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依頼達成と実食

 目を覚ますと既に明るく、ローアと杖を着いたカンベルにハーニストが少し離れた場所で話していた。


「ふぁー」


 私が欠伸をしていると、ローアが此方を丁度見たのが同時だった。


「あ、起きたっ!」

「エー、もう大丈夫か?」

「かなり疲れていたようで」


 そう話ながら此方に近付いてくるが、まだカンベルの歩行が不安定でローアがそれを支えていた。


「カンベル、大丈夫?」

「ん? ああ、まあな。あとは、肉が戻るようにしっかり食うだけだな」


 カンベルの左足には未だに包帯が巻かれていた。

 昨日の今日なので怪我も治る訳ないらしい。街兵の担当医師が《癒精霊》も併用して最善を尽くし、壊死の心配もなく、骨にも幸い異常がなかったと教えてくれた。

 それでも、ふくらはぎの軽くない怪我の完治には時間が掛かる。


「カンベル」

「ん、なんだ」


 眠ったおかげで精力は戻っているから、問題ないよね。


「…………お願い」


 患部に手を当てて、小声で《癒精霊》に治癒をお願いする。


「お、おい」

「大丈夫。包帯で人には見られない」


 人前でするなって言われたはずだけど、バレないならいいよね?


「うぅ」

「かなり疲れるよ」


 私も山で転んで枝に足を貫通させたことがある。

 なんとか止血をしながら《癒精霊》に治して貰った時にかなり疲れた記憶がある。あの時も足に大きな穴が空いていたのを治せたから、今回も大丈夫なはず。


「なんか、身体熱いな」

「再生と、身体の余分な肉を持っていく感じ? たぶん。家族任せだから、よく解んないけど」

「こえーこと言うなよ」


 それでも、うめき声が一度っきりなので凄い。私はかなり叫んだのに。勿論、怪我の痛さもあったし、初めての大きな治癒だったのもあるけど。


「エーさん。その魚が?」

「うん。たぶん魔物化した魚」


 こんな巨大な魚なんて見たことないし、精霊術使ってきたしね。

 私が言うとハーニストが検分を始めた。

 私が寝ている間にも軽く検分はしていたようなので、すぐに終わった。まだそこまで傷んでないけど、鳥に啄まれて所々食い散らかされていた。私のご飯。


「では、私が長を呼んで来ます。これだけ巨大だと島に運ぶのも大変でしょうから」


 昨日使った小舟なのか、それに颯爽と乗り込んでハーニストは漕いでいった。


「んじゃ、来るまで休んどくか」

「師匠。やはり、無理してるんじゃ」


 救護室で治療されていたカンベルは無理を言ってここにきたらしい。そして、兵士でありカンベルの一番弟子のローアが介助する為に付き添ったとのこと。

 それからは他愛ない会話をしたり、ローアに髪を透いてくれたりして過ごした。戦利品の味見が多かったのをカンベルに嗜められたけど、内臓は早めに食べないと痛むし仕方がないよね。かなり濃厚で、肝がすぐに溶けるほどだった。魔晶核はまだ食べてないよ。

 ハーニストたちが戻って来るまでにローアが買いに行った串肉を五本貰い食べ終わって暫くして大きな船が近くに接舷した。私たちの場所には船は留められなかったようで、数人の魚人とハーニストが歩いてくる。小舟はどうしたんだろう。


「お待たせしました」

「おお、おお。これ程のものとはぁ」


 両腕を広げてゴルドサルーギョの魔物に近付いていく。あれが魚人の長かな? 口の横に他の魚人よりも長い二本の髭がある。


「それでぇ倒して……」

「ええ、そちらの……」


 ここからはハーニストとカンベル、魚人たちの話し合いで私とローアだけが取り残された。

 一応、倒したのが私だと紹介されて初めは信じられなかった。


「はい。こちらはお持ち頂いてもかまいませんねぇ。魔晶核も大きいですが、そちらでぇ。あとは……」


 どうやら魚は丸ごと貰えるらしい。やったね。

 ただ、あの大渦で仕留めたと説明した的に時に納得したような、してないような顔をされた。魚人は身振りや口調は独特だけど、表情あんまり変わらないからね。


「申し訳ないのですがねぇ」


 調査報酬二十万。討伐報酬二百万だったらしいが、大渦によって仕掛け網や係留していた小舟が幾つか使い物にならなくなったので、その補填に二十万返却することになった。向こうは被害は仕方がないと思っていたみたいだけど。むしろ、ここで討伐出来たのだから今後の被害に比べたらもっと報酬を上げるべきだと話していた。ただ、魚人たちもこれまでの網の損害や漁獲量減少等で普段より金銭に余裕はなかったので、二十万でも報酬が浮けば楽だと愚痴を溢して部下にたしなめられていた。


「確認しましたぁ。本当にありがとうねぇ」


 魚人たちは仲間に討伐をすぐに報せて、昨日の損害の確認や補修に戻るらしい。


「それでは協会に二十万のところ、街兵にも迷惑をおかけしましたようで。後程少ないですが……」

「いえっ! これも仕事ですし、何れは私たちにも係わることでしたので!」


 ハーニストがローアに頭を下げて、ローアが慌てている。


「ローア、受け取っておけ。元は俺が悪いんだし、後で持っていく」

「師匠はまともに歩けないでしょう」

「いや、がんばれば」


 たぶん、もう肉も血管とかも戻ってるはずなので普通に歩けると思う。カンベル以外知らないけど。


「ハーニ、俺は五十でエーに残りを協会の金庫に入れといてくれ」

「いいのですか?」

「ああ。今回は俺は役立たずだったしな。まあ、零も食費に響くからな」

「……エーさんの食費は師匠が?」

「半々だな」

「御愁傷様です」


 なんだかローアがカンベルに憐れみの視線を向けているけど、何でだろう。


「カンベル。そろそろ食べていい?」

「本当に喰うのか?」

「カンベルに聞きましたが魔物を食べて魔晶酔いにならないとか」

「なってたけど、勿体ないし。美味しそう。あ、食べきるまで帰らないから」


 串肉を食べたけどまだ空腹は続いている。昨日の疲労がまだ残ってるのかな。


「そっか。なら、帰るか」

「ちょ、置いていくのですか」

「食べたら帰って来るだろ」


 ローアとカンベルが賑々しく去っていく。


「魔晶酔いしても、食べとは聞いていた以上の食欲……食欲でいいのでしょうか。まあ、また妊婦姿ならカンベルをからかえますし。無理はしないでくださいね」

「うん」


 ハーニストも協会に向かって歩いていく。報酬とか報告書とか色々あるみたい。


「それじゃ。天空と大地と大海に感謝を。生命の糧に祈りを」


 食べ物に祈りを捧げてそのまま昨日の食べたお腹部分にかぶり付く。焼いたり面倒なのでそのまま生で!


「はぐぎゅっ、ぐゅりっ」


 鱗をバリバリ噛み砕き、骨をへし折り髄液を啜ってから骨も砕いて飲み込む。魚肉はまだプルプルで蕩けて、仄かな甘みさえある。お腹周辺と尻尾辺りの魚肉が美味しけど、背中の方は肉厚で頬肉はもっちりしている。目玉はプルンと滑らかで美味しい。もう、美味しいとしか言えない。まだ魔晶酔いが軽くかんじるけど、そんなの気にならない! 普通の魚であるゴルドサルーギョよりも美味しいものにさっそく出会えた幸せ。ぐきゅぐきゅ。


「ぷはっ」


 身体全体が生臭いけど、後で水浴びしたらいいか。それよりも、痛む前に食べきろう。こんなに大きいのに食べられそう。

 そう思いながらも胃に次々押し込み、とうとう残るは魔晶核のみ。


「ガリッボリッ」


 これだけ大きな魔晶核は相当の値段で取引されるみたいだけど、私の物だし綺麗に食べる。報酬でお金少し貰えるみたいだし。幾らか聞いてなかったけど。


「ん、くん」


 美味しかったです。魔晶核も途中から酔いの気持ち悪さが殆どなくなったから食べやすかった。丁度いい歯ごたえでオヤツにしたら良かったかも。これからは魔晶核はオヤツに残しておこう。


「もう、日が傾きそう」


 お腹はかつてない程に膨らんでる。食べるのに時間が掛かったね。まあ、起きたのがお昼近くだったみたいだし。


「ん、帰ろう」


 宿にはカンベルがいるかな。水浴びも考えたけど、一人で頭洗えないしカンベルにお願いして共同浴場に連れて行って貰おう。

 カンベルの足の治りも気になるしね。

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