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第七話

今回、「スコップ」という表現が出て参ります。私が想定してるのは、園芸用の「移植ごて」と言われる、片手で持って使うタイプのものです(砂場なんかで使うようなサイズのもの)。関東では「シャベル」、関西では「スコップ」と言われるのが一般のようですが、JIS規格に照らし合わせると、どうやら「スコップ」なのかなあ・・・ということで、今回これを「スコップ」と表現させていただいています。「移植ごて」が一番間違いなさそうなのですが、ますますわかりづらそうなので//

混乱を招きまして、申し訳ありません。

 実は秋の間はそれほど薔薇の手入れはない。水やり、病虫害対策などが主だ。水やりなんかは特にやりすぎると寒い時期は根腐れを起こしやすいので気を遣う。


「だから、毎週軽井沢まで行かなくても大丈夫ですよ」

「っていいながら、後ろのトートバッグの中身は?」


 BMWの運転席で高木さんがくすくす笑いをかみ殺してる。もちろん、私が持ってきた帆布の大きなバッグの中身は園芸に使う道具がわんさか。うっ、ばれてた?


「だって、ほら、ほかにも植物がいろいろあるしぃ・・・」


 まあ、そろそろ冬囲いの支度もしなきゃいけないみたいだってのはあるんだけどね。


「あ、高木さん、ホームセンターに寄ってもらえます?」

「うん、いいよ。何買うの?」

「今日は冬囲いの支度しますから、ムシロとか麻縄とか・・・」


 寒冷地の植物の手入れは東京とは全然違うので、私もネットや本で調べながらやってる。勉強になります。


「ほら、気合い入ってるし」

「う。だってだって、頼まれたことはちゃんとやりたいし、寒冷地の庭のお手入れなんて初めてで楽しくて・・・」

「そういうところ、好きだよ」

「!!」


 もう!なんでそんなことぽろっと言っちゃうかなあ!!!



*****


 ホームセンター、こっちのは驚くほど大きい。


「ふわあ・・・やばいです、すんごい楽しいです」


 多分今、私の目は小鳥を狙う猫ちゃんのようにキラキラしちゃってるに違いない。でも、わかってるけど止められない。


「わ、これ、かわいい!」


 カラフルなスコップに目が釘付け。淡いピンクの小花柄!かわいい!

 それから土とか薬品とかも覗いて、苗も見たいなあ。道具類も種類が豊富で・・・


「南美・・・」

「ひゃ!そ、そうでした。ごめんなさい!」


 ついつい夢中になって、肝心の麻紐とムシロを忘れるところでした。作業の時間も限られてるんだから、さくっとお買い物終わらせないとね。

 お買い物の支払いは高木さんがしてくれた。これは必要経費だから、って。


 再び車に乗って、別荘へ到着した。早速作業にとりかかろうとホームセンターの袋を開けたら。


「あ・・・高木さん、これ」

「え。あ~・・・うん、すんごい見てたから」


 出てきたのは、さっき私がほおずりせんばかりの勢いで握りしめてたピンクのスコップ。


「わあ!これは私払いますよ!」

「南美、そんな高いモノじゃないから・・・」

「いいえ、たとえ1480円でもちゃんとしなきゃ!」

「あのね、南美。このくらいプレゼントさせてくれないかな?」

「・・・」


 返事を返せずに黙ってしまって、困って高木さんを見上げるといつもの笑顔でにっこり私を見ている。


「じゃ、この子連れて帰っちゃっていいんですか?」

「うん、もちろんいいよ」

「ありがとうございます!すごくうれしいです!」


 そしたら、あれ?高木さん、顔が赤いよ?


「・・・初めてのプレゼントがスコップなんかで申し訳ないんだけど」

「え?なんて言ったんですか?」

「なんでもない。さあ、俺は何をやったらいい?」


  私はピンクのスコップちゃんを大事に持って、高木さんと一緒に冬囲いの準備を始めた。



*****


「南美、疲れただろ?」


 午前中いっぱい作業をして、お昼を食べに駅前まで来た。駐車場に車を入れて、二人で街を歩くけど、もう季節的に寒くなってきたからか、夏のような人出はない。


 結局入ったのは駅の近くのおそば屋さんだった。突き出しでキャベツの浅漬けがたくさん出てきた!大好き!

 つい箸がのびてポリポリ食べていたら、ふと向かいの高木さんと目が合った。


「・・・何ですか?」

「おいしそうに食べるなあと思って」

「だって好きなんだもん」

「はいはい。お茶は?おかわりいる?」

「あ、すみません、私やりますよ」


 なんていってるうちに、テーブルに置かれていた熱いお茶の入った魔法瓶から湯飲みにお茶を注いでもらっちゃいました。

 すみません・・・


「高木さん、食べないんですか?」

「南美が食べてるの見てる方がいいな」


 な、何ですか、その甘~い笑顔はっ!やめてやめてっ!

 耳の後ろまで赤くなっちゃうよ・・・


「いや~、お熱いねえ!おばちゃん、当てられちゃうよ!はい、お待たせ~!」


 声をかけられてはっとすると、お店のおばさんがおそばを持ってきてくれたところだった。

 ぎゃ~~!何の羞恥プレイですか、これはっ!


*****


 おそばを食べ終わってお店を出るときには「お幸せにね!」なんて言われて。

 うう・・・恋人ではない、筈なのですが・・・

 そう見えるのかな?


 そう考えながら道を歩いてたら、アスファルトの割れたところにつまづいた。


「わわっ!!」

「おっと」


 難なく高木さんの腕に抱き留められて、痛い目を見ずにすみました・・・けど。


「た、高木さん、ありがとうございました」

「気をつけて、南美」


 高木さんがにっこり笑って抱き留めたままの私を見てる。

 あの、もう大丈夫だから、その、腰に回した腕を離していただいていいでしょうか?

 そんな気持ちを込めて首を傾けて高木さんを見ると、目があった。

 

 そして、その目を離せなくなった。


 息がかかるほど近くに顔がある。

 その目の中の光は、いつも通り優しくて、そして、なんだか熱っぽい気がした。

 そこから、目が離せない。なのに、なんだか……怖い?

 

 男の人のこんな視線を、私は知らない。

 私を騙したあの人・清野さんも、こんな目で私を見なかった。

 怖いのに、時間が止まってしまったように目をそらせない。

 すると、高木さんがなんだか苦しそうな顔をして、掠れた低い声で小さく「ごめん」って言った。なにが、って問い返す前に、一瞬ぎゅっと私を抱き留める腕に力がこもって、それから私は解放された。


 高木さんはその後いつも通りの優しい高木さんに戻ったけど、私はそれに必死に合わせながらも内心は穏やかなんてとても言えなかった。



 恋なんてしない。

 こんなにドキドキしてるのは、男の人に抱きしめられる、なんて経験が少ないからだ。


 恋なんかじゃない。


 でも、こんな穏やかな時間は嫌いじゃない。









 そんな感じで、高木さんとは週末は軽井沢へ、平日もたまにだけど一緒に夕食を食べに行ったりするようになった。

 高木さんは、特に迫ってきたりしないし、ただ穏やかに二人で話をして、本当にただそれだけ。

 だから私も、ちょっと油断してた。





ほのぼの会でした。

なお、園芸については、いろいろ調べながら書いてはいますが、作者はド素人なので、間違いがあるかもしれません。

大変申し訳ありませんが、そのあたりはツッコミを入れないでいただけるとありがたいです。



沢山の方に読んでいただいているようで、作者は驚きと喜びでプチパニックです。感想、拍手も涙が出るほど嬉しいです。本当にありがとうございます。


あ……ものすごいチキンなハートなので、あまり厳しいご意見は控えていただけると助かります!

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