50.数の差を利用されてますけど何か?
幾つかの戦闘機体とセシルを降ろした俺たちとは、できるだけ敵基地の射線に入らないように気をつけつつ近づいていく。
敵艦も次から次にやってくるのだが、そういうのはある程度の距離まで来たらフィネークにレーザーを強化してもらってからできるだけ一撃で堕とすようにしている。
シールドの性能が高い小型艦や中型艦以上の船は数発当てないと難しいところがあるが、それでもどうにか向こうから効果的な攻撃が来る前には鎮められている。
そうしながら安全かつ最速で敵基地に近づいているのだが、
「……隊長が敵部隊に接敵しました!現在追われていた味方と共に攻撃を行なっています!」
「分かった。追われていた方にはできるだけ早くまた逃げるように伝えろ」
「イェッ、サー!!」
小型艦を追っていた敵にセシルが攻撃を仕掛けた。そこで追われていた小型艦の方もセシルに協力しながら敵に反撃を行なっているらしい。
ただ、小型艦はすぐに囲まれて沈む未来が見えたから逃げるようには伝えておく。艦長はそういうのも分かる人間にしてあるから、そこで間違えるとはないと思うが一応な。
「他の味方はどうだ?」
「現在全ての船が敵に追われている状況です。すでに通常の機雷は使用した船も何隻か存在します」
すでに機雷を使わなければならない事態になっている船もあるようだ。かなり追い詰められているな。
……しかし、それも当然と言えば当然か。ここまでの数の差があって、まだ1隻も沈んでいないのがおかしいくらいなのだから。
そんなことを思って。部下達に思いを寄せているときだった。
ここで部下達ではなく、別のものに急に思考を移さなければならなくなる。
「っ!エネルギー反応を確認!敵基地から強力な攻撃が放たれる予兆だと思われます!」
「攻撃か。とりあえずここなら壁もあるから待機だな」
敵基地からの強力な攻撃が予想され、俺たちの船は大きめの岩の塊の影に隠れた。
動きを止めた直後、俺たちの船から見える外の世界は真っ白に染まった。
「……待機していて正解だったか」
「て、敵基地からの攻撃の解析が完了しました。お、およそ通常の敵基地に搭載される砲台の、500倍の威力があるとのことです」
「500倍だと?……これがドワーフの技術か」
500倍なんて、そう簡単に耐えられるモノでは無い。もう少しこの船が敵に近づいていれば、たとえ岩の影に隠れたとしても船は消滅していたことだろう。
当たり前だがその威力は、この船のフィネークにより強化された主砲よりも圧倒的に高い。
俺たちはその圧倒的なまでの威力に暫く言葉を失う。
その間に、
「……っ!て、敵全体の動きが変わりました!」
「なんだと?」
敵の方が動いてきた。正直今回はかなり後手に回されている気がするな。向こうの方が圧倒的に力が上なのだから、当たり前ではあるのだが……。
「敵戦闘艦が、基地の周囲を囲うように展開されています!」
「……そうきたか」
敵基地。その巨大な施設を、ぐるっと取り囲むようにして戦闘艦が並んでいく。それはまるで、基地を覆い隠す鎧のようであり、
「こちらから基地へ攻撃できなくなるか?」
「……おそらく、主砲を放っても敵艦に阻まれるかと」
こうされると俺たち程度の規模の艦隊では到底突破できなくなる。数を上手く使って、基地への攻撃を不可能にされているからな。
だが、普通はいくら数の差があろうとこんな方法をとらない。信じられないような作戦だ。
なににせ、先程までのようにしていた方が確実に俺たちを潰せるし、動かない的となる事もないので被害も少なく済む。
だというのに、敵はこうして被害の大きい作戦を選んだのだ。一切基地へ被害を出さないようにするために。
これはつまり、敵がそれだけ基地内部で邪魔されたくない何かをしていると言うことだ。それはそれはとても重要な、何かを。
……こうなると俺の方もできることは限られるな。
「できるだけ敵戦力を減らす。主砲の用意を」
「「「「イェッ、サー!!」」」」
敵は多いが、それでも物陰に隠れながらちまちま攻撃していくのはできる。逆に言えば、俺たちに今できるのはそのくらいだ。
俺たちは敵の攻撃が飛び交う中、攻撃の隙を待ち……
「5秒後に行きます!」
「分かりました!合わせます!」
部下達が息を合わせ、少しだけ船体を安全圏から外に出した直後に主砲を発射させた。そうしたらまた即座に安全圏へ入る。
その中でじっとレーダーを見ていた部下の1人が、
「敵艦の反応が1つ消滅しました」
「ふむ。運が良かったか」
敵を1隻沈められたことを教えてきた。
ただ、完全に消滅させることができたわけではなくなったようで、救助の間に止めの攻撃をさせないためだと思われる攻撃の嵐がやってくる。
……1度攻撃したらかなり長時間待機しなければならないとは、時間が掛かりそうだな。
このままなら。
「…………できました!敵基地のシールドを完全に破りました!」
だが、このままな訳がない。
俺たちの快進撃はここから始まる。




