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道中の食事情

 くちゃくちゃ、ぐちゅごりっ。

 そんな音が草原に吹く風に混じり消えていく。


「よく生で喰えるよな。毎回だが、どんな身体してんだ。見慣れてきたが、慣れちゃ負けな気がするわ」


 食事中にうるさいなー。


「そんな喰いながら睨むなよ。こえーよ! 口や手が血で染まって尚更こえーよ!!」


 どうして毎回大袈裟にこんな反応するのかな。食事中くらいは静かに出来ないのかな。


「カンベル、うるさい」


 肉の落ちた骨を投げつけようと思ったが、やはり勿体なくバリボリと噛み砕いて髄まで美味しく頂く。

 カンベルはそんな私を引きながら見ている。既に草原豚の半身を食べ終わっているカンベルは石を加工して鏃を作成中。私は一頭丸ごととカンベルの残した半身に、その他棄てようとした部位を一食分として狩って食べている。

 勿論、カンベルの一頭分は焼いてある。でも素材そのままの味も好きなので一頭は生で。それがどうにもカンベルには受け入れられないみたい。私も始めはそうだったよ。遭難中に生の味を知るまではね。くちゅくちゅ。


「んく。はふぅ」


 最後は手に着いた血も舐めとり一先ずの食事は終了。

 ハンストの街を出てから四日目。二日目に村より少し規模の大きい街で一泊し、カンベルの話では明日くらいに次の村に着く予定らしい。


「一日六食って、本当にどんな腹してんだよ。しかも、一食が俺の三倍とか……」


 ローア達から貰った食料は街を出て二時間でなくなったよ。少し物足りなくて、蛇とゲルーパまで食べたらカンベルに驚かれたけど、「いまさらか」とも言われた。それなのに、未だに驚いている。驚いてる感じは呆れがかなり入っている気もするけど。

 この旅で何が一番大変かと愚痴を溢したカンベルは、食料調達と真っ先に答えた。私は王都までの道のりでの危険なものを聞いたつもりだったのに。


「草原豚も堪ったもんじゃないだろうな」


 草原豚は多産で成長も早い。それ故に肉としての需要が高く、狩猟協会も常に買い取りを行っている。この周辺の人たちは一日に一回は草原豚を食べるくらいに需要があるが、それ以上に数が多い。まあ、私たちが食べないと草原が荒野になっちゃうし沢山食べないとね。うん、食べなきゃいけないんだよ。


「食べないと草原なくなる」

「いや、そうだがな。だが、お前は食べ過ぎだ」


 私のお腹をたぷたぷしないで欲しい。すぐに引っ込むのに太ってるように思われるよ。周りに誰もいないけどね。


「それにゲルーパも食べ過ぎるなよ。つか、よく喰えるな」


 ゲルーパは通称掃除屋と言う無害な魔物。無害でも魔晶核を有する魔物。食べられない位に味が悪いし、気分も悪くなる。魔晶酔いという症状になり、酷いと昏睡だってするみたい。

 だけど、私は何度も魔物を食べて魔晶酔いを克服した。始めは気持ち悪くなったけど、今じゃゲルーパ程度はオヤツでしかない。生では不味いと思っていたけど、何度も食べているとそれも慣れた。


「魔晶核は仄かに甘辛い。もにゅもにゅした感じが好き」

「好きとか以前の問題なんだが、どんな腹してるんだ本当に」


 だからって、ぷにぷにつつかなくってもいいよね。


「移動より狩りに時間が掛かるとは思わなかった……」


 これでも街で暮らす人よりは移動速度は速いらしい。だけど、猟師や兵士などは技巧の影響で速く次の村や街に辿り着く。

 兵士は有事の際に駆け付ける為に訓練をし、猟師は獲物を追う過程で技巧を身に付ける。

 私たちの村は老人以外は皆足が速かったけど、皆で狩りをしたり畑仕事で足腰が鍛えられたりしていたからね。村じゃ普通でも街になると、そこまで動かなくても物が手に入るし、出来ない事は出来る職人に任せればいい。必然と技巧は身に付かなくなり、移動やその他身体能力も劣る。

 私たちの速度は早馬よりも遅く、馬車よりも速いらしい。途中で商人の馬車を追い抜いたからそれは確かかもしれない。

 本来なら、昨日の夜には次の村に着いていた計算だったみたい。ハンストから次に寄った小街まで一日で着く予定だったのに、草原豚狩りに時間掛けちゃったからね。狩りが毎日続けば、必然と移動速度は落ちる。カンベルの愚痴が増えてるのはそのせいかな。


「私を置いて先に行ってもいいのに……」


 一緒に来てくれると知った時は嬉しかったけど、こう食事に文句を言われるのは気分が悪くなる。私が食べること知ってるくせに。


「ん? なんか言ったか」

「別に」


 それでも狩りには積極的に獲物を探してくれるし、食事中はカンベル的に然り気無く周囲を警戒してくれている。夜も寝る時間を削ってくれているのを知っている。身体も拭いてくれるし、肉もいい加減に焼いたり茹でたりと調理してくれる。なるべく草やゲルーパを食べないように、食べられる食材も探してくれている。


「…………ありがと」

「ん? なんだ」

「別に」


 何だかんだ助けてくれている事に気が付いた。そもそも一人で道も解らない旅になるはずだった。野宿もその場その場で寝るつもりだった。カンベルはなるべく野宿に適した場所を見付けて危険を避けてくれている。何より、話し相手として存在してくれている。

 些かお腹を弄ってくるけど。もみもみしないで。


「いだーー!!」

「お腹ばっか触らないで」


 お腹が伸びたらどうするの。戻るのも戻らなくなったら責任とってくれるの?


「その膨らんだ腹のせいで、俺は街じゃ幼女にあんなことやこんなことをしてるって言われるんだ」

「あんなこと? こんなこと?」

「……いや、何でもない。エーが気にする事でもない」

「んん?」


 なに顔を背けてモゴモゴ口の中で呟いているんだろう。流石に近くても無音の呟きまでは聞こえない。


「取り合えず、その血塗れの身体拭くから」

「うん」


 手は舐めたけど、返り血は全身に及んでいる。

 何時ものように服を脱ぎ捨て、身体を拭いてもらい、さらに服も洗って貰う。

 《水精霊》と契約している人は日常的にこうして生活に役立てている。


「つか、服他にも買うべきだったよな」

「服じゃ、お腹膨れない」


 私が一番重要なのは食事。次に寝る場所。この二つだけでもそれなりに重要性に差がある。服はさらに下。

 生きていくには食事が一番だし、眠れないと行動できなくなる。安心して眠れるなら尚更疲れもとれる。だけど、服は別に無くても生きていける。この一着あれば充分。服を買うなら食料や宿屋。あとは、強力な武器など戦力に繋がるもの。服なんて戦闘力がないし、長かったり大きいと逆に邪魔になる。だから服を買うつもりはない。カンベルにも一度言ったような気がするけどな。


「ハンストで一回は聞いたぞ。だけどな、こんな草原のど真ん中で裸になるのもな。共同浴場とは違うんだし」

「別に違わない。むしろ、人がいないから安心」


 共同浴場も外で同じだし、裸なのは皆なっている。それよりも、知らない人がいる共同浴場の方が危険な気がする。

 武器はなくても《水精霊》や《火精霊》と契約した人がいたら攻撃することは出来るし、体術だってある。盗賊だって、たまには街に紛れて身体を洗いたいはず。だって、温かいお湯は気持ちいいもん。

 盗賊がいたなら、私やカンベルは攻撃されても可笑しくないと思っている。たくさん殺してるからね。殺されて怨む気持ちはわかるから。例え、自業自得で仲間が殺されても怨む事だってあるはず。


「エーの教育した奴はどんな奴だよ」

「ミルワおねえちゃんの悪口は許さない」


 取り合えず私の頭を拭いている無防備なカンベルの股間を蹴り上げる。家族や村の悪口は誰だって許さないよ。

 カンベルの弱点が股間なのも知っている。暫く痛がればいいよ。


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