ザジの終言
「う、うそだろ……」
なんで、なんで……と、そんな思いしか浮かばない。
俺がボルジョル盗賊団に入ったのは一年前。その半年と少し前に同じく落ちぶれていたダダンと言う男と組んで盗賊行為をして暮らしていた。
だが、二人とも盗賊の才能がなかったのか馬車を襲うことにも失敗を繰り返していた。そこに、ボルジョル盗賊団のルドントという男が声を掛けてきて、二人はその盗賊団の一員になった。
複数人での行動が成功の比率を上げた。いつしか、手際も良くなり失敗が大幅に減った。最高の気分だった。ダダンや他の一員も浮かれていた。
そして……、ハンスト大市に合わせてやってくる商人や裕福な人間を乗せた馬車を襲う計画が上がり、決行。初めは成功していた。岩蛇の魔物化という弊害があり、予想よりは儲けられなかったらしいが、俺としては大成功だったと思う。
そんな浮かれていた俺達に厄災が降りかかるのは当然だったのかもしれない。少女というにも幼い姿をした厄災が。
「折角助かったのに」
あの時の光景が未だに思いだし、夢にも出てくる。
拠点にやって来た小さな姿の大きな災厄。それに降り注ぐ矢や精霊術。それを疎も簡単に防ぎ、ルドント副団長にジリス副団長の攻撃にも耐えた上にジリス副団長を殺したらしい。この時にはダダンと共に俺は既に逃げていたから、後からなんとか逃げてきた仲間から話を聞いた。
現在は逃げてきた仲間二十二人でハンストから離れた村をじっくりと襲っていた。
みんなもあの光景が忘れられないのか、また派手に暴れたら殺されると思い持久戦で物資や村人を襲っていた。盗賊失格なのかもしれないが、もう俺達が生きていくにはこれしかない。だから、怖い思いをしながらもバレないようにしながら行っていたのに。
「見張りは……ダダンとバッセにボッセの双子だったか」
村人が助けを呼ばないように、唯一の入り口は常に二人で見張っていた。村に訪れる者も容赦はしない。まあ、主要街道からはやや離れた村で、特産もないので商人が村にやって来ることはほぼない。若い狩人三人を殺したくらいで、外部から来る者もいなかったのに。大人数がやって来たら一人が報告に来るはず。
「殺されたか逃げたか、か」
ダダンとは一年半とはいえ、結構気が合ったのに。なんで、俺がここに居るときに。
丁度排泄の為に拠点から離れていたから、俺はまだ見つかっていない。なのに……。
「くそっ、動けよ。この愚図足が」
震えて思うように動けない。出してスッキリしたはずなのに、腹もまた痛くなってきた。
目の前は惨劇。一方的な殺戮が繰り広げられてる。
水が、木が、土が形を変えて仲間を次々殺していく。たしか、アレは風も使っていたか。
アレが跳ねる。短剣が仲間の腕を切り落とした。最後の一人が両腕を喪したあとに、頚を掻き斬られて地面に沈んだ。
早く逃げなきゃ。そう思うが動けない。見つからないように声を圧し殺していると、アレが動いた。
「うっ。イカれてやがる」
厄災の口が動く。血を垂らし口を赤く染めている姿に恐怖が最大になり、力が抜けて地面に尻餅を着く。
「う、うげぇ。おげぇぇ」
ヤバイ、あれは人間じゃない。伝承にある悪魔だ。夢物語だと思っていたのに、実在してやがった。
「……まだ、いた」
小さな声。だけども、体の芯まで響く声。
「あ、ああ、ア──」
ゆっくりと近づいてくる悪魔という厄災。もう逃げられない。身体に力が入らない。
来るな、来るな!
「バイバイ」
恐怖で声すら出ない。こんな所で死ぬのか。
あの時、逃げた後に足を洗えば良かった。もう遅いな。
「アァ──…………」




