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3 泥のように、重い。

 





 歳のせいなのか、疲労のせいなのか、それとも病のせいなのか。


 からだが泥のように重く感じる。

 判然としないまま、電車のシートで目を瞑る。


 正直、今の私にとっては、どちらだろうが大した意味を持たない。ただ、やたらと体が重く、体の内側が何かに握られているような感覚に襲われるのは、正直しんどい。前だったら休憩も入れずにできたことが、ちょっとしたことでまるで大きな鎖を体中に巻かれたように感じる。まるでディケンズの「クリスマス・カロル」に出てきたジェイコブ・マーレィのようだ。


 電車に揺られながら、昨日自分の口をついて出てきた「旅に出たい」という言葉について考える。


 特にどこに行きたいという訳ではなかった。ただ、どうせ限られた時間であるのなら、日常に身を置くよりも、少しだけ非日常に身を置きたい。何よりも、誰も自分の事を知らないところに身を置きたい。あれやこれや評価されたり詮索されたり、親切や心配という名のおせっかいが煩わしい。ただ、それだけだ。




「ねぇ、それって逃げてるんじゃないの?」


 ……ほんとうだったらこいつ「パセリですぅ!」…………パセリからも逃げたいところだ。いったいコイツ何者なんだと、興味を惹かれない事もないのだが、それよりも今はそういうところに思考のリソースを割きたくない。


 不幸中の幸いな事に、周りからはパセリは見えないし、会話は頭に言葉を浮かべるだけで成立する。本人の言う事には、見えるようにする事も、身体の大きさも変えられるらしいが、冗談じゃない。そんなのを引き連れて歩くのなんかお断りだ。どんな目で見られるか分かったもんじゃない。


 なんだか今流行のチャットAIのようだが、あちらの方が数倍マシだ。何しろこちらから話しかけない限りは、黙っているんだから。


「……なんかすっごい失礼な事考えてるでしょ?」


 ………これだから面倒なんだ。


「ちょっと疲れてるだけだ。悪いが少し眠らせてもらう」


「はいはい。じゃあ着く前に起こしてあげるよ」


「……ありがとうよ」



 それにしても、重い。痛いとか、キツいではなく、重い。まるで泥の中にいるようだ。


 腕を組むのすら、億劫に感じる。あと20分程で到着する事を時計で確認し、下らない思考で10分浪費したことを悔いながら、私は深海に沈みゆく船のように束の間の眠りを求める。


 「死に向かう」ということは、こういう感覚なんだろうか。ゆっくりと、電池が切れるように動きが悪くなり、やがて止まる。願わくば、その時が平穏に訪れて欲しいものだ。




……いや、


 今はそれすらも、

     

         どうでも  

 

    

      いい……






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