滅びからの始まり
「逃げろ逃げろ!」
「ミルワ、どこ!?」
「早くしろ!ドラゴンに喰われたいのか!」
「こっちだ!まだ火が回って……ぐわっ」
「助けて下さい。神様お願いします」
「おかーさーん」
「竜騎士め、俺らのことなんて無視して攻撃しやがる」
この日、一つの村が滅んだ。
ドラゴンによる死傷者三二人。火災による焼死者十三人。そして、国に属す竜騎士の攻撃に巻き込まれて死んだ者が十七人。
生存者は皆負傷しており、家財なども全て失われた。僅かな金目の物もどさくさに紛れて竜騎士が奪って行った。
それでも生き残った彼ら彼女らは下は六歳近い幼女から上は五十二歳の男性総勢十一人。
家族を喪い、家畜を殺され、生活用品すら奪われてしまったが、それでも生きた。
焼け跡からまだ使えそうな物を掻き集め、枝を使い小動物を狩り、土を耕し、草木を利用して小屋を作り、一日の糧を分け与えて必死に生きた。
だが、ドラゴン襲撃の際に大怪我を負った三十になる男性が最初に死んだ。
次に少ない食料は全員の腹を満たさなかった事と病弱だった事もあり餓死に近い形で一人が死に、狩りで負った傷から病魔が進行しさらに二人が死んだ。
村が滅んで半年の内に四人が土に還った。だけど、そこで漸く耕した畑から野芋と山豆が安定して採れる様になった。
さらに半年が経ち、畑は倍に広がり根菜やハルスの実など栄養素の高い物も収穫出来るにまでなった。その頃には、山で捕まえた尾鳥の数も増えて卵も食べられる様になった。これで食糧には困る事は減った。
家も木を倒していき、以前の村には程遠いが充分住める広さの建物が三軒建った。内一つは食糧庫及び農具置き場となっている。
そして今、村人七名が生活をしている。そのなかで女性は三名。出産出来る身体の一人が身籠ったのは維持の為でもある。もとより村全体が家族だったようなものなので、女性は誰にという抵抗がなかった。あるいは、村の存続という義務感からか。
食糧が安定しても、二十代となる女性が身籠るなんて労力が減る行為に及んだのにも理由がある。
山でひっそりと暮らしていたコボルト達と連絡が付き、支援して貰えたことがある。
昔から時々親交のあったコボルト達はドラゴン襲撃により一旦は山から離れた。しかし、三ヶ月前に彼らは故郷の山へと戻って生活を始めた。
狩りに出掛けた男性がコボルトを発見して、情報を交換。この時に、ハルスの苗を貰い村に植えた。
それからも、時々狩りに同伴して猪等を手に入れる事が出来るようになったので、人口の増加の為に彼らは動いたのだった。
さらに一年を経て、無事に一人増えた。女の子だった。
現在、四人になった女性の内二人が妊娠している。子供が産める身体になった少女もすぐに身体を村の発展の為に捧げた。村の存続と、自分達の生存率を上げる為には倫理観なんてなかった。しかも、その少女は村人ではなくコボルトとの子を授かった。
これでさらに村は安泰と笑う彼女の横にはコボルトの若い男性が幸せそうに少女を撫でていた。案外、恋愛の末だったのかもしれない。
これにより、村はコボルトから全面的に支援を受ける様になった。親戚としての支援活動は、仲間意識の強いコボルト達には当たり前だった。ひょっとしたら、それを狙った可能性すらある少女は頭が良く、村の再開発にも口を出している。その少女は村長の孫だったこともあり、無下にはされず、幼少の頃から培った知識も活かされていた。
村には十人のコボルト達も派遣され、畑は広がり、崖山羊や森林牛なども飼われるようになっている。一通りの水準までに達したが、まだまだ発展は必要。だが、これで一段落は着いた。
村には笑い声も増えて、暗い雰囲気もかなり見られなくなった。
それでも彼らは忘れない。村を滅ぼしたドラゴンの驚異と家族同然の村人たちの悲鳴と怨嗟を。
そして、護る立場にある竜騎士が村人を巻き込んだ攻撃と後の略奪を。
確かにドラゴンは退治された。そのまま死骸を置いて行ってくれれば、金銭には困らなかった。だけど、彼らはドラゴンの死骸を持ち帰った。
彼らは忘れない。あの上から見る眼を。泣きすがる女性を殴り飛ばす暴力を。半壊だった家屋を全壊にして奪う姿を。
彼らは忘れない。アドルノーバン王国主戦派所属ランゴン竜騎士団を。




