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戦利品交渉

 昨日は街に帰ってから兵舎での聴取と戦利品の記録を取るのに時間が掛かり、解放された頃にはすっかり日が落ちていた。


「こんなに掛かってごめんね。御詫びに何か好きな物食べていいからね」


 ローア小隊の面々を連れて、兵舎近くの食堂へとやってきて「好きなだけ選んでね」と言ってくれたので、全品注文したら驚かれた。

 冗談と思っていたローア小隊と店員はそれを許可してくれたが、店員がローアと何か小声で話していた。きっと、途中でストップすると思ったんだと予想する。ざんねんでした。

 ローア小隊の皆が運ばれてくる料理に手を付ける。私が頼んだのに、皆が手を付けている。初めは大皿料理だからかな。仕方ないな。


「エーちゃん。お腹一杯になった?」

「ぜんぜん」


 しばらく食べていると、ローアがそう聞いてくる。

 聞けばローアはカンベルの弟子らしい。過去に剣術等を習った事を食事をしながら教えてくれる。

 ローアたちは大人で、さらに兵士として身体もしっかりしているのでかなり食べている。私も負けないよ。


「エーちゃん。そろそろお腹一杯になった?」

「まだまだ」


 皆の手が止まっている。もう満腹なのかな。


「……エーちゃん。もう入らないよね」

「まだ」


 先程から店員も顔を引き攣らせながら、追加の料理を順番にもってくる。すでに、大皿料理は全品制覇し定食も半数は一人で食べている。


「あ、あの。エーちゃん」

「まだ、入るよ」


 定食はこの一品で制覇する。残すはオツマミと甘味なんだけど、そこにローアが泣きついてきた。


「ごめん、ごめんなさい。エーちゃん、許してー!」


 オツマミを食べようと注文しようとしたら止められた。


「もう、私のお金がないの! 皆からもお金を借りたけどこれ以上払えないの! 甘味は高いし、その前にもう無理なの、だから許してー!!」

「まだ、食べられるのに」

「もうお金がないんですー! 許してくださいー」


 大声で泣き叫ぶので、周囲の客が何事かと注目してくる。

 鎧は脱いでいるが、兵士の服を着た女性が私みたいな子供に泣いて謝っているので、周りが何事だとヒソヒソと話している。


「好きなだけ選んでっていったのに」

「私が甘かったよ。戦力を見誤るなんて」


 ローアが床に座り込んで泣いている。それを小隊の面々に、さらに店員まで混ざって慰めている。だけど、店員は予想外の売り上げだからか、慰めているよりは感謝の言葉を伝えさらにローアが泣いている。

 そんなことがあった昨日とは違い、今日の朝食は質素だった。

 

「物足りない……」


 兵士って、こんなに質素なの?

 私がどうして兵士の食事を食べているのかと言うと、ローアの部屋で泊まったから。

 普通は兵士じゃないので泊まれないが、今日から戦利品の交渉があるかもしれない事と、勾留されているエルの話し相手になってくれないかと打診があったから。

 一応、来客用の部屋があったが、ローアからの誘いで特別に彼女たちの部屋に泊まらせて貰った。六人一部屋だったが、ローアに抱き付かれて眠った。

 金欠となった彼女の表情が暗かったので、断ることも出来なかった。うん、気遣いも出来る私って大人だね。

 朝食を食べた私は、そのままローアと共にエルの面会に。エルは年齢的には子供だが、盗賊に年齢は関係ない。だけど、大人よりは刑が軽くなるし、境遇や殺人の経験がないことを含めて二年間の街兵預りで更正させる予定だと聞いた。これはまだエル本人には話していないらしい。今後の話し合いでより事実関係等を聞いて嘘がないかなど調べるとのこと。

 なのに、なんで私には話すかな? 二人で話す時に嘘がないかさりげなく聞き出すって、子供の私のすることじゃないような。


「報酬にご飯」


 そう言ったら泣かれた。なぜ。

 取り合えず、エルの担当はローア小隊のメンバーが引き受けるらしい。今日は、その説明をローアからしてあとはメンバーが午後から聴取らしい。

 そして、今日のうちに交渉はなく兵士の訓練を見たり、模擬戦で打ち負かしたりして過ごした。


「エーちゃん。今日のお昼から一人交渉したいって人いるけど、良い?」


 翌日の朝、ローアから話を聞いて移動する。昨日の夕方に交渉依頼があったらしい。

 相手は商人で、交渉品は稀少に分類される壺だった。壺なんていらないから、交渉に応じる。これでもっとお金が入る。

 すでに貨幣だけで五十万近くも入手している。シンク金貨はなかったが、シンク銀貨以下が何枚かあったのが大きい。


「あなたが現在の所持者ですか?」

「うん」

「彼女が正式な所持者である保証は私たちがします。ですから、子供だからと下手な交渉は行わないように」

「え、ええ。それは心得てます」


 どうやら私が子供なのに驚いて、次に安く買い戻せると思ったのかな。それをローアが先手を打った。なら、私も何か言っとこうかな。


「交渉はこの【ペピラタンの花壺】でいい?貴重度は稀少。陶芸士ペピラタンの作品。聞いたら、ペピラタンの作品は最低でも五十万はするって」

「え、え、ええ。よくご存知で」

「《鑑定》持ってるから」

「そうですか」


 今言った事は《鑑定》で調べた結果と、ローアが価値を教えてくれた物だ。猟師や商人じゃなくても、兵士や傭兵も《鑑定》を持っている人物は多い。まあ、夜営時に採取したものが毒か調べたりもしないといけないしね。

 当然、戦利品は全て《鑑定》まで行われている。中には国宝等も含まれていた場合には至急報告をしなければいけないから。


「では、仕入値の五十万に五万を足した、五十五万で返還をお願いしてもよろしいでしょうか」

「んー、百万」

「ちょっ! ひゃ、百!? な、なにを!」


 これは、ローアや小隊のアドバイス。幾ら最低価値を伝えても、子供だからと平気で最低価値で交渉してくる人物は信用するなと。本来はもっと高い仕入値や価値だが、安く買い直そうとしてくる。あえて倍で値段を伝えて様子を見る。慌てれば、単純に高いか、吹っ掛けに驚いているか。もし、それで即決ならさらに価値はあるが、一度言った値段を吊り上げるのは心象が良くない。最悪三倍の値段を言うのもありとか。

 こんなこと、普通はアドバイスしないらしい。交渉には当事者間で行うもの。立ち会いはするが、それは脅迫や盗難などのトラブル抑止を行うだけ。だけど、私が子供だから、簡単に騙そうとしてくるだろうからと、アドバイスを貰った。

 うん、この反応だともう少し高いかな。価値は六十は最低するのかな。


「それは流石に無理です」

「なら、無かったことに」

「待って下さい。六十出します」

「……九十」

「厳しいですが、七十」


 本来は既に喪った物。それでもお金を出すのは、本当に価値ある物か大切な物。本来の倍は支払う物なんて、そうそうない。まして、商人が買い直しするほどの物。まあ、所持者には利益しかないので、売れれば良いと言う考えもある。物によっては転売が怖いものがあるらしいしね。


「八十八万」

「はっあ? そんな高い訳あるか!」


 商人が怒った。交渉をよくする商人なのに、そんなすぐに怒るのかな。


「……、あなたは本当に本来の持ち主ですか?」

「ほ、本当に決まってるだろ!」

「エーさん、暫く時間をくれませんか?」

「うん、いいよ」


 ローアが促し、渋々商人が退室した。

 暫くして帰って来たのはローアのみ。


「ごめんね。交渉は無しになったよ。本来の持ち主じゃないみたい」


 交渉対象品は公表される。中には、それを見て持ち主だと嘘を吐く人もいるとか。事前に取り調べるが、商人だとなかなか確認は取りにくい。今回の商人も公表された物から選んで、持ち主だと嘘を吐いたとの事。商人だと、たまにいるらしいので始めから警戒していたらしい。

 交渉には基本、本来の持ち主か家族などの関係者に限られる。持ち主の虚偽申告は罰金か、数日の勾留が課せられる。ああ、臨時収入が。


 さらに二日後に交渉したのは、短剣。これは刃が零れていたが、意匠もされており見た目と実用を両立した一品だった。

 これは、持ち主の妻と言う人が交渉に来て十万で受け渡しが成立した。遺品だとか。

 この日にもう一件。次は二つの指輪。大きさも意匠も違っていたもの。

 交渉はまたも商人。だけど、貴重度は稀少ですらないのに、開口一番に幾らでも出すと言った。

 話を聞くと、妻と私くらいの娘に買った指輪だったらしい。怪我を負いながらもなんとか生還したのは商人のみ。家族三人で旅をしながら品を売り歩いていた所に盗賊に襲われたとか。

 二つ合わせて十万で受け渡た。あまり安すぎても、良い訳でもないらしい。よく解らないが、そう言うものらしい。むう、難しい。

 結局、期間中に交渉成立したのは遺族からの二軒のみ。交渉金額合わせて二十万。壺より安い。まあ、私はタダで還そうとして止められたんだけどね。だって、家族が遺した物は取って置きたいよね。

 私の家族は喰われたりしてないんだけどね。服の切れ端を奪う気にはならなかったから、そのまま一緒に埋めたし。家は燃え尽きたから、私の物含めて焼失したしね。


「エーちゃん。師匠の所に戻るの?」

「んー、たぶん」


 このまま旅に出てもいい。でも、まだ家族になれていない精霊もいるし、迷うね。暫くは、また宿かな。

 この数日で、エルの処遇も決まった。戦闘の経験も少なくあるし、やはりローアの元で共に訓練に参加し更正させていくらしい。二年後に、教会に行くか兵士見習いになるか選択肢を与えるとのことだ。だから、なんで私に話すかな。エルからは、なぜかカンベルの事ばかり聞かれたし。むう。


 ちなみに、盗賊が所持していた貴重でもない装備品は引き取って貰った。それでも、十二万ちょいにはなった。

 拠点内には何個も【クウロゥの袋】があり、二つの【ジンロゥの袋】もあったので、残りはほぼ全てその中に入れた。入らなかった、価値のない武器類はまたも十五万で売れた。予備の武器だったのか、装備品よりも状態は良くて数の割には高かった。

 今回、お金よりも武器や装飾品にその他の物が多数手に入った。

 あ、協会からの依頼は受けていないので依頼料は貰えなかった。ただ、壊滅の実績から報酬に五十万も貰えた。やった、これで美味しいもの食べれる。

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