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12.一度買い取りましたけど何か?

昨日投稿を忘れていたので、今日は2話投稿します。

《sideミミ・タチバナ》

ゴトーとの出会いは、数年前。まだゴトーが軍人になっていないとき、というか、まだ軍人にもなれないような年齢だったとき。

私の家は生まれたときから奴隷を売っていて、裕福とまでは言わないまでも悪くない生活をしていた。

なのに、


「……お父、さん?」


父親が、自室で首をくくっていた。

私はお父さんが売り物にならなくなった奴隷で楽しんでたらできちゃった子らしくて、母親が誰かも分からない。家族なんて父親しかないなかった。

たった1人の家族が、この世から去ってしまった。私は悲しむと同時に、絶望する。残された奴隷の数々の扱いと、これからの私を想像して。

奴隷なんてどこか狂ってしまった人や厄介払いされた人くらいしかならない。多くの奴隷を抱えていて私1人での管理なんてできないのに、売り手だってつかない。


「ど、どうしよう。私も、首をくくるべき、なの?」


父親の後を追おう何度も考えた。

でも、命を絶つことも怖くて、どうしようもできなかった。

お金も下手に使えないし、父親の葬儀をするなんていうこともできず。というか、時間がなくてお金に余裕があってもできなかった。


「あ゛ぁ~。本当にどうしよう」


お店の前、まだその頃は小さな薄暗い店舗で入り口の辺りも薄汚れていた。そこに私は座り込み、無力感を感じる。

最悪何もできなくなって、私まで奴隷に身を落としてしまうんじゃないかと思って。

頼れる人もいないし未来は暗いしで、頬へと涙が伝う。

そんな時だった。


「……お前、そんなところで何してんの?」


荒い口調、それでいて幼さのある声。

私が顔を上げれば、そこにいたのは小さな少年。いや、幼年と行った方が良いくらいの子供。勿論それは、ゴトー。


「あぁ。ごめん。今話しかけないで」


グッチャグチャになった感情を思わずぶつけそうになるけど、ギリギリ耐えて突き放す。流石に小さな子供に当たるほど落ちぶれてもいない。

と、思ったのに、


「あぁ。そう。別に良いんだけど、そこちょっとどいてくれない?そこの奴隷商に用事があるんだけど」


「……え?」


私の感情が一瞬全て収まる。

こんな小さな子供が私の、という考えはその時はなかったけど、この小さな奴隷商店に用事があるなんて言ってくるとは思わなかったから。

そこで一旦とは言え落ち着きを取り戻した私は、事情を説明する。


「あ、あの。ごめんね。この奴隷商店、続けられそうにないんだ」


「ん?続けられそうにない?……なに?お前がここの店の主人なわけ?」


お前。

最初に話しかけられたときもそうだったけど、その後も何度かそう言われたのをハッキリと覚えている。あんなに小さな子供に言われるのは衝撃的すぎたから。


「く、口が悪いね。……まあ良いけどさ。実は、このお店私のお父さんがやってたんだけど、死んじゃって」


「あぁ。そうなのか?それは悪いことを聞いた、と言えば良いのか?」


「はははっ。君に気を遣われるほどのことではない……といえるほど私も余裕がなくてさぁ。私じゃこのお店の奴隷を扱いきれないから、困ってるんだよねぇ。もし買う予定があるのなら1人でも数を減らしてくれるなら正直助かるんだけど……」


本心でそう言った。こんな小さな子に言うのも変だなとは思いつつ、わらにもすがる思いだった。

でも、そんな私の言葉を聞いてゴトーは薄く笑い、


「別に買うのは良いけど、これから先お前はどうするんだ?」


「え?わ、私?」


「そう。お前だよ。奴隷を売った金を使って、また奴隷商を続けるのか?」


そう言われて、私は動きを固める。

だって、目の前のことが大変すぎてそんなこと少しも考えなかったから。

ゴトーに言われてそのことへ意識は行くけど、


「……何も思いつかない」


「ふ~ん。そうか」


聞いてきた割に興味なさげに言う彼。

でも、考えれば考えるほど、私にはどの道も明るくないような気がした。どんな道を進むことになったとしても、せめて少しは幸せになれたらいいななんて思っていたら、


「……奴隷商、継ぐつもりだったんだけどなぁ」


思わずそんな言葉が漏れた。

何でそんな言葉が出たのかは、その時の私にも分からなかった。でもそれは、私の隠しようのない本音だったんだと思う。

それは叶わない夢。ただ一瞬の思いつきのようなもの……で終わるはずだったんだけど、


「へぇ?じゃあ、手伝おうか?」


「へ?」


「俺が手伝ってやろうか?って言ってんの。多少なら金くらい出すぞ」


「…………え?」


呟きを見せた相手が特殊すぎた。

その所為で、っていうのは言い方が悪いかもしれないけど、一瞬の思いつきは本物の未来へと変わってしまった。

その後の話し合いの後、


「じゃあ、一旦商会は買い取るから、このまま働いていつか買い戻してくれ」


「わ、分かった!頑張るよ!!」


一度全てをゴトーに買い取ってもらった。

そして私は、1人従業員として働いていくことになる。いつか商会を全て買い戻すのを夢見て。

……まあ、ゴトーの方針が的確すぎて私の給料もとんでもないことになって、もうその夢は叶っちゃったんだけどね?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 社畜時代の経験で盛り立てたのかな?
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