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カンベルからの依頼

 精霊袋に関してはロンリル神官長に任せて私たちは教会を出て街を散策している。


「あいつに全部任せて良かったのかよ」

「うん。よく解んないし」


 実際に専門的な事なので私が出来る事もない。

 何かトラブルがあれば、ロンリル神官長が解決に尽力してくれると話した事に信じようとも思った。何かあれば、私がヤればいい。


「何か食べたい」

「は!? さっきまでパン食べてたんじゃないのかよ」


 さっきって、二時間以上も前の事なのに何を言っているのだろう。

 話が終わってから、暫くはロンリル神官長が細かく精霊袋の特徴の記録や写実を取っていた。

 その後はカンベルと合流したが、孤児院の様子を見る為にそちらに移動。丁度おやつの時間だったようで、クッキー二枚と果実水を私も貰った。

 お礼に、裏庭にある畑仕事をカンベルに言われて手伝わされた。それでも頑張った私、偉い。

 そんな訳で一仕事したので、お腹が減ってきた。


「はあ。わーたよ、ならそこに入るか」


 そう言って指したのは木造の古く小さな建物。主要通りは新しい建物や大きな建物が多い。古く小さな建物もあるが、そのどれもが綺麗に改装されていると兵士に聞いていたのに、この建物は改装もされていない感じだ。さらに、看板すらない。


「食べ物屋?」

「ああ。変わってるが、味は保障する」


 本当に店なのか不安だったが、カンベルに手を引かれて店内に入る。

 一言で言えば狭い。次いで薄暗い。

 入ってすぐに四脚の椅子に囲まれた机があった。入って三歩も歩けば手前の椅子に辿り着く。その奥に厨房なのか窯や水場があり、一人が辛うじて動ける広さしかない。その横に奥に行く扉があるが、此方からは入れないように立ち入り禁止の看板。

 そして、そこに立っていれのは魚人の男性だと思われる人物。


「よ、今いいか」

「……ん」


 微かに頷き、すぐに窯に向き直る。


「変わってるだろ。客商売に向いて無さそうだしな」


 その時、ダンッと音がして見ると包丁を振り上げた魚人(アブガル)の店主がいた。一瞬視線が会ったが、すぐに手元に視線を戻して直ぐにダンッと包丁を降り下ろす。


「無愛想だが、ここの魚料理は文句の着けようがねえ。知る人ぞ知る名店だな」

「魚料理。ゴルドサルーギョ……」

「あれは大市にしか出ないから無いだろ」


 あの究極の魚を食べられると思ったが、残念。あれほど美味しい魚料理があるのだろうか。

 村じゃ小川に泳ぐ小魚は稀に食べるが、基本は野菜と肉が主だった。魚料理として食べたのはこの街に来て初めてだったが、どれもゴルドサルーギョの料理には及ばなかった。あれに勝るのだろうか。


「ま、すぐに判る」


 そう言えばメニューすらない。それを聞くと、店主のお任せらしい。その日に捕れた魚の種類と量によって変わるとのこと。

 他の店より待つこと、漸く料理が出来たようで店主が机に料理を並べていく。


「……ん」

「ども」


 相変わらず言葉がなく、無言で並んだ料理。

 小麦麺に解して絡んだ主食。葉野菜と生魚にジュレが掛かったサラダ。小さなパン。魚を擂り潰し作った団子が浮かぶスープ。パン以外にはどれも魚が使用されている。


「美味しそうな匂い」


 温かなスープから特に薫るが、決して生臭くはない。


「冷める前に食おう」

「うんっ」


 まずは麺から口に入れると、すぐに魚の芳醇な薫りが鼻に抜ける。麺も程よい弾力で胡椒が味を引き立たせている。

 葉野菜で魚をくるんで食べるサラダも、血生臭くなく淡白な味にジュレがアクセントを加える。パンとも相性がいい。

 スープにも魚の出汁が出て深みがある。ほくほくの団子が口で崩れると、中からトロッとチーズが拡がる。思わないチーズの出現に驚くが、魚の風味を優しく包みこんでくれる。


「ほわっ。はぐっ」

「うめーだろ」

「はん。ふまひ」


 なんの魚かは解らないが、ゴルドサルーギョにも匹敵するほどの料理の数々。もし、これら全てにゴルドサルーギョを使ったら幸せ過ぎて失神するのではないか。今までの魚料理の常識が覆ると言っても過言でもなく、魚を活かしている。


「はうぅ」

「喜んで貰えたようだな」


 一心不乱に食べたのであっという間に空になった。勿体ないと思ったが、冷めた方が勿体ないとも思えた。だって、冷めたら生臭くなる料理が多かったしね。


「ここは冷めても美味しいがな」

「…………」


 早く言って欲しい。


「さて、エー。腹は膨れたか」

「一応」

「一応かよっ!」


 満腹ではないが、今は余韻に浸りたいので何かを食べたいとは思わない。

 お互いに食事を済ませて食後の清葉茶を飲んでいると、カンベルが徐に口を開く。


「所でなエー。お前の非常識……規格外な…………、えーと、優秀な能力を有している事を前提に頼みたい事があるんだが」

「うん」


 改めてなんだろうか。


「ここじゃなんだし、一度協会に行っていいか」

「猟師の仕事?」

「そんな感じだ。あとで何か買ってやるから、話だけでも聞いて欲しい」

「わかった!」


 すでに次の美味しい物に思考が移るエーは流石と言うしかない。


「んじゃ、行くか。勘定」


 エーの分の料金もカンベルが支払い、魚人の店から出て狩猟協会へと向かう。


「んで、話って」

「まずはハーニ……支部会長のハーニストの所に行く」


 カンベルに誘導され、受付に二三話してからそのまま奥へ入っていく。


「よ、ハーニ」

「何ですか、いきなり」

「ちょい、依頼についてな」

「……そうですか。それで、そちらはエーさんでしたか。盗賊団討伐お疲れさまでした。あなたのお陰で迅速に終わりました」

「ん」


 ハーニストはそう言い頭を下げる。


「それで、依頼にこいつも手伝って貰おうかと思ってな」

「エーさんには許可を貰ったのですか」

「今からだ。まずは説明した方がいいが、ハーニもいた方が良いと思ってな」

「そうですか」


 そこまで話してから、二人は椅子を勧められて座る。

 それに合わせた様に、女性が入ってきて果実水を置いて退室していく。


「それではエーさん、聞いて頂けますか」

「うん」


 話を聞くだけで、カンベルから好きな物を買ってくれる約束だ。すでに頭は食べ物に支配されており、直ぐ様頷く。


「俺よりハーニから話した方がいいな。俺も受けた身だしな」

「そうですね」


 カンベルもハーニストから依頼を受けた事をここでエーは知ることになる。

 下で指名なく依頼は受けられるが、時には協会員から指名時に呼び出されることがある。指名されるには、然る実績と信頼が必要なので、一目置かれる存在を意味する。


「元の依頼主は魚人の長からでした。依頼内容は変異した魚の駆除。漁獲量に影響しますから猟師に依頼が出されました」

「それだけなら、魚人だけで対応したりできたんだがな」

「はい。ただし、変異した魚が魔物化している可能性があったので初めは私に依頼が来ました。ただ大市目前だったことと、岩蛇の繁殖時期だった為、支部会長である私がここを抜ける事はできませんでした」

「んで、俺の所に依頼が来たって訳」


 二人で話している間に、果実水をチビチビと飲みながら把握していく。


「カンベルは王都に居ましたが、定期報告に合わせて要請しました。この支部にいる猟師では水中魔物の駆除に不安がありましたので、かつて拠点として活動していたカンベルに来ていただきました」

「俺も暇じゃないんだが、一応は友からの要請だったしな 」

「ですが、役立たずでした」

「おい!」

「高い《水精霊》との恩恵を受けていたので期待したのですが、駆除に失敗したようです」

「仕方ないだろ。あんな広い湖で探せって言うんだし。ずっと潜ってもいられないだろ」

「エーさん、ここまでは解りましたか」

「聞けよ!」

「カンベルは役立たず」

「そうです。理解が早くて助かります」

「おい、泣くぞ」


 相変わらず煩いカンベルであった。


「盗賊団の処理が殆ど終わりましたので私が引き受けたいのですがまだ残党の調査の指揮と、数日後に報告を王都にする為にここを発つ予定が入りました。その間も、魔物の被害が続きますのでなんとか人員を集めようかと思ってました」

「索敵なら《水精霊》持ちの猟師や魚人で大丈夫だが、水中で魔物を倒す程の実力をもった奴がいないんだよな」


 そこまで聞いて一つ疑問があった。先程から上がる精霊について。


「私、まだ《水精霊》と家族になれてない」

「大丈夫だろ。すぐに《光精霊》と契約するような奴なんだし、湖に暫くいたらなれるだろ」

「……エーさんが短時間で精霊と契約?」

「あ、いや。兎に角、こいつの実力は確かだし俺のサポートくらいは頼みたいと思ってる」

「そうですね。彼女の実力ならば魔物にも遅れを取らないでしょう」


 簡単な説明をカンベルの果実水を奪い、飲みながら聞きなんとか頭で纏める。食べ物七割:依頼三割の頭で。


「エーさんへの依頼はこちらで許可します。カンベルの依頼のサポート。内容は湖に住む変異種の魚又は魔物の討伐。受けて頂けますか? もちろん、報酬は支払います」

「……その魚食べて良い?」

「食べ……魔物なら食べられませんが。ただの魚で毒がなければ食べられますね。討伐証明後に報酬の一部として魚人の長との協議で許可があれば差し上げます」

「わかった。なら、頑張る」


 未知の食材。それも魚。先程の魚料理により、魚の美味しさをこの上なく理解したエーは既に捕まえて食べる気でいる。


「んじゃ、明日の朝から探すか。今からだと中途半端な時間だしな」

「うん」


 本当は少しでも早く駆除するべきだが、この数日は魚人からの目撃情報も上がっていなかった。すでに死んだ可能性もあるが、探さない訳にもいかない。

 カンベルはエーに何かを買ってから、一人で今日は情報収集をしようと思っていた。

 そしてカンベルは約束通り串焼き一本を買い与えて、エーに股間を繰り上げられた。

 何かを買う約束を、勝手に好きな物を沢山買って貰えると思ったエーが悪いのだが、ケチったカンベルも少しは悪いのかもしれない。

 エーの胃袋が異常だと知っているのに、期待させたのだから。

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