11.負けた際の話でしたけど何か?
面倒な人たちが忘年会で二日酔いになったからちょっとだけ時間ができました。
感想の返信など、ちょっとずつ進めていきます。
「卑怯な人は嫌い、ですか」
「うむ。たとえそれが口だけだとしても、惚れた相手からすれば非常に大事なことだからな。気になる相手の言葉というのはたとえ意味などなくとも節々まで気になってしまうものだ」
「な、なるほど…………確かにそうかもしれないです」
何やら実感がこもったような声色でフィネークに納得された。解せぬ。恐らくフィネークの実感する相手は、思わせぶりな言葉や態度も取っていないはずだし、好き嫌いが分かるような無駄な言葉も少ないはずなのだが。
「まあ、そうして精神的に攻撃して兄様を追い詰めるのはいいとして。そのあとはどうするんですか?結局賭けが成立してしまうわけですよね?」
ダリヤがそんな確認をしてくる。確かにその通りではあるな。
だがそこは、
「さらに訓練生がこう言えばいいわけです。間違いを認められない人間も嫌いだ、と」
「なるほど。それは撤回もありうるかもしれませんね」
正直にずるをしていたなどということはないかもしれない。
だが、機械の不具合が起きていたなどという言い訳をして再戦を試みる可能性はありうる。
「隊長との実力差は痛感しているでしょうし、別の手は作ってくるとは思いますが」
「今のようにあからさまな手ではなくなる、と?」
「おそらく」
ダリヤの言葉に俺は頷く。たとえ負けようと最後に勝てばいいのだ。なかったことにする方法などいくらでもある。
なんて、最終的にセシルが負ける前提で考えていたんだが、
「さて、これで終わりですわ」
「ま、待て!」
「待ちませんわよ」
冷たいセシルの言葉。その直後、セシルの持つ銃の引き金が引かれた。
これにより、
「勝者!セシル!!」
「ふぅ。勝ちましたわ」
勝負が決まる。決闘が終わった。
「あっ。勝ちましたね」
「勝っちゃいましたね」
「簡単にできる範囲でのズルでは、隊長を制しきるまでには至らなかったわけですね」
セシルは勝ってしまった。こちらでわざわざ考えていた王子のメンタル追い詰めてワンモア計画もきれいさっぱり消えてしまったのである。
唯一残ったものといえば、
「あ、あの、お二人ともお疲れさまでした。でも、1つだけ言わせてください」
「ん?どうしましたの?」
「ど、どうかしたか?やはり愛人になりたいという話かな?」
戦いの終わった2人に近づいて行くフィネーク。セシルは優しい笑みでそれを迎え、王子は何か期待するような眼を彼女に向けている。
しかし、そんな彼女の口から出る言葉は、
「私、卑怯な人は嫌いです。誠実じゃないってことですから」
「なぁっ!?」
王子が口をあんぐりと開けて驚愕し、さらに絶望に打ちひしがれたような様子となっている。
この言葉を聞けば、王子側が何かしらやっていたことに気づかれていた挙句、それを誠実じゃないと思われていたということだからな。嫌われるのを回避できない要素が詰まっているということだ。
当然王子も急いで何かしようとするが、
「とりあえずこれで終わったわけですし、私はいかせていただきます」
「殿下。決闘で賭けたものを忘れないようにしてくださいまし」
何か言う前にフィネークもセシルも去って行ってしまう。もちろん、2人仲よさそうに並んで歩きながら。
あれだな。王子の頭の中だとBSSとかNTRとかそんな感じのことをされたイメージだろう。
実際はセシルの方が先に仲良くなったし特にフィネークは王子へ恋心は持っていたりしなかったわけだが、そんなことは気づかないのだろう。
「愚かですね」
「小官はそれに関しては何とも」
ダリヤがそんな王子の様子を見ながらつぶやくが、俺はノーコメント。
変なことを言えば首が飛ぶ立場ではあるのだ。
というか、そういえば決闘関連で俺が動き回ったせいでいつの間にか伯爵とはぐれたな。
まああっちはあっちでやることがあるんだし、探す必要もないだろう。後で適当にメッセージでも入れておくとしよう。
《sideコトーネ・ローズ》
「いやぁ~。実に見事な戦いでしたね。殿下」
「っ!………伯爵か。貴殿の眼は節穴なのか?その言葉はこうも無様に敗れた僕へと送る言葉ではないだろう」
「いえいえ。そんなことはありませんよ。相手は公爵令嬢で名ばかりといえど軍に身を寄せるものなのです。あそこまでいい勝負ができたのですから誇るならまだしも落ち込む必要等ございません」
「そうか?だが、敗北したせいで彼女は………さらに、こちらが不正をしたと勘違いもされているようだし」
「ああ。先ほどうろちょろしていた平民ですか。殿下は気に入られたようですが………そういえば、こんなうわさを聞いたことがあります」
「ん?噂?」
「はい。何でも、軍に身を寄せる女子は、自分より強い殿方に惹かれるとか」
「………ほぅ?」
「おっと。いらないことを話し過ぎましたね。すみません殿下。お忙しいでしょうし雑談はこのあたりに致しましょう。今回私が来た理由なのですが、実は例の機体を敵国から………」




