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第十六話

甘々デートの続きです。

 買い物、と言われて入ったのはデパート。

 なんか久しぶりだなあ!デパート!小さい頃はよく両親に連れられて来て、キャンディーの量り売りショップでいろいろ買ってもらったりしたっけ。やっぱり、全体的に値段が高い印象で、ショッピングモールとかに足が向くようになってしまいました。


 でもやっぱり、デパートのものは品質がいいね!ちょっとセレブな気分。


 なんていい気持ちでいた私が連れてこられたのは。




「えっと?真樹人さん?」

「これなんかどうかなあ?」


 うきうきと真樹人さんが店員さんにショーケースから出してもらってるの、それって…


「南美はやっぱりこういうかわいい系似合うよね」

「はい、こちらはピンクダイヤモンドでございまして、地金はプラチナ…」


 店員さんの説明を聞きながらちらりと正札を見ると、ざざざっと血の気が引きます。デパートの宝飾品売り場なんて、冷やかす気にもならないところでしょ!!うあ~、ゼロが五個、六個…四個くらいでは「あ、これお手頃」なんて気分になっちゃう、やばい!

 くらくらしてたら、背後から抱き込まれるような格好で長い腕が伸びてきて、私の胸元に商品をかざした。


「これ。どう?」


 すかさず目の前に移動してきた鏡を覗き込むと、鎖骨の間に小さなピンクの花が咲いてる。マーキーズカットの透明なピンクの石が5つ花びらのように配置されたモチーフが、銀色の鎖に揺れていた。そうね、桜みたい。大きさはそんなに大きくなくて、あんまり派手なものが好きじゃない私にはとても好ましく思えた。


「か…かわいい!」

「気に入った?」

「はい!すごく上品でかわいいですね」

「じゃ、これつけていこう」

「え?!」


 さっさと財布からカードを出して店員さんに支払いを始めてしまった真樹人さんをあわてて止める。


「真樹人さん!待って」

「え?ほかのがいい?」

「そうじゃなくて!だめですよ、こんな高価なもの」

「だめだめ、これは譲れないよ。…あ、はい、一括で」

「でも!」

「でも、じゃない。これはね」


 慌てふためく私の耳元に口を寄せて、真樹人さんがこそっと囁いた。


「南美は俺のものだって印なんだから、毎日つけててよ?」


 ぼんっ!!


 と、音を立てるように一気に顔が青から赤に変わる。な、な、な、なんですかそれっ!


 そして、脳みそが沸騰している私がパニクってる間に彼はお会計を済ましてしまったのでした。



 ◆◆◆◆◆


「南美があんまり浪費したくないタイプなのはわかってるよ」


 ペンダントを買った同じデパートの屋上で並んで座って、真樹人さんが苦笑してる。対する私は胸元に揺れているペンダントが気になってつい指先でいじってしまっている。


「でも、晴れて恋人になれて初めてのプレゼントだから。つきあい始めた記念な」

「初めてのプレゼントはスコップ…」

「つきあい始めてから、って言っただろ?そういうへりくつ言ってると」


 ずいっと急に真樹人さんの顔が近づいてきて。


「くち、ふさいじゃうよ?」

「~~~~!!!!」


 ぎぃやあああああ!

 何言ってるんですか、真樹人さん!!!!!!


「い、い、いいません!へりくつ、言いません!!!!」

「なんだ残念」


 真樹人さんがにやりと笑って、おでこにちょん、とキスをしてくれた。


「じゃあ、かわりにここ座って」


 ぽんぽん、とご自分のお膝を叩かれます。

 ……そこに座れ、ってことですか?

 え?真樹人さんの、膝に?


「むっ、むむむ、無理ぃ…」

「誰も見てないよ」


 強引に引っ張られて真樹人さんの足の上に倒れ込み、そのまま膝の上に抱え上げられてしまいました…


「まっ、真樹人さんっ!は、恥ずかしいぃ……」

「ここ、周りからは死角になってるから。誰にも見つからないよ」


 腕の中に抱き込まれて髪にキスされて。

 もうだめです…キャパオーバー!!!!


「あ、あの!!!」

「…正直言うと、くやしいんだ。昨日、俺が南美を助けたかった」


 え。

 昨日のあれ?私が麻生さんに助けてもらった。


「あ~、くやしい。でも、おかげで南美が無事なんだから、彼には感謝してるけど」

「真樹人さん…」

「次は、絶対俺が助けるから」

「え、でも、次があったら困ります」


 顔を見合わせて、思わず二人で吹き出してしまった。


「くくく…そりゃそうだ。うん、そういうことがもう起きないように、俺がずっと南美のそばで守ってればいいんだよな」


 そういって、またぎゅっと腕に力が籠もった。触れた体のぬくもりが気持ちいい。それで、ものすごく安心できて、いつまでもこうしていたいくらい。

 ちょっと首をこてんと倒して、真樹人さんの肩に頭を預けてみる。


「はい、そばにいてくださいね。…それで、あの、ひとつ気になってることが……」


 と、話しかけていたけれど、返事がない。


「真樹人さん?」


 見上げた顔は、びっくりするくらいに真っ赤。


「え?え!どうしたの、真樹人さん!」

「ど、どうしたって…いやその…そんなストレートな返事がくると思ってなかったから…」


 ???私、なんて言ったっけ?

「ずっとそばにいて守る」に「そばにいてくださいね」って…





 ………


 うわ!!!!

 ま、まるで、ぷ、プロポーズみたいな会話!!!

 そんなはずないけど(何しろ正式につきあいだした翌日だよ?!)、わかってても、て、照れる…


「お、お、下ろしてクダサイ真樹人さん!もうむり、限界、顔から火が出そうです!!!」


 大暴れしてやっと下ろしてもらいました。ふう。

 でも、正直なところ嫌なわけじゃなかったよ?むしろ、うれしはずかし、っていうか…

 ああもうどうしよう、好きすぎて怖い。


 並んで座ってしばらく恥ずかしさに口をきけないでいたけど、真樹人さんが「そういえば」って話しかけてきた。


「えと、気になることってなに?」


 あ、私がさっき言ったことですね?


「はい、昨日のことなんですけど…」






 私が気になっていたのは、有村さんが去り際に残した一言。

「そんなちんちくりん、そもそも乗り気じゃなかったしな!」

 って。



「え?そんなこと言ってたの?」

「はい、だから、有村さんが私に近づいてきたのって、有村さんの希望じゃないって事ですよね?」

「誰かにたのまれたって事?」

「じゃないかと思うんですけど…」


 うん。恨まれるっていうか、妬まれるネタは大いにあるしね。と、隣にいるひとを見上げてみる。すると、隣のイケメンは難しい顔をして考え込んでいた。


「南美」

「はい?」

「有村のことはもう忘れろよ。そっちは俺にまかせてほしい」

「まかせるって」

「とにかく!南美があんな男のことでわずらわされるのが我慢ならない。近づいてもほしくない」


 そういうと真樹人さんが私の手をとった。


「もう有村が南美に近づかないように、それから、あいつの言ったようにもし裏があるならそれも含めて。俺が南美を守るから」


 そういって、そういって、私の手の甲に唇をそっと落とした。


 うわああああああん、なんでそんなことするの!

 まるで、恋愛小説の中の騎士様みたいじゃない!!!

 また、そうしてからこっちをみて微笑む表情も破壊的。




 もう、血圧上がりすぎて倒れそうです……

安心の甘々展開でございました…なんか高木のキャラが…

次回はちょっとお休みして、閑話を挟ませていただく予定です。

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