20.真正面からでない方が良いですけど何か?
王子から送られてくるメッセージに対応しつつ、戦場へと向かう。途中で王子の専用機の試運転をしてみるということで何度か宙賊の拠点に立ち寄ったりもしたのだが、なぜか王子が出てくることは一度もなかった。
ここで王子が戦うことに恐怖を抱いているという考え方もできるのだが、それは怖がっていたというより、
『フィネーク。君が求めているのはこんな小さい場所での活躍じゃないはずだ、君に満足してもらうために、戦場へ向かうよ』
とかいうよく分からないないことをいっていたため、出し渋っている感じがある。
調整などしないと危険なんだがな。それよりも大事な何かを隠しているのだろうか。
「殿下なら見せびらかしたいタイプだと思っていたんですけど、意外ですわ」
「私もそう思っていました。意外です………兄様はいったい何を考えているのでしょう?お具合が悪かったりするのでしょうか?」
セシルやダリヤも困惑した様子である。体調を心配している始末だ。
………普段の王子がどれだけひどいのかがこれを聞くだけでもよく分かるな。自慢してちやほやされたいお年頃なのかもしれない。
伯爵ももう少し情報をくれればよかったものを。絶対に大勢が王子の行動の裏を読もうとして困惑するのを楽しんでるんだろうな。
伯爵は性悪だから(盛大なブーメラン)。
そんな風にしながらも時間は過ぎていき。
誰もが困惑する中、
「………や、やっと着いた」
疲労感を全身から醸し出すフィネークが俺に抱き着いて離さなくなっている。
今までアプローチしてくるにしても羞恥心やらでかなり控えめだったりしたのだが、疲労感の所為でそういうのが抜けている状態の方が俺の心へ踏み込んでいる度合いが高いぞ。もしかしたらフィネークは恋愛を真正面からしない方が上手くいくタイプなのかもしれないな。
「フィネーク、かなりうまくやりましたわね」
「そうですね、本人にあまりそういう自覚はないみたいですけど、今後少将と距離を詰めやすくなったのでは?」
セシルやダリヤもフィネークの姿を見てそう思ったらしい。
確かに今後も今までよりは近い距離感になれるだろうな。さすがに密着はできないしさせないが、軽く触れるくらいのことでは違和感を感じないかもしれない。
「では隊長。殿下もお待ちのようですし、協議に」
「ん。そうですわね。向かいましょうか………もちろんフィネークは待機で構いませんわよ。しっかり睡眠などもとって休憩してくださいまし」
「わ、分かりました。ありがとうございます」
心底疲れているといった表情のフィネークは、これでもできるだけ王子と起きている時間が被らないように長い時間眠っている。それはもう王子がフィネークが起きてくるまで待とうとして、周囲の者達から体に障るからこれ以上はやめてくれと言われるくらいには長いのだ。
だがそれでも、彼女は眠れそうな様子である。
「精神的な疲労がたまっているだろうから、軽く運動をしてシャワーなどを浴びた後に寝ると言い。恐らくそのままだと眠りたくても眠れないはずだ」
「あっ。わ、分かりました。そうします」
精神的に疲れ果てているのに眠りたいけど眠れないっていう経験はないだろうか?
精神だけの疲れだと毎日寝ていればあまり眠れないからな。眠気はあって頭はぼぅっとしているのに、それでも眠れないということになってしまう。
そうするとさらに眠れないことによるストレスなども重なってしまうので非常に体によろしくないのだ。
運動などをして肉体への疲労なども溜めた後に眠ることで眠りの質などが改善されるわけだ。
本当はサウナがどうこうっていう話もしたいところなのだが、残念ながらこの船にサウナ設備までは整っていないから無理だな。眠りの質なんかを上げるにはサウナもとてもおすすめなのだが。
これ以降新しい船が増えることがあったら、この船の一部の機関をそっちに移して、こっちの船に新しくサウナ室を作ってみるのもいいかもしれないな!
「………さて。ここですわね」
おっと。サウナのことで1人熱くなっていたら(サウナとかけたわけではない)、いつの間にか王子が待つ場所まで到着していた。
俺は気持ちを切り替え、セシルに続いて会議室に入っていく。
「失礼しますわ」
「おぉ~。待っていたよフィネーク!………って、いない?フィネークはどうしたんだ?」
俺たちが入っていくと、まず先にフィネークへの歓迎の言葉が王子から発せられる。そこからこの場にフィネークが来ていないことに気が付き、王子はセシルをにらんだな。
八つ当たりも甚だしい限りだが、王子にとっては当然の思考なのだろう。
セシルも大して気にした様子はなく、
「フィネークは訓練生ですのよ?こんな会議に来る立場ではありませんわ」
「何だと!フィネークを馬鹿にしてるのか!」
馬鹿にしていないし、どちらかと言えば王子のことを馬鹿にしたいくらいだ。
王子がセシルをにらみ、セシルがそれを冷めた瞳で見つめる。何とも面倒くさい空気の中、俺たちの会議は始まるのだった。




