7 あの世の、入り口。
昔訪ねたところを、もう一度見てみたいと思うのは、やはりこの世の未練を断ち切るためなんだろうか。
私が最初に選んだ場所は、東北だった。
仙台空港に降りてレンタカーで海岸線沿いに北上し、岩手に向かう。
ここは、あの震災があった半年前に来たところだ。あれから15年。記憶もおぼろげになっているところが大半だが、復旧を果たしているところ、なお爪痕が残っているところとが入り混じっている。
自然災害は、いつどこで起きても不思議ではない。もしその場にいたら、あの時の私はどうしていただろうか。
まず向かった先は、宮古市の浄土ヶ浜。砂浜ではなく、白い小石が敷き詰められ、エメラルドグリーンの波に洗われている風光明媚な場所だ。
震災当時は津波による泥に覆われていたが、今は住民の手によって元の姿を取り戻している。
「綺麗なところね」
「ああ。君の髪の毛の色と近いな」
「それ、私が綺麗ってこと?」
「……そうとは言っていない」
「それじゃあ、綺麗じゃないって言うの?」
「……そうとも言っていない」
……やっぱり少しうっとおしい。とは言え、痛みをパセリに抑えてもらっている身としては、あまり邪険に扱う訳にも行かず。小さく肩に乗ってる位は我慢しとこうと思う。
石に覆われた浜を、一人(厳密にはそうじゃないが)歩く。
かり。
しゃり。
砂浜では聞かない音が足元から響き、波音にさらわれて、消える。
昔の人は、ここを三途の川岸と考えて、この名をつけたのだろうか。恐らく、由来は調べたら出てくる。しかし、それがなんだか無粋に思えて、止めた。
この光景をきちんと自分の目で見ておきたい。データで覚えるのではなく、体で受け止めた、この感覚で覚えていたい。スマホで写真を撮ることも止め、しばらく私はその場に座ってただ海を眺めていた。
浄土ヶ浜を離れた私は、さらに北上して田野畑村にあるホテル羅賀荘に宿をとった。海辺にあるこのホテルは、やはり東日本大震災で被災したが、幸いにも再開できたと聞いたからだ。
ただ、津波が押し寄せた時は流石に大変だったらしい。津波がエレベーターホールを直撃、押し出された空気が突風となって上階に吹き荒れたということを聞いた。これは聞けば納得できるが全く予想外の事で、驚かされた。
大浴場で漁火を見ながら湯に浸かる。
穏やかな海が、突如見せた牙。なんだか落ち着かないな、と思った直後におかしくなった。どうせあっても1年の命だと言うのに、やっぱり惜しくなるものなのだ。
つくづく、人間は矛盾した生き物だと思う。いや、私が、矛盾しているのだろう。
いつ死んでもいいと言いながら、怖さを覚えるなんて。




