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【書籍発売中】美形インフレ世界で化物令嬢と恋がしたい!  作者: 菊月ランララン


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黒服の演奏会




【Side:セレナ】



「明日よりアマデウス様の護衛に付きます、シレンツィオ騎士団、セレナ・バーリントと申します」

「同じく、ゲイル・バーリントと申します」


ジュリエッタ様とスカルラット伯爵令息・アマデウス様との婚約パーティー。私たちはアマデウス様に紹介された。ジュリエッタ様からの要望でこれから数年間は夫と共にアマデウス様の護衛に付く。

スカルラット伯邸の近所に家を押さえたし、引っ越しも済んでいる。お二人が結婚した後は私たち夫婦をジュリエッタ様とアマデウス様付きの護衛騎士にして頂くという約束で。

引っ越しは少々バタバタしたが、その出世と比べれば大した苦労ではない。


「よろしくお願いします、セレナ殿、ゲイル殿」

人好きのする笑顔で挨拶してくれたアマデウス様は背がすらりと高い爽やかな少年で、ジュリエッタ様が愛してやまない方。ジュリエッタ様は仮面をしていてもわかるくらい上機嫌に彼をうっとりと見る。

ベタ惚れなのがだだ漏れですよ…

私を遣わすことになったのも、『優しい彼がどこぞの女に迫られたり襲われたりしたら心配だから』だそうだ。『浮気が心配だから』ではなく…?と思ったがまぁどっちでもいい。ジュリエッタ様と婚約が成ってから知ったが彼はなかなかの女誑しとして知られていたらしい。見た目の印象からすると意外だ。お傍に付いた後嫌な一面を見ることにならないことを祈る…。


最初に知り合った頃のジュリエッタ様は大人しくて控えめで、どこか寂しそうな方だった。

今は寂し気な雰囲気が消えて堂々として見える。控えめなのは悪くはないが人を率いていくには貫禄があるにこしたことはない。

元々努力家で才媛だ。支えてくれる良い婿が来ればさぞ立派な女公爵になって下さることだろう。



……絶対に、彼女の御顔に慣れてみせるんだから…!!

以前はご尊顔を前に腰を抜かしてしまったが、次は耐えてみせる…!でもそんな有様だったのでまたお顔を見せて頂く機会がほぼ訪れなさそうなのが問題だ。慣れる為にまた拝見したいがまた失礼をしたらと思うと申し訳ないし…。



本日は顔合わせのみで、パーティーを楽しんでいいとのこと。

団員がほぼ警備に駆り出されている中でパーティーに参加出来るのは嬉しい。天才と噂されるアマデウス様の演奏をしっかり見ることが出来るのだ。

夫のゲイルは会場に入って早速飲み物をカパカパとご機嫌で飲み干している。見渡すと次々と若い令嬢・令息が入場して来る。全員が様々な色と組み合わせた黒い衣装だ。暗い赤の騎士団服で参加している私たちは少し目立つ。


「すごいな、本当に皆黒い」

夫が飲み物を飲みながら感心して言う。

「でも良い感じに華やかで、お葬式みたいには見えないわね。良かった」



友人の男爵令嬢で町の豪商に嫁いだ子がいるが、今回のパーティーの影響で服飾を扱う商家はてんやわんやだったのだそうだ。

お針子たちは基本的に黒い生地をメインにしたドレスなど葬式用しか仕立てたことが無かった。いきなり黒いパーティードレスを作ってくれと言われても困惑する。困惑して偉い人が話し合っているうちに、『無理そうなら他に頼む』と言われてマルシャン商会にガンガン客が流れて行ったという。

エイリーン様とアマデウス様が贔屓にしているらしいマルシャン商会は、早いうちから黒いドレスの意匠を沢山考案し、布を大量に確保していた。アマデウス様たちが『あそこに頼めば話が早いよ』と紹介していたのである。


一度客が流れたら帰ってこない可能性は充分ある。貴族の客は逃したら痛い上客だ。国中の商会はマルシャン商会に負けじと黒いドレスを考案し受注した。黒い服飾の材料の価格は高騰し、売上はマルシャン商会の一人勝ち状態に。



招待客には今日の帰りに買うことが出来る楽譜とレシピのリストが渡されることになっているそうで、黒い衣装で来た人には一家に付き二つ、タダで進呈されるという。黒い服に抵抗があれば着ないで参加することも出来たが、普通の色で参加している人は見当たらない。黒服以外の人は私たちのように仕事の延長でここにいる騎士か使用人くらいのようだ。

商品二つタダは大きいですもんね。皆が黒の中一人だけ別の色ってのも悪目立ちするし。


商品はスカルラット家が全て用意したというので太っ腹なことだ。まぁ今回アマデウス様はマルシャン商会から仲介料も貰っているだろうから利益の方が大きいか…。会場の設営やらは公爵家が担っていて上品かつ実に絢爛。舞台の背景にある絵画は圧巻。


今日の為にすごい大金が動いているんだなぁ~~~…! としみじみする。



新しいという料理を摘まんでみる。『コロッケ』と書かれた一口サイズの丸い揚げ物が何種類もずらりと並んでいた。中身が違うようだ。

「…美味しい~!」

「美味いなコレ…いくらでも入る…」

挽肉と芋を混ぜた物、南蛮の甘芋を滑らかにした物、海鮮が入った白いソースが溢れる物…どれも美味だ。体が大きいゲイルがすごい勢いで平らげてしまうからそこまでにしてと止めた。レシピ欲しいな。近くで食べていたお客が一つは絶対これにする!とわいわい話している。



もう一つの新しいという料理は『玉焼き』と書かれていた。見たところ丸く焼かれた粉モノ料理だ。どうやってこんな風に丸く焼いたのだろう…あ、専用の調理器が要るって書いてある。二種類のソースが添えられていて、海鮮、チーズ、野菜等が中に入っているという。これも中身が違うのか。食べてみると外側がカリッとして中はふわりと柔らかく、生地は粉だけでなく何か味が付いていた。これも実に美味しい。中身とソースで色々な味が楽しめる…簡単に思いつきそうにも見えるが初めて見る料理だった。



…すっかり楽しんで食べてしまった。もうお腹いっぱいである。

普段パーティーでこんなに食べることはないのだが、つい…。

過去にもいくつかレシピを出していたし、スカルラット家には優れた発想の料理人がいるようだ。……スカルラットがレシピと楽譜を大量に売り捌くようになったのが、アマデウス様が養子に入ってから というのは、気になっている者も多いと思う。

どちらも名義はアマデウス様ではなくレシピは料理人、楽譜は楽師の詩人が各国から集めたと明記されているが―――本当はアマデウス様が生み出しているのではないか、と考える者は多い。それなら何故手柄を他に譲っているのか?と聞かれたら、それは全くわからないのだけれど…。

それらの疑問に加え黒服をドレスコードにするという前代未聞の条件、公爵家の全面協力による演奏会……このパーティーには注目が集まっている。


王族こそ参加していないが、王家も部下からの報告を注視していそうだ。貴族の富が大きく動く気配に。



ざわっと人波が揺れた。

「ご覧になって、アルフレド様よ…!!!」

「っ……か、神……!?」

「幻!??!!??」

「死ぬ前に見る夢??」



……は?と思って目を向ける。絶世の美男子と噂のタンタシオ公爵令息が入場してきた。


騎士服に近い形の盛装。

黒い生地に、金色の刺繍と装飾が映える。麗しの金色の髪と瞳…。煌めくその姿に令嬢たちが小声で歓声を上げ、頬を染めている。神…夢…と言いたくなる気持ちもわかってしまう。あんなに美しい方がこの世に存在するのか…と呆けてしまった。

黒と金…光と闇の対比が何とも蠱惑的に見える。普段死の色と忌避される色がこうも華やかに…。令嬢たちの恐ろしいほどの熱視線に晒されながら、後ろに続いたこちらもなかなか麗しい二人の貴公子と楽し気に談笑している。注目されるのは慣れているのだろう。



少しして人々が更にざわついた。

入場してきたのは、――――絶世の美少女と噂に名高い、ランマーリ伯爵令嬢エイリーン様だ。


「地上に降り立った女神…」

「美しい…」

「エイリーン嬢の為に死にたい……」


ほお…と感嘆の溜息がそこかしこで吐かれた。どこかの知らん令息の過激なセリフ(彼女の為に死にたい)も無理はないとまで思える。

艶やかな黒いドレスは、緩やかに膨らんだスカートに金糸の刺繍と輝く金剛石が散りばめられている。ドレスの黒に、露出した白い肩が眩しい。首元には小ぶりなネックレスが光り、大人びた印象だ。少女と大人の女性の間といった魅力。長く美しい金の髪が歩く度にきらきらして周りの人々の目を惹く。金の睫毛に金の瞳、陶器のような肌、花弁のような唇。完璧だ。

美。

美 が凄い……。女の私でも少しの間目が離せないくらいに見惚れる。



横でエスコートしているのはおそらくすでに社交界に出ている彼女の兄だ。金髪に青い目の美丈夫。目を光らせて妹に男を近寄らせない。基本的には学生のみの招待だが付き添いは一人までいい事になっている。周りを見渡すと付き添いで来たのであろう大人がちらほら。


彼らはこのパーティーの今後の影響を、アマデウス様の価値を、吟味しに来ている。


(ジュリエッタ様の為にも、彼らに“期待外れ”とは思わせないで下さいよ、アマデウス様…)


私はコロッケだけで結構満足してるけれど… と思いつつ舞台を見つめて祈った。





※※※




【Side:エイリーン】



「エイリーン、主役の伯爵令息を激励しに行ったりするかい?お前が行けばきっといつも以上の実力を発揮して下さるだろうさ」

エミリオお兄様が小声で私に言う。お兄様はアマデウス様のことを『公爵家のご令嬢に見初められて天才と持ち上げられているだけで大したことは無い』と思っている節がある。


「…アマデウス様はわたくしに励まされても特にお変わりないと思うわ」

「おや…安定しているということ?期待できないということ?」

「わたくしの言葉で一喜一憂なさらないということ」

「…そんな男いないだろ?」

「いるのよ」

少し前まで私もいないと思ってた。いるのよ。



食事と飲み物を楽しむ時間を取った後、会場の明かりがいくつか落とされ、薄暗くなった。

光を集められた扉が開けられ、執事の声がする。主役のお出ましだ。



「ジュリエッタ・シレンツィオ様、アマデウス・スカルラット様がご入場です」




ジュリエッタ様は学院の中にいる時と同じで仮面をつけている。二人が並んで拡声器の前に移動し、視線を交わして微笑み合う。顔の上半分はわからないけれど幸せそうなことはよく伝わる口元。拡声器で挨拶を述べるジュリエッタ様を見るアマデウス様の細められた目。


―――――――嗚呼、羨ましい と思う気持ちをぐっと抑える。

私がそんなことを思っているなんて悟らせてはいけない、誰にも。貴族らしく笑うのよ。


立ち振る舞いは流石公爵令嬢、極めて優雅。ジュリエッタ様はこれまであまりお茶会などの催しに参加していないのでお姿をしっかり見る機会がなかった者も多い。“化物令嬢”の噂しか知らない者にはかなり良い方に意外に映っただろう。


会場には机の下以外にも自由に座れる椅子が壁際に用意されており、挨拶が終わると各々好きな所に座り演奏を待った。



暗くしてあった舞台に光が灯り、照明が背景の絵画の中の闇の神を照らし出す。ピアノの前に座ったアマデウス様、弦楽器を構える演奏者。準備が整った所で舞台横に立ったジュリエッタ様が歌の説明を読み上げる。





一曲目。“月光”。

光の神との戦いに破れ、死の世界へ落とされた。そこから戦の神をも奪われた闇の神の、切望と哀しみの歌。



拡声器の前に立った歌手を見てさわさわとどよめきが広がる。

焦げ茶の髪に目が金色の美しい少年…青年?

観客の端のジュリエッタ様の方をさっと眺めた流し目が非常に色っぽい。口を押えて歓声を叫ばないようにしている令嬢が結構いた。

騎士団の礼服に似た黒い衣装と、闇の神を表す黒いマントをさっと翻して歌い始める。






二曲目、“ラモネ”。


生と死の狭間の川の岸に生えているといわれるラモネ。闇の神が、もう戻らないと信じた幸せな思い出に浸り、離れた愛しい相手に想いを馳せる歌。



演奏者の一人の灰茶の髪の男性が前に出た。一曲目の歌手は素早くマントを脱ぎ彼に手渡し、後ろの演奏者の席に座る。この男性もなかなかの美形である。銀の刺繍の入った黒い礼服に黒いマント。闇の神の役が彼に引き継がれた。









三曲目、“星空”。


地上へ引き戻された戦の神は離れた闇の神の元へ向かう長い旅をする。再会の日を思って希望を紡ぐ歌。



感傷的な曲調から切なくも明るい旋律の伴奏に切り替わり、絵画の戦の神の方に照明が動く。

艶のある赤い布地に銀糸の刺繍の長い衣を腰で緩く黒紐で結んだ、原始の神を思わせる衣装を纏った少女が前に出た。








四曲目、“銀の馬の背に乗って”。


闇の神と戦の神の間に生まれた医術の神は黒い鎧の騎士の姿で、病を持つ人々の元へ駆けつけるという…命を想う神の視点の歌。



厳かな伴奏が流れ、ずっと脇でコーラスをしていたふくよかな婦人が前に出る。ふわりと広がるゆったりとした黒い衣装に銀糸の刺繍が光る。

彼女は他の歌手よりも拡声器から少し距離を取って、歌い出した。







歌が終わると、歌手と演奏者が全員袖に下がり、舞台にはピアノとアマデウス様が残された。

照明が彼に焦点を合わせる。光の下で鍵盤に手を置き彼は視線を婚約者に投げる。ジュリエッタ様が頷き、拡声器に唇を寄せ少女らしい声で「小夜曲」と端的に紹介した。




……軽やかに鍵盤を跳ねる彼の指先。いかにも簡単そうに楽し気に弾くけれど、あれがどれだけ難しい事か…

そして紡ぎ出される旋律の、なんと甘美なことか。





※※※





割れんばかりの拍手で会場が包まれ、会場全体の照明が明るくなる。


『アマデウス様を信奉する会』の令嬢たちがそれはもう興奮した面持ちで拍手していた。貴族の仮面は剥がれ落ちて、満面の笑みで、涙を流しながら、赤い顔で泣くのをこらえつつ、などなど種類に富んでいる。普段ならばはしたない、しゃんとしなさいと叱られるような顔でも―――今は誰も咎める人などいはしない。


端の方で治癒師の青いローブを着た端正な老紳士が、静かに舞台を見つめて涙を流しているのが見えた。若い人だけでなく年嵩の人にも響いているようで何より。


他人事のように観察しているけれど、私もかなり興奮している自覚はある。



――――素晴らしかっっっ、たぁ…………。



胸の内から湧き上がる、今すぐ走り回りたいような幸福感よ。アマデウス様が音楽に傾倒する気持ちもわかろうというもの。これは一度味わってしまうと忘れられないわ。

隣の兄に目を向けると、目元を赤くしながら拍手している。

薄暗かったからバレていないと思っていそうだが、二曲目と四曲目の途中ハンカチで顔を拭いていたのはこっそり見ていたわよお兄様。


「エミリオお兄様…どうでした?お楽しみ頂けた?」

「…ああ………とても。……大仰な噂では、なかったのだな…」


お兄様が私に聞かせる目的ではないだろう呟きをぶつぶつと洩らす。

「――今までに家や王都の劇場で経験した音楽体験と何が違うかと言われたら…おそらく、没入度が違う。複雑に調和した楽器の音と歌声。歌手も個性的で印象に残るのを揃えていた…神話の神の感情を強調した、物語を想像させる叙情的な歌詞…かなり神を人間的に解釈している。そう、それが斬新だな…。厳格な聖職者には少々不敬だと感じる者もいるかもしれん…まぁ公爵家が後ろについている彼にそんな文句を出す者もいないか。潰される心配はいらないな…―――」


エミリオお兄様は劇場も経営しているし芸術にも関心が深いので喜ぶと思って連れて来たのだが、予想以上に食いつきが良い。連れて来た甲斐がある。



アマデウス様が音楽神のいとし子と呼ばれることを大仰だ、でっち上げだと感じていた人は会場にもいただろう。“いた”。

過去形だ。



今日この場に居合わせた者に…疑う者はもう、いなかろう。




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[良い点] この会場の臨場感を文字だけで表現出来る作者様すげーな
[気になる点] アマデウス様が音楽神のいとし子と呼ばれることを大仰だ、でっち上げだと感じていた人は会場にもいただろう。“いた”。 なんだかおかしな文末になってしまってしますがミス? どういう風にすれ…
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