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黒灰色(こっかいしょく)の魔女と時の魔女  作者: 九曜双葉
第一章 第二話 風の谷の祭殿(さいでん) ~The Shrine at the Wind Ravine~
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第一章第二話(七)いつか一緒に

 アムリタにはジュニアの話が半分も判らない。

 女の子二人に熱く語る内容でもないだろうとも思う。

 しかし、空中庭園に行ってみたい、宇宙空間に浮かぶ巨大なクラゲを見てみたい、という気持ちで満たされる。


「ジュニア、私も空中庭園に行けるかな?」


 アムリタはお菓子をねだる子供のような表情でジュニアに尋ねる。


「そうだね、俺も行ってみたい。

 今かなり危険なんだけれどね。

 それでも、行ってみたい。

 皆で行けると良いね」


 ジュニアはアムリタを見、その後、ね? というようにエリーのほうを見る。

 エリーもジュニアを見、コクリとうなずく。


「楽しみもできたことだし、頑張って歩こう」


 アムリタは先導して歩き出す。

 ジュニアのキャリバッグがわしゃわしゃと続く。

 ジュニアとエリーも後を歩く。

 道はアップダウンを繰り返しながら徐々に高度を増してゆく。

 エリーは相変わらず光の文字を空中に描きながら皆の後を歩く。


「エリー、さっきから気になっていたんだけれど、それはなあに?」


 アムリタはついに我慢できなくなったというようにエリーに光の文字に関して訊く。


「色々だ。

 帰りみちの為の足跡を残したり、おかあさんの痕跡こんせきを探したり、魔法行使に適したスポットを探したりしている。

 今後の天気の予測もしてもいる。

 山の天気は変わりやすいからな」


 そう言いながら、光の文字で空中に文章をつづる動作を続ける。


「へ、へぇ、凄いのね。

 それって私にもできるかな」


 アムリタは良く判らなかったが気になったので訊いてみる。


「文字の力を借りて、魔法の効果を調節することは有用だ。

 君にも修行することによりできるようになると思うよ」


 エリーはアムリタを見ずに応える。


「魔法の発動までの時間を遅らせたり、発動に特定の条件を付けたり、離れた所で発動させたり……。

 色々便利だ」


 ふんふん、とアムリタは相槌あいづちをうつものの、アムリタには魔法自体が判っていない。


「ただし、君の魔法構成は私のとは大きく異なるようだ。

 だから私にできることは君にはできないし、君にできることは私にはできない。

 君の魔法構成は私も見たことがない。

 多分特別なものだ。

 私の見聞けんぶんなどたかが知れるが」


 もっとも、とエリーは続ける。


「君の魔法は誰かから抑制されているね。

 これは珍しいことではない。

 現に私も、六つになって魔法の修行を始めるまではおかあさんに魔法を封印されていた。

 魔法は知らずに使うと、自他ともに危害が及ぶことが常だから。

 聞くところ、君の魔法は時渡ときわたりの魔法に関係しているという。

 抑制しなければあっと言う間に神隠し……」


 エリーはそこまで言って黙り、歩みを止め後ろを振り返る。


「どうしたの?」


 アムリタは不思議に思い、たずねる。

 エリーは少し考えるような素振そぶりを見せる。


「すまない、先に行っていてくれ。

 ぐに追いかける」


 エリーは山側にある比較的大きな木の前に魔法陣を描くとそこに光の輪が現れる。

 エリーはその光の中に自分の背負い袋を押し込む。

 エリーがサッと手を振ると光の輪が消え、荷物はなくなる。

 エリーは来た方向に歩き出す。


「エリー!

 ちょっとどうしたの?」


 アムリタは驚いてエリーを追いかけようとする。

 しかしエリーは消え、五メートル先に現れる。

 そしてすぐに消え、さらに五メートル、さらに五メートルとどんどん遠くに離れてゆき、見えなくなる。


「ジュニア、エリーどうしたんだろう」


 アムリタはジュニアを振り向き、たずねる。


「どうしたんだろうね」


 ジュニアにも判っていないらしい。


「一つ言えるのは、一度エリーが単独行動をすると決めたら誰にも追いつけないことだね」


 ジュニアの口ぶりからは、エリーのこういった行動は特に珍しいものではないようだ。

 ジュニアは自走するキャリバッグの上の荷物をアムリタに、ちょっと持っていて、と言って渡す。

 そして、キャリバッグのチャックを開け、中から茶色の筒のようなものを取り出す。

 筒には半円形の頭と、手足がついている。


「エリーを頼むよ」


 ジュニアは取り出した筒に話しかける。

 筒は顔についている目を開け、眉尻をキリリと釣り上げ、右手で敬礼をする。

 そして、とことことエリーが去っていった方向に駆け出す。


「なになに、あれ?」


 アムリタは走り去った筒の方向を指さしてジュニアにたずねる。


「俺のサプリメントロボットさ」


 ジュニアは短く応え、アムリタから荷物を受け取り再び自走するキャリバッグの上に置く。

 キャリバッグはキャリバックの本体を地面に付けて静止する。


「どこに行ったか判らないので、ここで待つのが良いんだろうね。

 サプリが報告してくれるよ」


 ジュニアはキャリバッグの引き手に体重をかけながら応える。

 キャリバッグは四本の脚を、グッ、とこらえる仕草しぐさをする。


 アムリタはジュニアとエリーの関係を不思議に感じる。

 二人は仲が良く、互いにフォローしあっているようだ。

 しかし、微妙な距離感があることも最近判ってきている。


「ジュニアとエリーって長い付き合いなの?」


 アムリタは常々訊いてみたいと思っていたことを思い切って訊いてみる。


「うーん、長いと言えば長いね。

 最初に会ったのは八年前位かな?

 年数回会うだけだったけれど」


 アムリタは男女の付き合いのことを訊いたつもりであったが、最初の出会いまでさかのぼってしまい、少々面食らう。

 しかし、エリーの顔を思い出し、十歳前後のエリーはさぞ可愛かわいかったんだろうと夢想する。


「八年前のエリーは凄く可愛かわいかったんじゃない?」


 アムリタはジュニアの反応をうかがうように訊く。


「え?

 ああ、確かに可愛かわいかったけど、かしこ過ぎてね。

 圧倒されていた」


 ジュニアの反応は、あまり色っぽいものではなかったのでアムリタは残念に感じる。

 まぁ、確かに子供のころのエリーは可愛かわいいというよりは賢いという印象なのかもしれない。


小賢こざかしいガキという感じ?」


「うーん、誘導尋問はめて欲しい。

 そんなこと思ってもいないから」


 ジュニアは笑いながらアムリタに応える。

 ジュニアもエリーもガードが堅いな、とアムリタは思う。

 これだけ仲良く近い関係にある若い男女が付き合っていないことがアムリタには理解し難い。

 ただ、あまり詮索せんさくするのも良くないので、話題を変える。


「エリーはおかあさんを探しているのよね?」


「うん、そうだよ」


「エリーのおかあさんってどんなかたなのかしら」


 エリーの問いに、ジュニアは思い出そうとするように目だけ上を見る。


「容姿は正直あまり覚えていない。

 俺らと会うときはいつも黒いベールを被っていたから。

 背丈は今のエリーよりやや高いくらいかな?

 物凄く博学で聡明で落ち着いた雰囲気を持った人だ。

 色々教えてもらったことを覚えている。

 特に数学や物理、天文学や魔法に関しての示唆は俺の財産――!」


 ――ターン!


 ジュニアがエリーのおかあさんについて能弁に語りだしたとき、大きな音が山々にこだまする。


一章二話は多少話の展開が遅いので本日は四話お届けしました。

楽しんで頂けますと幸いです。

明日も数話お届けして、そのあとは自分のペースに戻そうと思います。

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