「伝える」の真実
1つやり残していたネタを発見したので書きました。
本編第二十話、南美が一平のうちで優と三人でごはん食べていたシーンの裏側です。
麻生一平氏視点でお送りします。
南美ちゃんはひどく落ち込んでいた。
そりゃそうだ、全く身に覚えのない理由で務めている会社から疑いをかけられているっていうんだから。
俺・麻生一平は南美ちゃんの親友の婚約者って立場だ。彼女のことをよく知っているとは言い切れないけれど、少なくとも真っ直ぐで優しい女の子だってことは知っている。会社の情報を他社に売るような軽率な真似ができる人間じゃない。
目の前でちびちびジュースを飲んでいる南美ちゃんはそんな俺の評価をこれっぽっちも裏切らない。
彼女と俺と優。三人で囲むテーブルには出前のピザやポテト、サラダやチキンなどかなりの量の料理が並んでる。一緒に食事でもしてダベって、南美ちゃんのガス抜きをしようというのが今日の集まりの趣旨。まあ、俺の目的はもう一つあるけど。
なし崩し的に疑惑の話になる。南美ちゃんは「自分にはデータを盗み出すメリットがない」と主張するが、その通りだと思う。
南美ちゃんは堅実な子だ。金銭的に困ってもいないし、万が一困っていたとしても犯罪に手を出せる質じゃない。そもそも機密データなんて売り渡したくても誰に売ればいいかすらわからないんじゃないか?
「でも南美、そんなことならなおさら高木さんにちゃんと話した方がよくない?」
優が心配そうに南美ちゃんの目を覗き込む。でも南美ちゃんの返事はNOだ。南美ちゃん自身は困っていなくても、第三者に誑かされてデータを持ち出す手伝いをしたのかもしれないという疑惑も考えているらしく、ここで彼氏の高木さんを頼るとその「第三者」が高木さんなんじゃないかと疑われることを恐れているらしい。考えすぎって笑いとばせればいいけど、今はその可能性も考えられる。かもしれない。
「ううん、真樹人さんにはしばらく会わないよ」
決意は変わらないらしい。
でもね南美ちゃん、間接的にでもいいから高木さんには訳を話した方がいい。いま、「しばらく会えない」って言ったよね? 「二度と会えない」じゃなくて。
そこ、高木さん勘違いしてるぞ。
あの日俺に電話をかけてきた高木さんは、受話器から妖気が漂ってきそうなくらいに焦燥していた。
『ふられたーーーーかも、しれません』
地獄の最下層コキュートスに囚われたかのごとく落ち込む高木さんはそういって受話器の向こうで悩まし気なためいきをつく。
なのに俺に電話をかけてきた理由は愚痴を聞いてほしいわけじゃなく、優に頼みがある、というのだ。
『池田さんから南美に連絡してもらえないかと思って』
とりなしてほしいのと思ったらそうじゃなくて、要は南美ちゃんの心配をしているのだ、この男は。
愛しちゃってるなあ。
南美ちゃんを助けたお礼に、と誘われて一緒に飲んだことがあるけど、高木さんはできるリーマンの見本みたいな人だ。飲んでるときもスマートで尚且つウイットもわすれない、と。
それが南美ちゃんのこと一つでこんなに狼狽える。可愛いところあるじゃねえか。
「ええと……南美? 念のために聞くけど、高木さんと別れるつもりは」
「さらっさらありません!!」
確認の言葉に即答した南美ちゃん。どうやら高木さんを袖にしたと思われるなんて想像すらしてなかったな。たまらず優と二人でため息をついてしまった。
「南美さあ、いつまで会わないとか、会わない理由とかちゃんと話さなかったでしょ?」
やっと気がついたのか、南美ちゃんは恐ろしく狼狽えている。それでも連絡を取るかどうするか迷っているみたいだから「俺が伝えとく」って言って落ち着かせた。
翌日も会社がある南美ちゃんを優が送っていき、俺は二人がいなくなったのを確認してからリビングの奥にある和室の襖を開けた。
「ーーーーそういうこと、らしいよ?」
和室にはへたりこんでる高木さんが一人。
そう、実は南美ちゃんが来る前からここにいてもらったんだ。彼女を騙す格好になっちゃったのは申し訳ないけど、このまま消えてなくなりそうになってる高木さんじゃあ俺が南美ちゃんの気持ちを聞いて伝えても疑いが残っちゃうんじゃないかと思ったんだ。
だから悪いけど隠れて直接聞いてもらった。
「は……はは……」
「だから言ったじゃんか、取り越し苦労だって」
「だね……ほっとした」
心底安堵してるな。なんか疲れた顔してる。
二人でリビングに戻ってビールを開けた。少し冷めちゃった料理も温めた。
料理を多めに用意していたのは実は高木さんの分があったからなんだけど、南美ちゃんは気がついていなかったようだ。
「悪かったね、麻生さん。迷惑かけた」
「迷惑なんて思ってないよ。それよりよく南美ちゃんいるところに飛び出さなかったなあ」
「さすがにその理性はあったよ。南美にも今の内容は麻生さんの口から聞いたって話す」
「頼むな。ああ、俺のことは一平でいいよ。麻生さんってなんだかむず痒い」
「はは、じゃあそうするよ。俺のことも名前で」
「真樹人、だっけ。じゃあ真樹人さん? 真樹さん? それともマッキー?」
「マッキーはやめろ」
これ以来高木さんーーーー真樹さんとは気のおけない飲み仲間として長い付き合いになるのだとは、この時はまだ思っていなかった。
今更感満載な、どうでもいい補足。
Hermit読んでない方のために、優と一平はエスパーで、二人共瞬間移動が使えます。
今回も一平の家からの帰りを男性である一平ではなく女性の優が送っていったのは、瞬間移動で直に南美の家まで行っているからです。
本編中も、「優がすぐ来てくれた」「一平が布団を持ってきた」という描写の影には「瞬間移動で」という言葉が本当は入るのですが、作品の雰囲気に合わないのであえてぼやかしてます。




