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制圧、合流

「……強くなってきた」


 あれから、度重なる襲撃があった。装備も練度も向上しており、五人単位での襲撃が。その中には必ず精霊使いが一人は含まれており、剣を使う機会が減って不満だ。


「水霊の首飾りが一番の戦利品だけど、水精霊と仲良くなってないよ」


 現在倒した精霊使いが《水精霊》によるやや強力な攻撃を仕掛けてきた。どうやら、この【水霊の首飾り】により《水精霊》の力を強化させていたみたいだ。貴重度は稀少で、僅かに《水精霊》の能力強化を行う装飾品だけど、まだ親しくなれていない私としては非常に残念なアイテム。綺麗だから身に付けるけどね。


「この先に集団がいるの?」


 襲撃の回数が増えてきたので、定期的に《風精霊》に索敵をお願いしており、とうとう拠点と思われる場所を発見した。強化された聴覚にも人の声が聞こえてきたので間違いはないはずだ。


「いこう」


 山菜や肉で随時食事を摂っていたので、空腹は大丈夫。ただ、精霊術を多様していたので《城壁》のような大技は使えそうにない。


「射て!」


 私が真っ直ぐに拠点に向かうと、どうやら向こうも私の姿を確認したようだ。

 偵察が戻って来ないことに警戒していたのか、すでに臨戦体制だったところに私が現れた。

 弓使いが、精霊使いが一斉に遠距離攻撃を仕掛けてくる。


「《風精霊》お願い。向かってくる矢を吹き飛ばして。《土精霊》お願い。壁で攻撃を塞いで」


 私は冷静にお願いする。中には腕利きの弓使いや精霊使いもいるが、私程ではないのがここまでの戦闘で解っている。ただ、ここは本拠地。さらに腕利きがいても可笑しくはないので、二重の防御を取る。

 一足速く向かい来る矢の雨を《風精霊》があらぬ方向に吹き飛ばす。元より風の影響を受けやすい矢なので、簡単に蹴散らせる。ただ、向こうも意地なのかありったけの矢を放ち、それを《風精霊》が無慈悲に無力化していく。

 その矢に混じって、火の玉が、水の槍が、樹の根が向かってくる。どうやら、《風精霊》も《土精霊》もこちらの恩恵が大きいのか応答しない精霊に怒鳴っている精霊使いたちの声が聞こえてくる。

 私が作った《城壁》までいかない土壁に精霊術が当たり霧散していく。中には壁を削る強力な物もあったが、瞬時に地面から土を巻き上げて修復していく。

 そんな無意味な攻防が暫し続いていたが、矢が尽き、精力が尽きて倒れる者が出て遠距離攻撃が止む。


「くそっ。お前ら突撃!」

「ジリス、俺は行ってくる。久しぶりに腕が鳴るぜ!」


 剣や槍などの武器を構えて突進してくる盗賊たちの後から、他より頭二つ分は身長がある大男が身の長けもある大剣を右手一本で掴み私に向かってくる。

 あの男は他とは違う。かなりの手練れだと思う。


「だから、好都合」


 私の糧にするには丁度いい。今までが弱すぎたのだから。これじゃ、慣れる迄にいかなかったからね。


「だから、他は邪魔。《土精霊》お願い。敵の足元を柔らかくして」


 雨上がりのぬかるんだ地面を想記して精霊に伝えると、程なくして足取りが悪くなる。そこに、《風刃》と《樹槍》で斬り穿っていく。


「精霊使いのガキが調子こいてんじゃねぇ!」


 仲間を足場にし、中には斬り伏せて自分の道を作り向かってくる大男。仲間だった者を盾にして攻撃を防ぎ、尚も足を止めない。


「くっ!」


 土台にされた盗賊から飛び上がり、私に向かって大剣を降り下ろしてくる。思いっきり踏まれたのか、最期の土台はもう起き上がらない。背骨を踏み抜かれたのかもしれない。

 大降りな降り下ろしに、慌てて横に転がり躱す。まさか、仲間をそう使ってくるとは思わなかったので少し油断した。

 私が起き上がるよりも速く男は地面にめり込ませた剣を勢い任せに引き抜く。このままじゃ、一方的にやられてしまう。


「《光精霊》お願い。一際つよい光を」


 目眩まし。その一瞬を利用して起き上がり、直ぐに踏み込み直剣を大男目掛けて横薙ぎに一閃。


 ガキィィン!


「甘いな」


 防がれた。攻撃が読まれていた。


「詠唱つか、祈りで内容が丸分かりだ。だから、精霊使いなんて俺の敵じゃねえ」


 確かにお願いする時は声と共にイメージを伝えるのが一番確実。それでも、すぐに対処できるものじゃないはずなのに、この男は簡単に防いだ。


「お返しだ」

「くっふぅっ!」


 ただの降り下ろし。だけど、その威力も速度も並みじゃない。

 手が痺れる。防げたのは一瞬。【白鉄の直剣】が折られた。


「ひゅっ! はあはあ」


 間一髪。柄から直ぐに手を話して後方に跳んだので躱せた。


「ジリス、邪魔すんなよ」

「気付いたか。この戦闘狂が」


 大男の背後にいるジリスとかいう男はフードで顔が窺えない。だけど、その男も並の盗賊ではないだろう。その男の横に四人の女性。四人が何かを呟いているが、いまいち聴こえない。


「あー、名乗ってなかったな。俺はルドント。ボルジョル盗賊団の副団長だ。まあ、団長以外の三人が副団長なんだかな」

「そうだぞ。俺の部隊なで殺られたんだ。ルドの部隊は半分は他の土地に言ってるだろ。ここは俺に殺らせろ」

「ふん。女の手を借りてる癖によく言うよ。まあ、いい。ガキ、名前は」

「…………エー」


 二人が話し合っている間にも攻撃を仕掛けようとしたが、出来なかった。大男の隙がないのと、女たちの呟きが途切れていた。精霊がざわついていることで、良くない事があると思ったから。


「エーか。あいつらの攻撃に耐えたら遊んでやってもいいぞ」


 そう言って、大男のルドントが下がる。


「お前がそんなに簡単に譲るとはな」

「ふん。まあ、一興を楽しむのも良いだろ」

「そうかい。おい! やれ!」


 女達が何かを言った。直後、闇が爆発した。


「《光精霊》! お願い、照らして!」


 何かヤバい。そう直感で感じ、さらに《土精霊》と《樹精霊》の壁を作り上げる。


「その歳でかなりの適性だな。欲しいな」


 壁の隙間から照らされた先に闇があった。そして、闇が降り注いでくる。


「ぐっ! あぶっ!」


 闇が貫いてくる。土壁を、蔦と枝の壁を。


「《癒精霊》お願い。血を止めて」

「まだ耐えますか」

「《土精霊》、《城壁》を前面と上部に」


 全周囲《城壁》は出来ないが、部分的なものなら短時間なら展開出来る。ただ、どれだけ持つか解らない。


「ふむ、耐えますか。確かにこいつらの適性は低かったが」

「…………」


 油断なく周囲を観察していたが、闇が晴れていく。どうやら耐え抜いたみたいだ。


「もう使い物にならないな」


 男の横にいた四人の女が倒れていた。身動きもなく生きているのかどうかも不明。精力を使い果たしたら、意識を失うこともあるので生きている可能性もあるが男が踏みつけても反応が全くない。

 警戒しながら《城壁》を解く。もう一度されたら先程よりも保てない。《城壁》はかなり強度があるが、燃費が悪い。私のイメージでの城壁なので、実際にある城壁よりも強硬な可能性もある。どんな武器や炎に洪水や土砂崩れに耐えるイメージで作ったものだからかもしれない。初めて城壁を見た時は防衛の要の一つと言う知識しかなかったので、こうイメージしたが実際は洪水や土砂崩れの度合いによっては崩壊するらしいとカンベルから教えて貰った。


「やはり私の手で壊しますか。大丈夫ですよ。殺しはしません。適性の高い実験材料は歓迎します」


 ルドントに対してより優しい口調だが、その眼には狂気が宿っており、背筋が寒くなる。


「部下が殺されたのは不服ですが、彼らの武器で壊れて貰いましょう。《剣精霊》よ、その力を眷属に宿してかの者を斬れ」


 ジリスが珍しい《剣精霊》にお願いと言うより、命令を告げると盗賊達が持っていた剣が、いや槍など刃の付いたら武器が空中に浮かび上がる。その剣先は当然私の方を向く。


「っ! 《風精霊》お願い。剣を吹き飛ばして! 《樹精霊》お願い。その蔓で剣を絡めて!」


 あの数は躱せない。《城壁》も攻撃が終わるまで保つか解らない。

 前面に剣や槍が。より軽い先程吹き飛ばした矢が頭上に展開する。先程の攻撃と同じ。だけど、こちらの精力が防御だけに回せない。

 私を面白そうに観察するルドント。彼とも戦う余力を残さないといけない。

 ジリスは精霊使い。定石通りなら遠距離攻撃のみ。だけど、《剣精霊》と知り合いならある程度は剣も扱えると考えないといけない。やはり、防御に徹するか。


「…………ダメ。ここで立ち止まったら、あいつらを殺せない」


 ならば、ここは私も攻撃に転じればいい。それしかない。向こうは剣が扱えるかも不明なのだし、見た感じ剣を佩いてはない。短剣に気を付けて接近戦に持ち込んだ方がいい。


「……センリの《樹精霊》目覚めて。《疫精霊》、お願い。いつものように」


 背中から【センリの棘棒】を取り出して、手と融合させる。そして、精力を吸って一時的に大幅な強化と成長を促す。


「ほう、精霊武器か。ならば、容赦はしませんよ。《剣精霊》、いいぞ。穿て!」


 号令と共に私に向かって攻めてくる凶刃の数々。


「お願い、防いで!」


 私も風や蔓で防ぐ。そして、密度の薄いサイドに向けて走り出す。


「向かってくる」


 武器一つずつに精霊の力が宿っているのか、私を追ってくる凶刃。《剣精霊》で強化された矢は《風精霊》に吹き飛ばされずに拮抗。《樹精霊》の蔓は絡み付く以上に斬り裂かれて、風すら切り裂く。

 それでも威力は弱まった。このままでもジリスに接敵するが挟み撃ちになってします。


「短時間だけでも。《土精霊》お願い、《城壁》を」


 お願いは手短く。少し命令口調に近いが仕方がない。今は一秒の判断で命運が分かれる。


「《剣精霊》、宿れ」


 やっぱり短剣を持っていた。


「ここまで接近したことは誉めてあげます。私自らが……」

「《光精霊》!」

「うがが!」


 話している最中だけど知った事じゃない。そんなことより、お願いを口にせずに、イメージだけを伝える事に意識を集中するしかないのだから。

 ルドントと同じような目眩まし。だけど、油断していたのか効いた。お願いも口にしなかったから成功したのかは不明だけど、この機会を逃す訳がない。

 内心、初めて行ったことに緊張もしているんだ。イメージだけだと、過去に行ったことを伝えた方が伝わりやすいと咄嗟に思ったが、成功して良かった。


「えーい!」


 センリを掬い上げるようにジリスの腕を刺しながら打ち付けて短剣を手放させる。そのまま飛び上がり、今度は顔を無数の棘で引っ掻きながら殴る。

 鉄以上の固さと鋭さを持つ棘棒が、肉を引き千切りながら顔面を血で濡らす。


「がぁぁぁ!」

「はぁ!」


 腕や足、腹や顔等を間断なく殴りつける度に肉と血が飛ぶ。


「あ、ああ……がばっ」


 もう、眼も潰れている。いや、どっかに転がっているはず。


「これで終わり」


 【キンキョダガー】を胸に突き刺し、ジリスは絶命した。


「はぁはぁ」


 ようやく一人殺せた。だけど、休めない。


「ふははは。ジリスを殺すとはな。あいつもかなり強いはずなんだがな」

「あとは……おまえ、だけ」

「ああ、殺し合おうぜ。…………そう言いたいが、お前はもう立つのももやっとだろ。それに良いもんが見れた。暇つぶしの盗賊遊びだったが、こんな奴がいるなんてな。声を掛けてきたジリスには感謝だな」

「…………」

「今日は見逃す。もっと強くなって、殺し合おうぜ。エーだったか?」

「……そう」

「俺は行く。ジリスに勝った褒美にここにあるもの全て持っていっていいぞ。それで装備も整えろ。じゃあな、エー」


 ルドントはそのまま私を残して、振り返ることなく立ち去っていく。背後を襲われるとも思わないのか、返り討ちに出来る自信があるのか。恐らく後者だろう。


「ふぅ。……お腹減った」


 今なら美味しく頂けるかもしれない。だけど、どうせなら美味しい物が食べたいな。

 その前にジリスの使っていた短剣を拾う。最後に《剣精霊》を宿した短剣を。


「……私の棘棒みたいになりかけてる」


 定住はしていない。だけど、このまま宿っていれば精霊武器になるだろう。


「あなたはどうする? もう、自由だよ」


 《剣精霊》が短剣から飛びだし、一周して再び短剣に宿る。この時、【キンキョダガー】にも触れて発光した。


「ん、これからよろしくね」


 まさか、短剣二つが精霊武器になる可能性が出来たなんて。


「そんなことより、お腹減った。歩くのも疲れた」


 座り込んだら立ち上がれないかもしれない。それだけ心身共に疲れた。精力もほとんど残ってない。

 故に立って体力回復に努める。クゥロウの袋から、泥付き芋や魚の加工品を食べてよりお腹が減った。失敗した。

 そうこうしていると、こちらに近付いてくる気配が近付いてくる。これはカンベルだ。あとは知らない。なら、何か食べ物をねだろう。

 何か女性達が驚きながら言っているが、私にはもっと重要な事がある。


「あ、カンベル。お腹減った」


 まずは何か食べよう。戦利品よりも、殺人慣れよりも優先しなきゃいけない。

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