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戦後処理

 カンベルが複数の女性を侍らしていたのに気がつくと、いつの間にか股間を蹴りあげていた。


「師匠!」

「おっさん、このっこのっ」


 何か呻いているカンベルに私を真似した年下の女の子が股間に追撃を加えていた。


「カンベル、ご飯ちょうだい」


 途中から呻きすら聞こえなくなったけど、そんなことより何か食べたい。正直、結構キツイ。


「アナタは誰ですか」


 カンベルと共に来た女性が剣に手を掛けて誰何してくる。


「エー。だれ?」

「私はハンスト街兵守護部隊の小隊長ローア。あなたは盗賊の生き残り?……でも、師匠を知ってるみたいだし」

「そいつが、さっきの仲間達を殺してるのを見たぞ!」

「エルちゃん? 本当?」

「そんなことより、何か食べ物ない? お腹空いた」


 私が誰かなんてことよりも、まずはご飯が先。このままじゃ意識を無くしそう。


「え、えーと。これ、食べる?」

「うん!」


 なんとか小隊の人が、干し魚と水納を渡してくれて直ぐに受け取り口に入れる。

 流した水で柔らかくなる魚は味が濃縮されていて美味しい。だけど、携帯用だからか量が少なくすぐに無くなった。


「足りない。まだ、ない?」

「……話をしてくれるなら」

「えー。あ、私のことならそれに聞けば良いから、何かちょうだい」


 カンベルを指差しながら食糧をねだる。実はお祭りで買った珍しい食べ物はまだ少し残っている。だけど、そんな貴重な物はゆっくりじっくり食べたい。


「やっぱり師匠の知り合いなの?」

「うん。カンベルより上」

「上?」


 加護特典じゃ、私の方が立場が上だしね。知り合い以上って言えばより食べ物を貰えるよね。


「え、えーと。みんな、とりあえず」


 女性たちが困惑しながらも、同じく干し魚を渡してくれる。女の子はカンベルに跨がり、血濡れの泥でカンベルの顔に落書きして楽しんでいる。よく見れば手が縛られているけど、器用だね。


「あぐ、んむっ。ぷふぅ。ん、ありがとう」

「は、はやい」


 あっという間に無くなった携帯食に、代表らしい女性が驚いている。いや、女性みんなか。


「うがー、さっさと降りろー!」

「うぎゃ!」


 ようやくカンベルが復活し、女の子が転がり落ちる。


「あと、エー! いきなり蹴るな! 何考えてやがる!」

「んゎ、なんとなく? あと、何かちょうだい」

「謝れよ! あと、食い意地ばっかはってねーで、ちゃんと説明しろ! 湖行くって言ってただろ」

「あ……ごめん。でも、その……」

「心配かけさせるんじゃねーよ」


 なぜか頭を乱暴に掻き乱された。むー。


「ほら。それ食ったら、話せよ」

「うん」


 干し魚に干し肉。さらに干した果物。保存の効く兵士や猟師の携帯食。さっきのもだが、日持ち優先で味は店売りよりも落ちる。だけど、これは噛めば噛むほど味が出る。それをカンベル一人の量より多く手渡される。


「お前の分もある。一応、お前の付き添いだからな」

「うん、ありがとう」


 猟師見習いか何かで行動を共にすることになったカンベルだけど、たった数日の付き合いだが一緒にいたのでこの気遣いに恥ずかしく感じる。だって、お祭りに一緒に行くはずだったのに結局別行動だったしね。それなのに、私の分もあるなんて。


「師匠がまた幼女を手懐けてたなんて」


 なにか落ち込んでいる人がいるけど、まずは小腹を満たす事が優先。ん、これ日持ち優先のじゃなく、味も保たれてる店売りのやつだ。


「んで、なんでここにいるんだ。湖は?」

「ごめんなさい」

「謝るのはいい。理由が聞きたいんだが」


 あれ、なんか怒ってる? いつもの乱暴な口調とも違うような気がする。


「えと、その」


 人を殺すのに慣れる為なんて言ったらどう思うかな。


「復讐の為か?」

「え?」

「お前の村を襲った奴等の復讐の為に、ここに何か用があったのか?」

「な、んで?」

「そう言う奴らもいるからな。それに、お前くらいの力があれば行動に移そうとするだろ」


 私みたいに復讐をしようと思うのは普通。だけど、村人たちみたいに非力なのと、今現在の生活全てを捨てることを恐れるのも普通。私だって、《精霊遊戯》や他の技巧が少なかったら躊躇ったかもしれない。

 それでも、やっぱり家族の復讐の為に動いたかもしれないけど。


「うん」


 頷くと、間髪入れずに左頬に衝撃とやや遅れて痛みが走った。


「師匠……」

「なに考えてやがる! 助かった自分の命を大事にしろ! 相談くらいしやがれ!」

「…………」

「お前がどんな目に合ったか知らない。どんな思いを抱いてるのか解らない。だけど、少しは相談に乗れる。少しは力にだってなれるかも知れない。自分の命を大事にしろ」

「……、……ごめん。でも、私がしなきゃ。私が皆の分も殺さないと。私が、私が家族の分もやり返さないと。私が……わたし、が…………」


 なんで涙が出るんだろ。殺すって、復讐するって誓ったんだから。だから、泣くことなんてないのに。

 カンベルはあの場所にいなかったから相談なんて出来ない。皆が密かに私に期待した想いだって知らない。なのに、復讐に力を貸すなんてあり得ない。私は自分の命が大事。だけど、まずは復讐しないと家族や村人たちが安らかに眠れない。私もよく夢を見るんだ。村人たちも忘れることなんてない。だから、決着を着けないといけない。じゃないと、私は死んだのも同じだから。この二年、ずっとその為に力を付けたんだから。他人が気軽に力を貸すことなんてあり得ない。


「私は……殺さないと、私じゃいられない」

「なら、殺ればいいだろ。だが、一人で背負い込むな。今回だって無理したんだろ」

「他人を巻き込めない」

「同じく、そいつらに潰したい奴を集めろ。それに、今回は復讐相手じゃないんだろ? なら、無理なんてするな」

「だって、カンベルは参加することを反対した」

「そりゃ、普通はするだろ。だけど、……あー、もう! ああ、俺が悪いよ! 解っていたさ、お前がこうするだろうって! でも、そうじゃないかもって思って逃げたさ! 俺の勝手な幻想に眼を背けたさ! でも、やっぱり相談くらいしてくれよ。ローアたちなら、お前を受け入れてくれたはずだ。いや、受け入れてさせた。一緒に討伐するように口添えした」


 私を抱き締めて、小さく「俺ってダメだな」と呟いたのは無意識か。


「悪い。俺の勝手を押し付けた」

「叩いた分の御詫びに美味しいご飯」

「お前な。俺を心配させたことでそれは無しだ」

「ぶー」

「食べる事以外にないのか、お前には。……いや、悪い」

「別に。あと、その変な顔で何時までいるの」

「ああ?」


 私を抱いていた腕を離して顔を拭う。


「なんだ、これ。なんか引き攣ると思っていたら。おまえかー!」

「わー! 犯されるー!」


 女の子が一人の女性の背後に隠れる。カンベルは、一生懸命に顔に落書きされた泥を拭き取っている。


「お前らがいると締まらないな」

「カンベルがそれ言う?」


 女性たちは状況に付いていけずに、無言で私たちのやり取りを見てるし。


「とりあえず、盗賊団はどうなった?」

「何人かは逃げた。副団長って言う一人も」

「そうか」


 私たちの戦いの余波の外にいた数名が逃げたのは知ってるが、それを追う余裕がなかった。

 ここにある死体は凄惨だ。私の精霊術によって斬られたり穿たれたりした以外にも、ルドントだったかルドルフだったかの副団長に盾にされたり踏み殺されたりした死体、四人の女性の攻撃で串刺しになった死体。その四人の女性も含めて、もう一人の副団長が行った《剣精霊》の攻撃に巻き込まれた死体。その副団長自体も顔の原型がない撲殺死体となっている。まともに五体が綺麗なままの死体がない。余波に余波が重なってバラバラなのが多い。


「あそこに、もう一人の副団長」

「なに!」


 カンベルだけじゃなく、女の子も含めて全員が駆けていった。


「エル」

「顔は解らない程酷いけど、副団長の服装だ」


 なんで女の子が知ってるのか疑問だったが、カンベルが盗賊団の捕虜だと教えてくれた。手は縛ってるけど、そんな自由にさせていいの?カンベル蹴りまくってたけど。


「こいつもエーが?」

「うん。半分は味方の攻撃で死んだけど」

「巻き込まれた……半数以上も?」

「うん」

「師匠。盗賊団なのですから、仲間意識は薄いのでは?」

「おう。私たちはいろんな傘下がいたから利用しあう関係しかなかった。背後から刺されても油断する方が悪いって」

「まあ、大きくなるとそうなることもあるか。とりあえず、ここの壊滅の手柄と戦利品は全てエーに与えられるな」


 え。でも、私が殺したのは半数かそれ以下じゃ。


「巻き沿えのも含めて、討伐者はエーだけだからな。ここに有るもの全ての権利はお前のものだ」

「私たちは周囲と拠点の中を調べて来ます。まだ隠れてる者や、囚われている女性がいる可能性もありますので」

「おう」


 そうして、私とカンベルだけを残して移動していく集団。


「悪い。つい、叩いちまった」

「なら、ご飯」

「お前な……」


 それからカンベルと共に戦利品を回収している間に、さっきの人たちが戻ってきた。


「残敵は居ませんでした。ただ、三人の女性と一人の女の子を保護しました」


 至る所に傷を負った、ボロボロの衣服を身に纏った四人の女性が増えていた。みんな喜んでいる雰囲気もなく、悲しんでいる様子もない。


「多数の慰みに利用されているようです。彼女たちは此方で保護をさせて頂きます」


 武器や道具などは戦利品としての権利が発生するが、人間はそんな対象とは勿論ならずに、然るべき場所で保護をして治療等をして帰すらしい。

 家族を喪い、住む場所を無くしていれば暫くは保護施設で預り、大人は仕事の斡旋を受けた後に出ていき、子供は教会預りになるとのこと。


「とりあえず、他の部隊が来る迄に周囲の物資の回収をしましょう。部隊が揃えば遺体の処分ですね」

「エーちゃんにはここの全ての権利が与えられるけど、戦利品の種類や数の記録を街に着いたらしないといけないから暫くは私たちと一緒ね」

「もし、盗品に返還希望者がいたら交渉になるべく出て欲しい。返還金などの交渉もあるから私たちも同伴だから、そこは安心して。交渉期間は明日から五日間。なるべく連絡の着く場所にいて欲しいかな」


 戦利品を回収しながら、着々とこの後の説明を受ける。傭兵や猟師、中には兵士にもどさくさに紛れて戦利品を持ち去る者もいるので、なるべく早く行う必要があるらしい。


「遺体からは価値の有りそうな物だけを先に回収ね。後から来ても、大した物が無ければ横取りの確率が減るからね」


 彼女たちにも横取りの可能性はあるが、自分一人では回収にも時間が掛かるので、もし横取りされたら諦めるしかないかな。

 粗方の回収を終えて、ようやく追従部隊が到着した。


「こっちはもう終わってたか」


 どうやら、ここから逃走した何名かと戦闘をして遅れたようだ。相手は逃げるだけだが、追従部隊は全滅させる為に追い掛けて討伐していたので、ここに来るのが遅れたらしい。それでも、捕り逃しはあったが、さらに後からの追従部隊もいるので途中からは拠点を目指して移動したとの事。

 本来は、第二部隊となるこの隊は拠点への後詰めだったが、功を焦った同伴の猟師が逃走中の盗賊を追った為に仕方なく兵士も討伐に加わった。

 急編成で、違う生業なのでこういうトラブルもあるらしい。本来はベテラン猟師が随伴するが、今回のベテラン猟師は弟子を数名取っていた。今回の暴走は弟子がやらかしたもので、責任はベテラン猟師が受ける事となった。勿論、暴走した弟子はすでに街に帰され師弟関係もこの後解かれるとの事。弟子にも責任は負わせないといけないからね。


「よし、では焼却!」


 次次と来る部隊によって戦利品は回収された。遺体は着ていた服以外が剥がされて積み上がっている。

 その遺体の山に、数名が《火精霊》の精霊術を放って燃やす。

 精霊術は、一定距離内の恩恵が高い方の指示に従う。だが、目的が同じで、繋がるイメージを複数人が持てば共鳴を起こしより強力な精霊術を行使することが出来る。あの四人の女性も共鳴により術の行使をしていたと思われるが、不明な部分もあった。全員が行使後に死ぬなんて、よほど恩恵が少なすぎる者たちだったか、契約もしていない精霊を無理矢理行使したか。原因は不明。


「それじゃ帰るか」

「うん」


 まだ、残敵の警戒と索敵は行われる。だが、ほとんどの討伐作戦はこれで終った。

 私はこの後、戦利品の記録を取られてより細かな状況報告をしなければならない。


「はやく何か食べたいよ」


 まずは街に行こう。向こうに着けば、時間を見つけて何か食べられるかもしれないしね。回復してきているが、お腹は空いたままだしね。

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