分けて、二人のいる机へと行く。うん、まだ手は出してないみたいで良かった。

 ご飯をくれる良い人に手を出したら私が赦さない。


「あの」

「あ?嬢ちゃんか」

「この人に酷いことしないで」

「いや、酷いことしたのはこいつだろ。嬢ちゃんは文句ないのかよ」

「ない」

「でも、そんな腹にしたのはそいつだろ?」


 私は無言で頷き見返す。


「なら、なんとも思わないのかよ!」

「私は嬉しかった。だから、ここまで二人で来た」


 外周にある大衆食堂から、石壁が設けられた内部の狩猟協会までは二人で手を繋いで来た。そのお陰で迷うこともなかった。時々見かけるアブガルの方へ行こうとして、引き留めてもくれたし。


「そ、そうか。嬢ちゃんが幸せなら別にいいか。ただ!カンベル!お前は幼女を孕ませた外道だ!くそっ、なんで俺には幼女がやってこない。なんで顔を見ると逃げる‼」

「怖いから?」

「……やっぱり顔か。好きで目付きが悪いんじゃねー!覚えてやがれー!」


 男はよく解らない事を喚きながら協会から出ていった。


「はー。どうしてくれる?」

「ん?大丈夫なら、良かった」


 先程よりも野次馬が増え、それぞれがこそこそと話し合っている。


「あいつが幼女好きなんて知らなかったが……。俺は違うんだー!」

「カンベルは私が嫌い?私は好きだよ」


 ご飯いっぱい食べさせてくれたし。

 そのあと意気消沈して無言になったカンベルと共に、野次馬を掻き分けて受け付けまで向かう。


「登録」

「あ、えーと、登録ですね?カンベルさんではなく、その、奥さん?の登録ですね」


 奥さん?受け付けのお姉さんが顔をひきつらせながら、カンベルを見て私を見る。どうやら私のことみたい。


「うん、私」

「本当なんだ……ああ、ではこちらの用紙に必要事項を記入してください」


 目の粗い紙とペンを渡してくれる。


「んーと……」


 村で簡単な読み書きを習ったのでこれくらいは記入できて、安堵する。


「エーさんですね。出身地が……あのホルン村ですか。数え歳で八……八!?八歳で妊娠!?え、あの、年齢あってますよね?」

「間違えてないよ。合ってる」

「そんなこともあるのかな?愛の成せる術?んー。あ、とりあえず用紙は預かりますね」


 お姉さんは奥へと一旦下がった。カンベルはなんだか、地面に手足を着いている。動物の真似かな?下手だね、私ならもっとそっくりに擬態できるのに。


「お待たせしました。こちらが会員証となっています。そのまま持っているよりも、首から下げる方が狩りの時に紛失しませんよ。素材売買時にご提出お願い致します。万が一紛失際は速やかにお申し付けください。再発行時は五百リンド支払って頂きます」


 なんだか先程よりもハキハキと話してくれている。若干早口だけど、聞き取れるから問題ないね。


「また、一万リンド以上からは協会にて貯金することもできますし、十万リンドまでなら条件は有りますが貸し付けも致しております。あとは無手数料での換金も致しております。これらはこの国限定での狩猟協会ですので、他国へ行かれた際はご注意下さい。あとは、左側で素材の買い取り表や地図の販売および、店舗からの素材納品依頼や街からの魔物討伐依頼など臨時で出ている事がありますので目を通して頂けますと助かります。建物入り口から見て左手側が素材の買い取りなどを行っていますが、依頼品に付きましてはこちらの受け付けへご報告お願い致します」

「解ったよ」


 結構長々と話されたが、なんとか覚えられた。

 改めて会員証を見て見る。

 名前と登録した街の名前に貯金額のみの簡単なもの。裏を返せば国章と協会章がある。銀色で薄い四角い板の右上に穴が開いており、そこから鉄製か細い鎖が輪となり首に通すようになっている。


「んっしょ。これで良いかな?」


 せっかくなので首に通して、これからの事を考える。

 ちらっと協会職員にカンベルが連行されていたのを見たけど、今はお金を貯めるのに依頼を見てみるか。

 暫くはここでお金を貯めて、装備を整えながら強くなる予定。

 魚もまだまだ食べたいし、アブガルの島にも行ってみたい。種族の違いで美味しいものが他にも見付かるかもしれないしね。

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