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加護付きアイテム

 精霊袋を完成させて、おやつを食べて寝ている内にカンベルが教会から慌てて戻って来た。


「エー、教会に来てくれ。精霊袋の確認をしたいらしい」

「明日じゃダメ?」


 正直、身体の倦怠感が抜けていない。多少の食事と睡眠を挟んで休憩したが、精力を一度にほぼ使用した事と複数の属性を同時に行使した事で、精力は勿論体力の消耗していた。それも三度も連続で。

 普通は一度だけでも数時間から数日は眠るような無茶をエーはしていた。だが、あらゆる技巧と加護に恩恵などが合わさり一度の気絶をしただけで、残りは激しい虚脱感だけで済んでいた。なにか一つでも欠けていたら、如何にエーでも死んでいたかもしれない。ただ、重なる行使で虚脱感と倦怠感は抜けきっていない。それだけで済んでいるのは脅威なのだが。

 この連続行使と、先の戦闘により《多重行使》や《福音》等の修得や成長を遂げていた。《日進月歩の加護》が成長の促進をしているのが原因だが、余りにも修得までの期間が短い。同加護所有者でもここまで成長が早いのは確認されていない。それも、所有者がかなり少ないせいかもしれないが。


「早く確認したいらしいがな」

「確認してどうするの?」


 エーにとっては疑問に思う事だろう。自分で作り、自分で使うのに教会の許可が果たしているのだろうか。


「俺としても加護付きアイテムなんて初めて見たからな。それがどんなトラブルを呼ぶか、加護に詳しい教会に行っただけなんだよな」

「うーん」


 確かに加護の管理は教会で行っているので、加護付きアイテムについても詳しいかもしれない。


「俺もよく詳しくないんだがな。軽く説明したら、まず信じてくれなかった。当然だがな。ただ、何回か説明してようやく信じて貰えた。そしたら急に血相変えて実物を見たいと言ってきたんだよな」

「…………」

「それで、頼まれてたが急だったしな。時間も夜になる時間だし断ったが、ロンリルが神官長として神官権限しかない俺に指令をだしたんだよ」

「……、…………」

「それで悪いとは思うが……エー?」

「……すぅ」

「寝てんのかよ!」


 余りにも長い話と疲労によりエーは眠っていた。


「たくっ」


 溜息を吐きながらもカンベルはエーを抱えてベッドに寝かし付ける。カンベルだって、無理に連れていくつもりはなかった。幾らか上官からの命令だとしても、所詮カンベルは加護による特典として神官の一部権限を行使出来るにすぎない。権限剥奪があるかもしれないが、そこまで活用しない民間にとっては剥奪されても痛くは無かった。


「俺から言っとくから、今日は眠れ」


 エーを連れて行くのは明日以降でも良い。ロンリル神官長も、突然の報告に混乱していただけだろう。そう思いながら、カンベルは教会へと報告と説得に戻る。


「んー、ぐっすり」


 翌日、カンベルの交渉でエーとの面会を午前中に延ばしていたので二人で教会へ向かう。ロンリル神官長も時間を置いたために、夜になる時間に子供を呼び寄せる非常識に気付いたのでカンベルの要求にも素直に応じた。交渉や説得など無かった。


「一応エーも形式上だけはロンリルの部下みたいなもんだから、なにか要請があるかもな」

「私も神官長」

「一部な。神官長の一部権限だからな。外部の人間が本職と同等な訳じゃない。特典と言って首輪みたいなもんだ。普段は無料で食事や治療を受けさせて、いざとなったら戦力として要請しやすくする為のな。基本的に要請なんてないから、利益の方が大きいが」

「首輪……。戦力って?」

「非常時には都市の救護や支援も教会は請け負う。戦闘能力があれば前線にだって行く。戦争や魔物の氾濫時限定だが、加護の複数所持者は何かしらの戦力になる事が多いからな。居場所を把握するだけでも教会には切り札として精神的な助けとなる。まあ、要請は断れるがなって、聞けよエー!!」


 長ったらしい説明よりも、鼻腔を擽る香りに釣られて早速エーは買い食いしていた。


「ふぁほ、はんへふのはほしはがひ」


 口の回りを速攻でタレでベトベトにしながら数本の串焼きを貪る。先程朝食を食べたばかりなのに、お腹に溜まる肉の塊を次々に咥内に消えていく。


「はぁ。もう説明しないからな」


 カンベルも朝から疲れていた。エーの食欲に馴れた気でいたが、まだ完全に把握出来ていなかった。

 エーは盗賊討伐の報償金や遺品売却で所持金が増えていたので、教会に行くまでにかなり寄り道をして食を堪能していた。既にお腹はぽっこりだ。


「とりあえず、タレだらけの口と手を拭いておけ」

「ほむっ」


 最後の芋の一欠片を飲み込み、黄色地に小柄な白い花があしらわれた【幸運の花手巾】を取り出して、限界まで舐めたが取れなかったタレを拭っていく。幸運を呼び込む以外に、《浄化》が付加された稀少アイテム。拭った側から汚れが消えていく。食べ方は子供らしいエーは、結構食べこぼしなどが見られる。まあ、それも拾って食べるのがエーなのだが。


「神聖な場所だからな。よし、汚れていないな」


 神やそれに繋がる系譜が集まる教会は神聖な場所。本人が行える最大限の清潔さで訪れるのが一般的。カンベルも朝はなるべく髭を剃っているが、昨夕のように夕方に訪ねる時も髭を剃ってから出掛けていた。急遽訪問する時以外は誰だって行っている。エーだってそれくらいは弁えているので、「勿体ない」と思いながらもタレを拭った。


「んじゃ行くぞ」

「うん」


 荘厳な扉を開けると相変わらず様々な精霊が舞っており、すぐにエーへと楽しそうに集まり周囲を浮遊する。


「ようこそ、エーさん」


 精霊と遊ぼうとしたエーにそんな挨拶が寄越される。神官長ロンリルが既に朝の務めを果たし待機していた。


「おはよ」

「ちす。来たぞ」

「おはようございます、エーさん?呼び出してすみません。それとカンベルは何度言ったら、その粗暴な言葉を改めるのですか」

「だから、本職じゃないんだからいいだろ。俺とお前の仲なんだし」

「それも考え直す必要が出てきました。聞きましたよ。幼女を懐妊させたと。加護をそんな事に使用するなんて……」


 そう言いながらエーのぽっこりだお腹を見る。


「だから、それは嘘だ! こいつの腹の中は食いもんしか入ってねーよ!」


 もうハンスト全域で、カンベルの事は拡がっていた。幼女の妻が何人も存在する。それどころか、その幼女たちの間に赤子が何人も産まれている。最近は男児にも手を出している。カンベルといるだけで、子供が孕む。等々の噂が日々成長しながら拡散していた。エーが来るまでも、たくさんの迷子や遊び相手になっていたので、カンベルが子供好きだとは思われていた。《幼女吸引の加護》は一部の人間しかしらないので当然だが、子供好きの解釈が違っていたと子持ちの親は警戒していた。


「俺は無実だ! 俺が被害者だー!」

「懺悔は後程伺います」


 礼拝堂に慟哭が響いたが、エーもロンリル神官長も我関せず。これが日頃の行いの結果なのか。


「カンベルは放置して、エーさんはこちらにお願いします」

「うん」


 とりあえず、自分と他人に迷惑だと思いエーは股間を蹴り上げてカンベルを沈黙させてから、ロンリル神官長に着いていく。


「どうぞ、そちらにお座り下さい」


 案内された場所は居住区に入ってすぐにある部屋。革張りのゆったりした椅子が机を挟んで六脚。その一つに腰掛けて周囲を眺め回す。

 小さな窓が二つ。壁には神々が描かれた絵画。その両脇に綺麗な花が生けられた花瓶。ここにも実体を伴った精霊たち。他の装飾物は存在しない。


「さっそくですが、精霊袋と言う物を見せて頂いても宜しいですか?」

「ん」


 身に着けている三つの精霊袋をロンリル神官長に渡すと、ロンリル神官長は《鑑定》を使用して検証する。この技巧はやはり修得している者が多い。


「…………なんとまあ。なんて言って良いのか」

「えへん」


 ない胸を張って得意顔のエー。ぽっこりお腹でなかったなら、大変子供らしくて可愛いと思うだろう。非常に残念幼女だ。


「まず、これを作製したのはエーさんで間違いないのですね」

「ん」

「でしたら、第一に製作出来ることは本当に信頼出来る人物以外に話さないべきです。こんな代物が簡単に作製出来て、なおかつそれが子供の作ったものだと知られると貴女にも被害が及ぶでしょう」


 ロンリル神官長は精霊袋の強奪以外に、エーが誘拐されて強制的に作製させられたり、商人に作製依頼を法外な値段で頼んだり、自分の利益が減るからと殺害に乗り出す人物が現れる可能性を示唆した。いくら子供のエーだろうが、当事者ならばきちんと伝えて対策して貰うべきなのだ。


「後程カンベルにも伝えておきますけどね」


 こめかみを押さえて、すでに疲れた表情のロンリル神官長が「次に」と言って話を続ける。


「付加の数はまあ、複数の精霊による物だと思います。貴重度の伝説はこの性能を見れば納得ですが、精霊宝は私も聞いた事がありません。こちらは、上の者や文献で確認するしかないですね。ただ、加護を見るに精霊の祝福を受けて精霊たちの宝物として昇華したのだと推察出来ます。加護に関しては、精霊宝になったから加護を授かったのか、加護を授かったから精霊宝になったのかは不明ですね。加護付きのアイテムは神造級にて確認されています。ただ、神造級は数が少な、何れも国宝や神具として厳重に管理されています。それに近い物を人間が作製出来た事が驚きです」


 「現在はそのような技術が失われましたしね」と続け、そこで一度言葉を切り水を飲む。


「神造級に関しては、殆どが出所不明です。ただ、過去に作製出来た人物は存在も確認されていたはずです。ここの文献では詳細が解りませんでしたが、昔習ったように記憶しています。これら精霊袋は伝説級ですが、それより上と考えられますね。神造級よりは下と言う位置付けでしょうか。ですが、国宝としての価値がある物は確かですね」


 ロンリル神官長は流石に自分だけで終わらせる事が出来ないと考えた。加護の影響か、精霊袋はうっすらと発光しているので隠し持つ事も出来ないだろう。トラブルは確実で、先手を打たなければ、教会からも接触があるかもしれない。なにより、加護の記録は教会が全面的に行っている。各国の国宝や、教会所有の神具の名称と加護だけは記録として残されている。今後、加護付きのアイテムだとバレれば何があるか予測出来ない。


「作製出来るなら見本が欲しいですが、それすらトラブルに繋がりますね。エーさん、精霊袋の報告はしないといけませんが、作製出来る事は伏せさせて貰います。良いでしょうか」

「ん」


 エーは寝ていなかった。カンベルの計らいで、机の上には山ほどのパンが載っており、それを食べながら話を聞いていた。

 エーだって、重要な話だと理解しているので口も耳も休めずにきちんと傾聴していた。


「それにしても、よく作れましたね。いえ、精霊にここまで愛されているのを歓ぶべきでしょうか」


 ロンリル神官長も、かつてこんなにも精霊に愛された人間がいただろうかと思考を巡らす。知っている範囲では存在しなかったようにも思われ、改めて敬愛の念を込めてエーを眺める。精霊に愛されることは神に愛されることも同意。神の一部が精霊であるとも考えられているのだから。神に仕える身なれば、それは親愛と畏怖を持つのもなんら不思議はない。


「私はカンベルのように、性的な意味で見る訳ではありませんし」

「ん?」


 小さく漏らした呟きは、話が終わったとパンに意識が向いたエーには聞き取れなかった。

 エーがすべてのパンを食べて、ぽっこりだがぼんぼんなお腹となってようやく部屋から出た。ロンリル神官長は流石にこれに驚き、カンベルの言い分を一割は信じようと思う事にした。

 礼拝堂に戻ってくると、楽しげな声が聞こえてくる。見ると、孤児院の子供が一塊となり遊んでいた。


「はあ、この場所で遊んでいけないと注意しているのに」

「おおーー! いい加減降りやがれガキ共!!」


 塊を割り、中から現れたのはカンベル。


「カンベル、ここで遊ばないでください。みんな、カンベルから離れるように。子供が出来てしまいます」


 ロンリル神官長は丁寧に迅速にカンベルに群がった子供を引き剥がしながら、そんな事を無表情で告げる。

 普段の柔和な表情から一変した子供たちは恐怖を感じたのか、単に遊びの延長なのか孤児院の方へ駆けていく。


「おま、何言ってんだーー!」


 そんな子供を見た後にカンベルは叫んだ。そして、身体の一部に走った激痛によりすぐさま沈黙した。


「カンベル、煩い」

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