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黒灰色(こっかいしょく)の魔女と時の魔女  作者: 九曜双葉
第一章 最終話 あなたの右目をください ~I'd Like Your Right Eye~
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第一章最終話(六)エリーの釈明

 ジャックは燻製くんせい用の缶も片づけることなく横穴のドアを開ける。

 エリーも示し合わせたように中に入る。

 アムリタとジュニアのサプリメントロボットが慌てるように続く。

 中に入ると、ジャックは壁際の棚を横から押している。

 エリーは自分のローブを羽織り、布袋を背負う。

 アムリタも良く判らないままマントを羽織り、布袋を持つ。

 棚は横にずれ、後ろの壁にぽっかりと空いた穴が顕わになる。

 穴は地下へ降りる階段に続いているようだ。


 ジャックはアタッシュケースに似たかばんを持って、壁の階段に入り、エリーとアムリタのほうを見る。


「どうするの?」


 ジャックは二人に問う。

 エリーは無言で穴の中、ジャックの傍を通り抜け階段を下りてゆく。

 アムリタも布袋を背負い、ジュニアのサプリメントロボットを抱えて続く。

 ジャックは穴の内側から棚をずらし、もとに戻す。

 その後、くいのようなもので棚を内側から固定する。


「さて、行こうか」


 ジャックは壁にかけてあった二つのランプにあかりともす。

 そして一つをアムリタに手渡し、一つを自分が持つ。


「ひょっとして、空賊の人が来るの?」


 アムリタは好奇心に満ちた面持ちでジャックに訊く。

 ジャックはエリーを見る。

 エリーはジャックと視線を合わせたまま、短く顔を右左に一回振る。


「……多分だけれどね。

 空賊の母艦が日没に合わせて高度を上げながら西に移動した。

 僕の人工衛星の監視下から外れている」


 ジャックは速足で地下の道を進む。


「へぇ?

 要するにジャックの見えないところに行ったということはジャックに何か仕かけてくる可能性が高いということね?」


 アムリタは良く判らないまま推測する。


「そうそう。

 やっぱりアムリタはえているね」


 ジャックは微笑みながらアムリタをめる。

 ジャックは迷路のような地下の道を地図も無しに歩いてゆく。


「でも、なんでジャックは空賊から逃げているの?

 空賊の女の人、凄くジャックに会いたそうにしていたのに……」


 アムリタは気になっていたので訊いてみる。

 ジャックはエリーを見る。

 エリーはフルフルと顔を左右に振る。


「君たちっていつもどんな話をしているの?」


 ジャックはアムリタの問いに応えず、アムリタに訊き返す。

 アムリタは、えーっと、と考える。


「風の谷のこととか、エリーのおかあさんのこととか、あと何食べようかとか……」


「君たちは本当に仲良しだねぇ」


 ジャックは感心したように笑顔でつぶやく。


「アムリタ、隠していたわけでは無いが、君に言っていないことがある――」


 エリーが走りながらアムリタのほうを見て何かを言おうとするが、ジャックは前方を指さしながら制する。


「まぁ、その話は後でゆっくりしてもらうとして、そろそろありの巣の外縁がいえん部に出るよ」


 ジャックの指さすほうに大きな出口が広がっている。

 三人は走りを歩みに変え、出口から外に出る。


「僕はここから山を下りるつもりだよ。

 済まないがここからは別行動だ」


 ジャックは穏やかにエリーとアムリタに宣言する。

 出口の外は緩やかな斜面がしばらく続き、その奥に木々が生い茂っている。

 アムリタは、ジャックがしなければならないことがあると言っていたことを思い出す。

 アムリタの見るかぎり、空賊は別にジャックに危害を加えようとしてジャックを追っているようにも見えない。

 ジャックはしなければならないことをするために、空賊を避けているのだろう。

 アムリタにはそう思える。


「ジャックのしなければならないことって何なのかしら?」


 ジャックはアムリタの問いに、ははは、と笑う。


「良く覚えているね、アムリタは。

 そう……、もうすぐ連環れんかん山脈に封じられている外からのものの封印が解ける。

 何時かは判らないけれどね。

 それをなんとかする方法を探しているんだ」


 ジャックは、優しくアムリタの目を見ながら言う。


「でもごめん。

 もうあまり時間がない。

 空賊が近づきつつある。

 僕はもう行くよ」


 ジャックは斜面を下ろうと歩き出す。

 そして、ん? と言うように斜面の上の暗くなりゆく夜空を見上げる。


「ああ、しまった。

 母艦のほうはおとりか。

 迂闊うかつだった。

 誘導していたのは君だね?」


 ジャックはアムリタのほうを向き、静かに訊く。

 アムリタは、へ? という顔となる。


『どうもそうみたいね。

 朝、ジュニアが私に電波ビーコンを仕かけていたから』


 アムリタの腕の中で抱えられているサポートロボットがジャックの問いに応える。


「ジュニアも苦しい立場だからなぁ」


 ジャックは穏やかにつぶやき、再び空を見上げる。

 既にアムリタにもジャックが何を見ているのか判る。

 何かがジャック達のほうに向かって空を滑るように近づいてきている。


 見る間にそれは大きくなり、三角形の巨大なたこにぶら下がっている四肢のある重機のようなものであることが判別される。

 巨大なたこはジャック達の前の斜面に一度大きくたこ舳先へさきを持ち上げる。

 その直後、重機の足が地面に付き、たこは後ろにおろされる。

 重機は二本足で立ちあがると、両手を広げる。

 重機は人間の形を模した高さ三メートルほどの二足歩行ロボットであるようだ。

 二足歩行ロボットは腕にボウガンのようなものを構えている。


 二足歩行ロボットの前面の風防が前に跳ね上がり、中に座るジュニアが見える。

 アムリタは、ジュニアよ、とエリーにささやく。

 エリーは無言でうなずく。

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