精霊袋
ローアたちと別れて、私はカンベルと寝泊まりしていた宿へと帰ってきた。
「ただいま」
「帰ってきたかい」
宿の奥さんに向かえられて、少し話をしてからカンベルの部屋に向かう。そんなに長い間過ごした訳ではないが、なんだか帰ってきたと安心できる。
帰れる場所があるって良いね。私も早く村に帰りたいな。皆元気かな。
「ん、カンベルいない?」
鍵を開けて入ると、部屋は者気の空。だけど、荷物は幾らか置いてあるので出掛けただけみたい。盗まれても問題ない安物ばかりがポツンと部屋に点在している。まあ、盗まれたら宿の信用問題に繋がるしね。きちんと鍵も掛かってたし。
「いないならどうしよ」
ちっかり兵舎の食堂でお昼ご飯を食べて来たから、今は食べなくてもいいしどうしよう。
この数日は、兵士の皆に頭を撫でられたり食べ物を分けて貰えたりしていた。交渉がない時は、エルと話したり兵士と模擬戦をしたりしていた。隊長さんがかなり強かった。
「そだ、戦利品の確認と袋作ろう」
数が多かったので私は確りと戦利品を確認せずに【クウロゥの袋】や【ジンロゥの袋】に適当に突っ込んでいた。
さらにその袋も数が多い。聞けば【ジンロゥの袋】には時間停止以外に、袋アイテムを収納する機能もあるみたい。
「可愛い袋あったかな」
ポシェット型の【ジンロゥの袋】はあるが、そこまで使わない物を容れる物が欲しいな。兎型の【クウロゥの袋】改良しても良いけど、変更出来るか解らないし、初めての作業だから他で作った方が良いよね。
「何かあったかな」
私は戦利品を次々に出していく。何れも稀少以上の一品なので、何らかの効果が付いているのも多い。
「んー、これかな」
私は別に着る物とかはどうでもいい。今までも生きていくにはまず食べること、次に安心して眠れる場所が重要で衣服まで執着しなかった。今も自分で作った崖山羊の皮で作った服しかない。単に筒状にした生地に肩紐と腰紐を取り付けただけ。
だけど、可愛い物があるなら活かさなきゃね。これからも服にはお金を使うくらいなら食べ物に使うけど、手にした物なら使わないと勿体ないしね。金持ちしか着用しないって言う下着も、皆は憧れているみたいだけど、お腹の足しにもならないし要らないし。見様見真似の粗悪な下着は反って蒸れて痒くなるみたいだし。そんな締め付ける物なんて何処がいいんだろ。
「それよりも、付与だよね」
【ジンロゥの袋】には《風精霊》と《闇精霊》に、さらに相反する《光精霊》の協力が必要だったよね。
そして、私が選んだ袋は効果付きの稀少な袋。
【サンフラの香り袋】:サンフラの香木を特殊な加工で繊維状にして作られた袋。常にサンフラ特有の甘く爽やかな香りを放つ。
付与:《衝撃耐性(小)》《火耐性(中)》
「少し付け足そう」
色は薄緑色。だけど、装飾がされていない。まだきちんと商品になる前に奪われた物なのかな。
職人の技巧によるけど、場合によっては一つを作るのに何人もが携わる。木を伐る《伐採》や加工する《木工》に《裁縫》などなど。技巧さえあれば一人で出来なくはないが、そんなことする人は少ないはず。
技巧を修得するまでは素人から半人前。修得して晴れて職人になるが、それは技術的な物で長年の経験や勘等で差が出てくる。匠はそれを極めた人。だから、技巧があってもそれは一人前の証明なだけで、実際はかなりの差が生まれる。
それ故に、専門のみを請け負い、また他の専門職人に引き継がれて商品は完成する。暇潰しに兵士たちと色々話したから無駄そうな知識や必要になる知識まで得られた。
「これで良いかな」
これまた稀少な素材から白い反物を取り出して、それを裂いたり切ったりして花の形にする。
《家事》は専門の《裁縫》に劣るが、いろんな事が一纏めになっており、普段の生活には欠かせない。花嫁技巧の一つみたいだから、女性は殆ど修得している。
一つ一つをさらに続けて練習すれば、それぞれの専門技巧が修得出来るみたいだけど、私はそこまでは取らなくてもいいや。普通に生活出来ればいいしね。
稀少な【マイカ布】は効果がなく、単に糸が集まり難い為に貴重度が稀少みたい。
「よし、縫っていこう」
布の一部を解いて糸にして、花型の布を縫い付けていく。
両面の右下に大きい花を付けて、斜め上に二回り小さな花を取り付ける。表にはさらに幾つか小さな花を付け足す。これで、ポシェットや兎リュックと釣り合う可愛さになったかな。
自分の服だけが可愛くないけど、そこまで作るのは面倒だからいいや。
リュックよりやや大きな手提げ袋が完成した。これで、付与する準備が出来た。
「失敗しないようにしなきゃ」
元からの付与効果がどうなるかもやって見ないとわからないけど、失敗してもやり直し出来るかもしれないしとりあえず。
「お願い、《風精霊》、《闇精霊》、《光精霊》……《樹精霊》に《癒精霊》と《疫精霊》も。《土精霊》や《剣精霊》もいいの? ありがとう、みんな力を貸して。この袋に祝福を」
本来の三属性精霊以外にも頼んだのは、なんとなく。なんだか、その方が良いような気がしたから。まあ、みんなやる前から集まって来ていたから仲間外れにしたくなかったからでもある。みんな、力を貸してくれるように近付いてきてくれたからね。
「んくっ、ん、つよい」
広大な空間を思い浮かべながら、精霊に精力を渡し始めるとかつてない程に精力が抜けていく。
そう言えば、こんなに多属性を一度にお願いしたことなんてなかった。普通そんな状況にならないしね。
「あ……だ、め」
いくら《精霊遊技》や《森羅万象の加護》の恩恵や、《日進月歩の加護》で強くなった能力でも追い付かないくらいの精力が一気に抜けて、反動で私は気絶した。
***
なんだか揺れてる。うーん、うるさい。
「おい、エー」
「…………んぅ……もう少し」
「もう少しってなんだ。いや、無事なら良いんだがな」
ん、カンベルの声? しかも、身体の揺すりから頭を撫でられる感覚がする。
「ん、んゎー。……カンベル? おはよう」
目が醒めるとカンベルがベッドの縁に腰かけて、私の頭を撫でていた。
「エー。なんともないか?」
「ふあぁ。なんのこと?」
なんか、心配してるのかな。
「いや。俺が帰ってきたら、床にエーが倒れてたからな。顔色も悪そうだったし」
「んー……あっ」
そうだった。かつてない精霊との作業の負担で精力が一気に尽きたんだった。それからは、気絶したのかな? 一度に精力が消費されると気絶するみたいだし。最悪、廃人化や死亡するとも聞いたことあるし。
とりあえず、カンベルには私がしていた事を伝える。
「ジンロゥの袋を作ろうとしてたって。その多属性の精霊術はなんだよ。そりゃ、気絶くらいはするだろ。つか、よく気絶だけで済んだな」
「大丈夫だと思ったんだけどな」
「傍に落ちていたこの袋がそうなのか?薄っすら発光してるんだが」
「失敗したのかな」
「さあな。少し《鑑定》すっぞ」
「うん」
カンベルも技巧は持ってるんだね。ベテラン猟師なら持っていて普通か。私も《鑑定》してみよう。
【エンロゥジンクウの手提げ精霊袋】
貴重度:伝説・精霊宝
説明:多種多様な精霊の祝福を受けしサンフラの香り付き次元袋。この袋に入った物は状態の劣化が発生せず、さらに物により祝福を受ける。ただし、この次元袋に収納されたその他袋の中身には干渉しない。袋の口よりも大きな物も収納出来、収納量は所有者の精力と恩恵に比例する。また、所有者以外には取り出しが出来ない。精霊の祝福を追加可能。精霊の宝物。
製作者:エー
所有者:エー
付与:《斬撃耐性(大)》《衝撃耐性(中)》《火耐性(中)》《風耐性(大)》《土耐性(大)》《状態維持》《自動修復》《次元収納》《浄化》《福音》《強靭》《所有者契約》
加護:精霊姫の光
「……成功?」
「…………おい。おいおい、なんなんだよ、これ! 伝説級だぞ! 精霊宝なんて見たことも聞いたこともないぞ! あと、なんだよ、この性能と付加の数は! アイテムに加護ってなんなんだよ! おかしいだろ、これ!!」
「カンベル、煩い」
とりあえず喚くカンベルの股間をベッドから降りて蹴りあげる。これが一番楽に静かになる方法だって気付いたんだよね。
「おふっ」
それにしても凄い。初めてこんなアイテムを見た。カンベルが驚くのも仕方ないのかな。
こんなに凄いなら、リュックとかにしたら良かった。手提げ袋だと、手に持っていないといけないしね。よし、精力も回復したみたいだし、リュックとポシェットにも同じようにしてみよう。
こうして、食事と回復を挟んで二つにも同様の事を行った。二回目からは気絶はしなかったが、かなり眩暈と吐き気が襲いかかって大変だった。吐くなんて勿体ないから、気合いで我慢した。
【エンロゥジンクウの背負い精霊袋】と【エンロゥジンクウの肩掛け精霊袋】が出来た。
背負い精霊袋は元が【クウロゥの袋】で、《衝撃耐性》と《火耐性》が無い代わりに《大容量化》が付与された。
肩掛け精霊袋は元が【ジンロゥの袋】で、同じく《衝撃耐性》と《火耐性》が無い代わりに、《容量増加》と《最適化》が付与された。大容量よりは容量が少ないが、《最適化》は袋と中身どちらも最高の状態になる破格な性能みたい。ほかの付与は何れも同じだった。
前回の戦闘でもかなり能力が強化されたけど、今回はさらに精力と知力に恩恵がかなり増加した。新たに技巧も修得したしね。
体力:105(+415) 精力:39(+570)
腕力:35(+180) 脚力:46(+185) 知力:29(+315)
俊敏:48(+175) 抗体:41(+470) 恩恵:25(+275)
技巧:
[武器]
《短剣術》《弓術》《槍術》《斧術》《棒術》《体術》《投擲術》
[精霊]
《土精霊》《樹精霊》《風精霊》《闇精霊》《光精霊》《癒精霊》《疫精霊》《剣精霊》
[向上]
《腕力中強化》《脚力中強化》《知力小強化》《俊敏大強化》《抗体最大強化》《恩恵大強化》《視力大強化》《聴覚中強化》《嗅覚中強化》《味覚最大強化》《触覚中強化》《体力中強化》《精力大強化》《臓腑大強化》《咀嚼大強化》《不屈》《身体制限解除》《治癒力強化》
[体調]
《打撃中耐性》《刺突中耐性》《斬撃中耐性》《毒大耐性》《熱小耐性》《冷小耐性》《飢餓大耐性》《脱水最大耐性》《麻痺小耐性》《溶解小耐性》《睡魔中耐性》《魔晶小耐性》《感染中耐性》《枯渇小耐性》《落下負傷緩和》《混乱緩和》《恐怖緩和》《体力回復》《精力回復》《消化加速》《精神安定》《完治》《精力還元》《食事回復》
[工作]
《農作》《伐採》《木工》《石工》《家事》《鑑定》《罠作》
[技術]
《隠密》《追跡》《予測》《闇眼》《解体》《調教》《騎乗》《気配察知》《思考加速》《空間把握》《鳴き真似》《威嚇》《意思疎通》《跳躍》《食材知識》《多重行使》
[特殊]
《毒喰らい》《腐食喰らい》《生物喰らい》《蟲喰らい》《不浄喰らい》《人喰らい》《栄養吸収》《生存本能》《帰巣本能》《防衛本能》《呪怨》《怒波動》《野生》《逆境快楽》《福音》
[固有]
《身体把握》《精霊遊戯》《森の寵愛》《森羅万象の加護》《日進月歩の加護》《食育の加護》
主武器:陽幸の片手剣
副武器:センリの棘棒、キンキョダガー、環凛の短剣
防御具:崖山羊の服、風猫のブーツ
火蜥蜴の指無しグローブ、ミリミルの胸当て
装飾品:勝情の指輪、水霊の首飾り、火精の腕輪
霊声の髪飾り、幸運の花手巾
装備も大分潤ったし、かなり強くなれたかな。
あ、カンベルは煩いから部屋から追い出したよ。てへ?
まあ、教会に袋の相談に行くって言ってたけど。祝福を受けたアイテムがどう言う扱いで、どんなトラブルがあるか調べる必要があるみたい。よく解んないから、任せよう。
能力値と技巧の能力値補正は可笑しくないか見てから追加します。
パソコンに入れてたメモが消えてしまったので……あぅ。




