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黒灰色(こっかいしょく)の魔女と時の魔女  作者: 九曜双葉
第三章 第三話 地下世界の重力列車 ~The Gravity-Train of The Underground World~
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第三章第三話(八)石扉の門番

 確かに奇妙なおぞましい巨人が居る。

 全身が黒い毛で覆われていて、大きな顔が縦に割れている。

 その縦に割れた口には大きな牙が左右に交差するようにくし状に並んでいる。

 その両側に飛び出たピンク色の大きな目があたりを見渡すべく動いている。

 左右の二の腕の肘からは、それぞれ二本の腕が生えていて、その手は大きな鉤爪かぎづめのある三本の指がある。


「確かに居るわね。

 あんまり可愛かわいくないのが」


 ソニアはうんざりしたように小声でささやく。

 地底巨人はソニアたちに気付いていないようだ。


「ギリギリまで近づいて下さい。

 地底巨人は耳が良いので注意して。

 私たちは迂回うかいして石の扉の向こう側に行き、そこで大きな物音を立てます。

 地底巨人が私たちのほうに移動したら石の扉を開けて待っていて下さい。

 私たちも石の扉に行きます」


 アルンの肩に乗るパールは作戦を伝える。

 ソニアは、ありがとう、そうさせてもらうわ、と応える。


「合図を待ちます」


 パールはそう言うと、シメントと目配せをした後、二人共消える。


 ソニアとアルンは木の影に隠れるようにを進める。

 二人からは足音はまったくしない。

 石の扉が目視できるようになる。

 形状から考えて上に押し上げる落とし扉であるようだ。

 その扉を守るように地底巨人は左右を巡回する。

 ソニアたちは二十メートルの距離まで近づく。

 この距離まで近づくと地底巨人の大きさが実感できる。

 おぞましき巨人。

 身長は六メートルをはるかに超える。

 ソニアは地底巨人から死角となる位置で右手を上げる。

 どこかでパールが見ているはずだ。


 ――キーィヤ! キーィヤ! キーィヤ!

 ――カン! カン! カン!


 大きな音が奥のほうで響く。

 地底巨人は音の鳴る方向、ソニアの居るほうから反対を見る。

 そして警戒するように音のなる方向に向かって歩きだす。

 地底巨人が石の扉を離れた瞬間――


 ――ガツ、ガツ、ガガガガガー!


 石のれる音がして、石の扉が上に向かってじ開けられる。

 地底巨人は石の扉のほうに振り向く。

 ソニアとアルンは予想外の事に緊張する。

 開いた石の扉から仔馬こうまほどの大きさの生物が現れる。

 この生物が首を使って石の扉を反対側からじ開けたのだ。

 生物はカンガルーに似た後ろ足と細長い前脚、額も鼻も無く分厚い唇は猿、いやむしろ人間に似た顔をしている。

 ガストだ。


 ガストは石扉から中に入り、ピョン、と跳ねる。

 石の扉が、ドン、という音と共に落ちて閉まる。

 地底巨人は素早い反応を見せる。

 地底巨人はガストの着地点に突進し、大きな二本の左手でガストをぎ払う。

 ガストは大きく飛ばされ、ソニアとアルンのそばまで飛ばされ、転がる。


 ソニアは見る。

 目の前に苦しみもだえるガストの右前脚の付け根に巻かれた白いハンカチを。


 ソニアはガストの前にあゆみでる。

 アルンは仰天ぎょうてんする。


「ソニア、危ない――」


「――君はジュニアの友達ね?

 なら私の友達よ」


 ソニアは倒れるガストの前でポシェットに似たバッグからハンカチを取り出してガストに広げて見せる。

 そしてカバンごとガストの前に置く。

 地底巨人はソニアたちを見て動作を止めていたが、ソニアに向けて移動を開始する。


「ソニア!」


 アルンが両手剣を構えながら飛び出す。


「アルン!

 そこに居て!

 私が地底巨人をめる!

 とどめを刺して!」


 ソニアは地底巨人のほうに向かい、ゆっくり歩きだす。

 アルンは動きを止める。

 そして両手剣を上段袈裟(けさ)に構える。

 ガストも推移を見守るように地面に転がったまま動かない。

 ソニアは両腕をダラリと下げ、両足の裏を地面にるようにを進める。

 ソニアが地底巨人の顔を、ピンク色の目を見る。

 地底巨人はを進め、ソニアに迫る。

 アルンはソニアの後ろに移動する。


 地底巨人が迫ってくる。

 ソニアはを早める。

 手足を伸ばしたまま、ソニアは速度を増し、瞬く間に全速力と思われる速度に乗る。

 ソニアの視線は地底巨人の目を見たままだ。

 地底巨人の目は、ソニアの動きを窺うように小刻みに動く。

 ソニアは地底巨人の顔を狙うべく地底巨人の前に高く跳ぶ。


 そういう動作に見えた。

 地底巨人は跳躍したはずのソニアをとららえるべく、四本の手を空中に合わせる。

 しかしソニアは空中に跳んでいない。

 そのまま、前に大きく踏み出し、地面に着地して体重がかかって伸びきった地底巨人の右膝みぎひざ渾身こんしんの両手掌底(しょうてい)たたき込む。

 伸びきったソニアの右足が地面にめり込む。

 ソニアの赤い髪の三つ編がほどけ、広がる。


 ――ゴオキィ!


 大きな、何かがくだける音が響き渡り、地底巨人の右膝みぎひざが前方向に、曲がらないはずの方向に折れ曲がる。

 地底巨人はそのまま前方につんのめり、大きく前方に体を泳がせる。

 ソニアは折れた地底巨人の右膝みぎひざを両手で持ち上げるように後ろにさばき、後続する地底巨人の足首や鋭い爪のついた爪先つまさきを左にかわす。


 アルンは両手剣を右袈裟みぎけさに構えてたまま体重を前に倒す。

 そして自分めがけて落ちてくる地底巨人の頭に両手剣を振り下ろし、冑割かぶとわりにする。


 ――グシャー!


 激しい音とともに地底巨人の頭は胸まで左右に割れる。


 アルンの両手剣の刃は地底巨人の背中にまで達する。

 地底巨人は激しい音をたてて地面に倒れ落ちる。

 そのまました格好で動かなくなる。


「パール!

 ソニアの奴、地底巨人を素手で倒したよ?」


 シメントは信じられないというように叫ぶ。


「俺、もうソニアに逆らうの、金輪際こんりんざいやめるわ」


 シメントはおびえた声でつぶやく。


「あんたのその小動物ぽいところ大っ嫌い」


 パールは、悲しい目つきで弟を見る。

 でも、そのほうが長生きできるかもね、と付け加える。

 パールとシメントの姉弟はアルンに駆け寄る。

 ガストはヨタヨタと立ち上がる。

 ソニアはガストに歩み寄る。

 ソニアはガストの右の腕の付け根に巻かれた白いハンカチにし込まれた紙片を見る。


「この紙、見ても良いかな?」


 ソニアはガストに問いかける。

 ガストは大きく首を上下させる。

 ソニアは紙を手に取る。

 紙は折りたたまれていて、表面に『ラビナへ』と書かれている。

 ジュニアの筆跡だ。

 ソニアは中を見る。


 ――サビとマロンがサルナト地下で窮状きゅうじょうにあるようだ

 ――サビたちを助けて欲しい

 ――俺は身動きがとれない

 ――おまけに蕃神ばんしんもいる

 ――地球猫たちに知らせてくれ

 ――城壁は危険だからさわらないように


 丁寧ていねいな字ではあるが内容は短い。


 遠くから地響じひびききがする。

 地底巨人の群れが石扉に向かって走ってくる。


「君はどうする?

 ラビナの所へ行く?」


 ソニアはガストに訊く。

 ガストはまたも首を大きく上下させる。

 ソニアは、そう、とだけ言い、紙片をガストの右前脚のハンカチに戻す。


「じゃあ、急いで」


 ソニアは、ポン、とガストの肩をたたく。

 そして自分たちが潜ってきた穴の方向を指さす。

 ガストはソニアに長い首を擦り付けるようにした後、トーン、とラビナたちが来た方向に跳躍する。

 ガストは一度ラビナたちを見るが、振り返り駆けてゆき、やがて見えなくなる。


「では私たちも行きましょう」


 ソニアは荷物を拾いながら声をかける。

 石の扉の右方向から、地底巨人の群れが迫ってくるのが見える。

 アルンは石の扉を押し上げる。

 パールとシメントが石の扉をくぐる。

 ソニアもくぐり、アルンが石の扉を押し上げたまま続く。

 石の扉は外側から落とされ閉められる。


 石の扉の向こうは狭い洞窟の道となっている。

 壁は光苔ひかりごけがあり、淡く光っている。

 石の扉の反対側で地響きがするも、石の扉が壊されたり開かれたりする様子は無い。


「ここからコスザイル山の北に抜けることができます」


 パールは先導するように進む。

 一行はパールの後を追う。

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