十二
日もすっかり落ちた頃、水璃のもとに戻ってきた小雷と攸は、鱗のある水妖たちの案内で石宮の中に通された。
水璃は妖術を操り、川の水を介して戦闘の様子を見ていたらしい。広間の三段高い上座にいる主は、最初から妙に機嫌が良かった。
「俺たちは認めてもらえたということで良いのかな」
念のため攸が確認すると、水璃は鷹揚に頷いた。
「お前たちを食客とやらにして、ここに置いてやりましょう。それなりに愉しませてもらったわ」
「……我はちっとも愉しくない」
まだ乾かない小雷は攸の足元でぐったりしている。白面を倒せた喜びよりも疲労のほうが今は大きい。
「もっと喜べ。この水璃が直々に歓迎してやるわ」
すると子分の水妖たちが、槍に串刺した大量の魚を持ってやってきた。
歓迎の印である。
妖怪は物を食べねばどうしても生きてゆけぬわけではないが、喰らうことは快楽であり、妖怪の間では食物を渡すことが友好の証となる。子分たちも普段から親分の機嫌をとるために食物を献上することが多い。
また、妖力をたくさん使った後は食べたほうが回復が早くなる。
水妖たちは石の床へ小雷と攸が座るための毛皮をそれぞれに敷き、槍から抜いた魚を攸の前には山盛りに、小雷の前には小さいのを一匹だけ置いていった。
「ご褒美よ。お食べ?」
小雷は自分の前でぴちぴち跳ねる小魚と、隣の攸の前にある魚の山とを三度見比べた。
そして怒った。
「なんで我のが少ない⁉」
その悲鳴を待っていた水璃は高笑いを上げた。自らの手元には貴重な酒をいれた瓢箪を持ってこさせ、うまそうに飲み始める。
「お前の働きなどその程度でしょう!」
「白面を仕留めたのは我だぞ! 攸はなんもしてないじゃんか!」
「その人間の助けをどれだけ借りた? しかも白面の始末は半分、銀鮒の手柄よ。それよりも、闇呑の子分を始末できたことのほうが大きい。まるで期待していなかったが期待以上だったわ、攸とやら。小雷、お前は攸のおまけで置いてやるだけよ。わかる? お、ま、け」
「なんでだよ⁉」
さすがに納得いかない小雷は、疲れていたことも忘れて地団太を踏む。
濡れてしょんぼりしていた頭が、無意識に生じた雷により逆立ってきた。
「我がんばったのに! がんばったのにぃっ!」
「泣け啼け。あー酒がうまいわぁ」
「むぎゃぁぁっ!!」
水璃は雷来の子をいじめたくて仕方がなかった。
高い自尊心がある限り、まさか素直に小雷の力を認めるなどと口が裂けても言えはしない。
「小雷、落ちつけ。ほら」
攸が隣へ魚の山を崩し、水璃を見上げて言った。
「賛辞は痛み入る。だが、うちの大将は小雷だ。俺が活躍したとしたら、それは小雷の手柄と見てくれ」
「おや健気なこと」
小雷も逆立った頭をなでられ、やや落ちついた。
目の前でびちびち跳ねる魚に嬉しくなる。
「我に全部くれるのか? 攸」
「おうとも。お前がいちばんがんばったよ」
「攸ぉ……っ」
小雷は瞳を潤ませつつ、さっそく魚の腹に齧りついた。
一方で、攸は手を付けられない。
「小雷。それ喰い終わってからでもいいんだが、雷で魚をうまいこと焼けないか?」
「? ふぁんで?」
ばりばり鱗を咬み砕いている妖怪に人間の気持ちはわからない。褒美というなら攸は酒のほうが遥かに嬉しかった。
「生で食うもんじゃねえんだよなぁ。というか、ここの連中は魚の妖怪なのに魚食うんだな。化け物だから気にしねえのか」
「魚嫌いなのか? うまいのに」
「嫌いじゃねえが――いや、ええい、俺も妖怪だ。妖怪らしく食ってやるかっ」
勝手に勢い込んで攸は魚を一匹齧った。
思いきり腸を喰いちぎったまでは良かったが、口いっぱいに頬張ってから間もなく、でろりと吐いた。
「生臭ぁ……」
「どうした? まずかったのか?」
うつむく攸の膝を小雷が心配そうに叩く。
こうして、毛玉と人間の絆は少しだけ深まった。




