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次に向けて

 あれから三日が経った。カンベルの足は無事に完治した。診察の為に医師に診られたそうだけど、突然綺麗に治っていたので大騒ぎだったみたい。どうだったのかは、朝食優先だったのできちんと聴かなかった。


「俺はローアたちの訓練に参加するが、エーはどうする?」


 この数日は怪我人を装っていたカンベルは宿で過ごす事が多く、身体を動かしたいらしい。そこで、ローアたちに迷惑を掛けたので臨時の教官として訓練に参加することになったとか。兵士も変則的な状況下での行動に慣れる為にたまに協会や教会との合同訓練などを行っているらしく、今回はカンベルが教官としてのサバイバル術訓練等を指導すると話してくれる。


「私は……」


 大市も終わり、魚も色々食べられた。本来はこんなにも滞在する予定ではなかった。

 そろそろ次の街に向かいながら戦闘をしていかないと。早く王都に行きたいし、戦闘回数が少ないと強くもなれない。


「私はこの街を出る」


 何度か旅の続行を考え、そして辞めた。だけど、いい加減に行動しないとね。


「は? 突然すぎるだろ」

「前から考えてた」


 カンベルが驚き、私をジッと見てくる。


「本気なんだな」

「うん。元々寄っただけだし」


 何をそんなに驚くんだろう。カンベルとだって偶々知り合っただけなんだし。


「…………一日待ってくれ。ローアたちにも報せないと悲しむ。それに、ハーニにも言っておいた方がいいだろう」


 どちらも其ほど接点がないのに、悲しむのかな。


「ローアたちは、お前が心配なんだよ。いくら強くたって、お前はまだ子どもだ。ハーニは、まあエー程の戦力が抜ける事を知っておいた方がいいし、協会としていろいろ助かってたからな。教会は、俺が伝えるだけでいいか」


 確かに私くらいの年齢の子どもが一人旅なんてしないよね。いたとしても浮浪者で、余程の事がないと死ぬ確率が高いし。

 協会とかはよく解らない。カンベルが詳しいから、任せた方がいいよね。


「それなら……うん。明日にする」


 一日位なら延びて大丈夫かな。なら、最後に色んな屋台でも巡ろうかな。


「助かる。予定を変えて悪いな」

「大丈夫。屋台でも行ってくる」

「あんまり、買い占めるなよ」

「…………」

「おい」


 そしてカンベルは予定の時間に近付いてきたのか、宿から出ていった。

 私は顔馴染みとなった屋台の人からオマケを貰いながら、全制覇する。

 夜になり、ローア達がお別れ会を宿舎で開いてくれた。サバイバル術での料理を横流ししたらしい。カンベルが上手く夕食の時間に合うように訓練内容を入れ替えたみたい。私を呼ぶまでに料理は冷めたけど、皆は文句も言わずに食べていた。それ以上に別れを悲しむ人がいて驚いた。


「師匠、エーちゃんをお願いします」

「おう」


 ローアがカンベルに何か言っていたが、何をお願いなんだろう。

 そう思いながら、カンベルと共に共同浴場に行き洗って貰う。お風呂のことをお願いされたのかな。


「暫く風呂なんてないんだし、確り入れよ」

「うん」


 何時もより入念に洗って貰ってから湯槽に肩まで浸かる。暫くして、カンベルも身体を洗ったのか入って来たのですっかり定位置になった胡座の上に座りカンベルに凭れ掛かる。楽チン。


「カンベル、訓練で足大丈夫だった?」

「おう。異常な程問題なかったぞ」

「良かった」


 怪我してたら、こうして私を乗せれないしね。完治はしたのは知っててもやっぱり心配だった。

 水中戦がいかに面倒かもカンベルがいなかったら経験しなかったはず。そのカンベルがこうして再び問題なく動けるのを見て、ただ良かったと思う。あの治療は、痛いし疲れるからね。カンベルの快復が早すぎると思うけど。


「さて、帰るか」

「うん」


 充分温まり、共同浴場を後にする。

 そして、カンベルと共に寝るのも今日で最後。


「おやすみ」

「ああ、おやすみ」


 今日くらいはカンベルに抱きついて眠っても良いよね。

 

「んー」

「起きたか」

「ふぁう」


 翌朝目覚めるとカンベルが私を見詰めていた。


「そろそろ離してくれるか」

「ん? ……あっ」


 覚醒しきっていない頭で状況を確認して慌ててカンベルから離れてベッドから落ちる。


「うぅー」


 そうだった。抱きついて寝たんだった。それが完全に手足で拘束するくらいに抱き締めていたみたい。


「うわ、鬱血してやがる」


 カンベルの批難に怨めしく見上げる。別にわざとじゃないのに、赤くなってる部分をこれ見よがしに見せなくてもいいのに。


「はあ。ま、直に治るか。んじゃ、飯行くか」

「……うん」


 一応謝ろうか文句を言おうか迷っていると、カンベルが立ち上がり上着を羽織る。


「行くぞ」

「まって」


 ご飯は確り食べないとね。心のなかで「ごめん」とだけ言って着いていく。

 朝食を食べたら、いよいよお別れだ。


「エー、忘れ物ないか」

「大丈夫」


 うん、私の持ち物はきちんと身に付けた。これで、ここともさよならだ。

 だけどカンベルの荷物はどこにいったんだろ。部屋には二人分の荷物が綺麗になくなっていた。


「それじゃ行くか」

「うん?」


 よく解らないままにカンベルに着いていき、外門まで来るとローア小隊の面々に狩猟協会のハーニスト、さらには聖精教会のロンリル神官までそこには集まっていた。


「あ、師匠ー!」

「待たせたか」


 どうやら私のお見送りらしい。別に良かったのに、でも嬉しい。


「エーちゃん。身体には気を付けてね。これ、私たちのお給金で買ったけど、少なくてごめんね。途中で食べてね」


 袋に入っていたのは沢山の日持ちする野菜に干し肉と干し魚が入っていた。色々考えて、食べ物が一番喜ぶと思ったみたいで、よく解ってる。


「エーさん、此方を」


 ハーニストからは、手紙。


「読めばいい?」

「いえ。次の狩猟協会に立ち寄った時にでも受け付けに提出してください。便宜を図って貰えると思います」


 便宜ってなんだろう。取り合えず頷いておく。


「私からも手紙と、こちらを」


 ロンリル神官からも手紙を貰った。こちらも次の教会で出せばあたいみたい。そして腕輪。

 貴重度が稀少で、恩恵を少し上げる腕輪だった。教会だから、精霊関連の装備品を集めて必要な所に貸し出しもしているとのこと。これもその一つ。いいのかな。


「本当はもっと良いものと思ったのですが、何分急だったもので」


 加護者の特典としてはもっと貴重な品でも渡しても問題ではなく、カンベルは既に風の恩恵を僅かに上げる指輪をしている。

 ただ、所詮は貸し出しなので売買不可や他者への譲渡不可など教会の特殊な加工がされているらしい。何時かは返さないといけないけど、期限もないみたい。もっとも、貴重度によっては期限や誓約など色々あるみたい。


「次の教会で貸し出しの変更も出来るように書いてありますので、活用してください」


 貸し出しは一人一つ。なので特典で神官級の私には、もっと貴重で有効な品を与えたいみたい。不釣り合いな品の貸し出しは教会の信用にも関わるから、是非活用してくれと言われた。


「また来て下さい」

「待ってるからね」


 皆と別れの挨拶をしていると、ローアがカンベルに荷物を渡している。


「師匠も気をつけて」

「ああ」

「カンベルも何処かに行くの?」


 そう聞くと、皆が笑っている。


「このロリコンはエーさんが心配らしいですよ」

「おい」


 意味が解らない。


「つまり、俺も着いていく」

「私に?」

「ああ。ま、最近は王都が俺の活動拠点だからそろそろ戻る必要もあったしな」


 私が驚いていると、作戦成功って声が聞こえる。

 どうやら皆は知っていたみたい。だから宿にカンベルの荷物が無かったんだね。教えてくれても良かったのに。


「師匠、エーちゃんをお願いしますね」

「何度も言わなくても解ってるよ」


 私一人が混乱しているなか、カンベルも皆に別れを告げてから私の手を引いて門を出る。


「それじゃあ、行くか」

「え? あ、うん?」


 最後が混乱のまま別れたけど、カンベルとはまだ一緒に入られるらしい。

 取り合えず落ち着こう。


「うん。じゃあ、王都を目指そう」


 王都まではかなり距離がある。それまでにあと幾つの街や村があるのだろう。

 だけど、今度は一人じゃない。さあ、次に向けて歩いていこう。

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