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黒灰色(こっかいしょく)の魔女と時の魔女  作者: 九曜双葉
第四章 最終話 光の谷の記憶 ~The Long-Term Storage in the Shining-Chasm~
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第四章最終話(八)欠けている条件

「ソニー、お待たせー!

 私たち来たわよー!」


 アムリタは満面の笑みでシャンタク鳥から飛び降りる。

 続いてエリーも屈むシャンタク鳥から降りる。


「アムリタ、貴女私に殴られに来たのよね?」


 ソニアはバイクのサイドスタンドを左足で蹴り下げ、バイクから降りる。

 アムリタは表情の消えているソニアの顔を見て(ひる)む。


「あれれ、ひょっとしてフォルデンの森のこと、未だ怒っているのかしら?」


 アムリタは一歩下がりながら訊く。


「怒ってなんかいないわよ。

 ただ、教育的指導が必要かな? って思うのよ」


「やだ、怒っているし。

 ほら、ソニーも真っ当な方法で夢幻郷に来られたでしょう?

 こっちに付き合っていたら、良くて禁止者、一歩間違えれば殺されていたのよ……」


「それよ! なんで私を安全な所に置いて、自分たちは危険な道を行くのよ?」


 ソニアは()して怒っているようでもなく、淡々と訊く。


「ごめんなさい」


 アムリタは(うつむ)きながら両手を後ろに結び、ソニアの前に進む。

 ソニアはアムリタの目の前で両手を腰に当てて立つ。


「私の友人を張り付けにするのもどうしたものかしら?」


 ソニアはシャンタク鳥の上に網で括りつけられたガストを視線で示す。


「あのガストは自分で志願してきているのよ」


 エリーが仲裁するようにソニアに言う。

 ガストも、そうそう、というようにソニアに向けて首を縦に振る。


「ふーん……、シャイガ・メールが消えたのは貴女たちのせいなの?」


 ソニアは話題を変える。


「私たちは関係ないと思うけど……。

 私たちがサルナトに到着する少し前、ラビナがシャイガ・メールの上で酒盛りを始めたそうなのよ。

 その直後にラビナと吟遊詩人、地球猫二人を連れてシャイガ・メールは消えたんだって」


「ふーん?

 そう言えばフォルデンの森でも、貴女たち二人がシャイガ・メールの脚に乗った途端に、シャイガ・メールが消えたんだっけ?

 どこに連れていかれたの?」


 ソニアは(かね)てから訊きたかった質問をする。


「あの子、シャイガ・メールの固有世界? っていうのかな?

 そこに連れていかれたの。

 何時間もそこを彷徨(さまよ)っていた後、パイパイ・アスラって人の思念に触れてお話しをしたわ」


「え? 今、誰の思念って言った?」


 ソニアはアムリタに問い返す。


「パイパイ・アスラっていう人。

 シャイガ・メールが遠くにいるパイと(つな)げてくれたの」


 アムリタは応える。


「ええ? シャイガ・メールの上なら、遠くに居る人と話ができるの?」


 やや興奮気味にソニアは訊く。


「どうだろう? 多分普通は無理なんじゃないかなぁ。

 パイにとってエリーは、何でか知らないけれど知古の仲らしいの。

 だから会話できたみたいね。

 私は一生懸命思念を(さら)って辿(たど)り着けたのだけれど、パイに不気味がられたわ」


 アムリタはエリーの顔色を(うかが)いつつ応える。

 エリーも、コクコク、と(うなず)く。


「貴女たちは規格外すぎるからね……。

 シャイガ・メールが居るだけじゃ条件が足りないってことね。

 やはりシャイガ・メールを光の谷に返して、それからジュニアからサプリを……」


 ソニアは腕組をしながら思考に沈む。


「ソニー? ソニーってシャイガ・メールのこと、知っているの?」


 アムリタはソニアに訊く。


「うーん? 少しね……。

 興味があるのよ。

 貴女たちならシャイガ・メールが居て、星の位相を合わせれば遠くの星と交信できるのかな?

 でも私では、更に幾つかの条件が必要みたいね。

 光の谷の思考機械、それに(つな)げるインターフェース……」


「インターフェースって何かしら?」


 アムリタは問う。


「ジャックのサポートロボットとかね。

 ジュニアのサプリメントロボットでも良いのだけれど。

 私、ジャックのサポートロボットの支配権、ジャックからシェアしてもらったんだけれど夢幻郷に持ち込むことはできていないのよ。

 私が持ち込めたのはこの眼と人工衛星一つだけ」


 ソニアは胸の眼を右手で(すく)うように指し示す。


「人工衛星を持ち込める時点で尋常じゃないと思うのだけれど」


 アムリタは(おのの)くように(つぶや)く。


「あ、でもでも、そう言えば私も可愛いロボットを夢幻郷に持ち込めたのよ」


 アムリタは思い出したようにナップザックを下ろし、中からヘルパーロボットを取り出す。

 くすんだ銀色のロボットは眠そうに目を(こす)りつつも、にこやかに笑う。


「――! アムリタ、そのロボットどうしたの?」


 ソニアは目を真ん丸にして(おどろ)く。


「双子の塔の古代遺跡に隠し研究所があったのだけれど、そこで運命的な出会いをしたのよ。

 ジャックによれば私を主人認定しているんですって。

 だから私の可愛いヘルパちゃんよ」


 ソニアは口をポカンと開けて二の句が継げない。

 (しばら)く沈黙が続く。

 アムリタが(たま)りかねて、ソニー? と訊く。


「え? ええ……、貴女はつくづく規格外ね……。

 ねえアムリタ、お願いがあるの。

 殴るのを()めてあげるから、その子(しばら)く貸してくれないかな。

 絶対に返すから」


 ソニアはアムリタの眼を見ながら乞う。

 アムリタは大きな(みどり)色の目で真っすぐソニアを見つめる。


「今、光の谷に行ってもシャイガ・メールが居ないから遠くの星とお話ができない、そうね?」


 アムリタは確認するようにソニアに(たず)ねる。

 ソニアは、(あご)を引き、同意の意を示す。


「ラビナたちをシャイガ・メールの固有世界から連れ戻さなければならない。

 そして連れ戻す場所は光の谷でなければならない。

 多分アルンならそれができる」


 アムリタはアルンを見る。

 アルンは、どうだかな、と短く(つぶや)く。


「更に光の谷の思考機械を通して遠い星とお話をするためにはヘルパが必要、そういう事ね?」


 アムリタは更に確認するように訊く。

 そう、そのとおりよ、とソニアは応える。


「ねえソニア、遠くの星とのお話、私たちにも教えてくれる?」


 アムリタはソニアに問う。


「いいよ、約束する」


 ソニアは真面目な顔で即答する。

 アムリタは、分かったわ、と言ってヘルパーロボットの顔を見る。


「この人はジャックの娘さん。

 信用できる人よ。

 彼女を助けてあげて」


 アムリタはヘルパーロボットに語りかける。

 ヘルパーロボットはアムリタの顔を見て、ソニアの顔を見て、もう一度アムリタの顔を見る。

 (しばら)く考える素振(そぶり)りをみせた後、意を決したようにコクリと(うなず)く。

 アムリタはヘルパーロボットをそっと地面に下す。

 ヘルパーロボットは右手でアムリタに敬礼し、回れ右をしてソニアの元に歩く。

 そしてソニアの前で立ち止まり、抱っこを強請(ねだ)る子供のように両手を上げる。


「アムリタ、有難う。

 ヘルパ、よろしくね」


 ソニアはヘルパーロボットを持ち上げ、胸に抱く。


「ソニー、ジャックからの伝言よ。

 『無茶するな』って」


 アムリタはソニアに言う。

 ソニアは、うん分かった、と短く応える。


「これからどうする?

 一緒に行く?」


 アムリタはソニアに訊く。

 シャンタク鳥は、ヒィー、と()き、首を横に振る。

 もうこれ以上は無理、と言っているようだ。


「うん、私たちはバイクで行くよ。

 ここからなら光の谷まで百キロくらい。

 問題ないわ」


 ソニアは笑う。


「そう……、分かったわ。

 私たちはジュニアたちを裏方から支援することになると思う。

 じゃ、私たちは行くわ」


 アムリタとエリーは速い動作でシャンタク鳥の上に乗る。

 シャンタク鳥は(いなな)き、蝙蝠(こうもり)に似た巨大な羽を羽ばたかせる。


「ねぇソニー、現実世界に帰ったら月軌道に一緒に行きましょうよ。

 今度は置いていったりしないから。

 パイの旦那さん、トマスの本がそこにあるんだって。

 魔導書よ」


 アムリタは羽ばたくシャンタク鳥の上から(うれ)しそうに声をかける。


「つ、月軌道!」


 ソニアはギョっとした表情でアムリタを(にら)む。

 しかし次の瞬間、ソニアは笑う。


「あはは、アムリタ、貴女間違っているわ!

 月軌道に連れていってください、でしょう?

 団体行動がとれない子は、置いていくからね!」


 ソニアは(うれ)しそうに言う。

 シャンタク鳥の巨体は宙に浮きあがり、旋回しながら軽やかに高度を増してゆく。


「無茶しないでねー」


 上空からアムリタの声が響き渡り、シャンタク鳥は小さな黒点となり、やがて南の空に消える。


「無茶しないで、か……。

 アムリタにだけは言われたくないわね」


 ソニアはアルンの顔を見ながら(つぶや)く。


「どういうことか、教えてくれるんだろうな?」


 アルンは憮然(ぶぜん)とした面持ちで訊く。


「あは、もちろん。

 えっとね、話は長くなるのだけれど……」


 ソニアはアルン笑顔を向ける。

 パールとシメントはアルンの肩に乗る。

 ソニアは説明を始める。

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