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4 さらば日常、とはいかない。

 



「よし、これで終わりだな」


 膨大な引き継ぎの資料を、ようやくまとめ終わった。しかし、ここまでやってようやく道半ば。今度は当面の担当者に対して、内容の説明とそれぞれの部署への顔つなぎをしなければならない。


 担当していた仕事は、それなりの重要度と量があるため、新人もしくはそれに近い人間一人に全部渡す訳に行かず分散する必要があり、こちらの振り分けだけでも手間がかかる。


 そう言えば、「上司ガチャ」・「親ガチャ」・「先生ガチャ」と言う言葉を聞いた事があるが、言わせて貰えば「部下ガチャ」・「子ガチャ」・「生徒ガチャ」もあると思う。自分の意思で選べるかどうかの差はあるので、同質であるとまでは言わないが、そもそもどんな人間関係にもその要素はある訳で、今回も一人は「アタリ」だが、もう一人はお世辞にもそうは言えない。


 とは言っても、充てがわれた人間を育てるのも責務の一つと思い直し、指導も込みで引き継ぎ作業をする事にした。まぁある程度までやってみて、駄目なら交代してもらおう。今時理由も伝えず一方的に「役立たず」扱いすると、後々ブーメランで面倒を背負いかねない。なんともやり辛いものだ。


 そんな事を考えてるとは表に出さず、淡々と事を進める。ただ、途中顔に出ている時があったようで、パセリには「顔!顔に出てる!」と言われた。幸いにして相手は「体調が悪いですか?」と勘違いしてくれたのだが。



「……そんなに顔に出てたか?」


「うん。すっごい眉間にシワ寄ってた。まぁ仕方ないよね」


「だろ?だってメモするのに漢字分かんないだぞ?」


「さっき『終生依頼』とか書いてたもんね、あの人」


「『死霊添付』とか、そっちの方が難しいと思うんだが」




 それにしても、どうして物事というのは始める時よりも辞める時にこそ労力がかかるのだろうか。これからプライベートでもこの様な事をせねばならないと思うと、相当ゲンナリする。


 物は捨てればいいが、資産となるとやれ法律だ相続だ、それを少しでも残された者が負担にならないようにあれやこれや調べ、相談しなければならない。保険金の類も「これとこれは死亡保険金が降りて……」等と話していると、どうにも穏やかな死とはなんなのか分からなくなってくる。


 ああ、面倒だ。


 いっそ着の身着のまま、旅先でくたばりたいと思ったりもするが、それはそれで立ち会った人が迷惑するだろうし。


 いつになったら日常からオサラバして、非日常を楽しめるようになるのか。今のところ、目処は立っていない。余計に人との関わりが増えている気がする。






 

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