お揃い
「何かお揃いの物を作りませんか?」
中庭のベンチに二人で座って、俺はジュリ様にそう提案した。
リーベルトとカリーナ様、プリムラ様が少し離れたところで談笑している。一応見張りのていではあるが、こっちはあまり見ていない。婚約者同士が開けた所で話している分にはそこまでしっかり見張りを付ける必要はないのだ。勿論部屋で二人きりとかはまだダメだけど。
「お揃いのもの、ですか…?」
「婚約者がお互いの髪や目の色の装飾品を付けるのは良いことなんでしょう?色だけ変えたお揃いはどうかなと」
これはルドヴィカ嬢から得た知識である。言わないけど。
「ええ。でも男女でお揃いのもの、というとあまり聞かないかもしれません…男性に贈るとしたら宝石の飾りが付いたタイやボタン、ブローチ、髪が長ければ髪飾りなどでしょうか。女性だと首飾りや髪飾りや腕輪に指輪…色々ありますが」
俺が仲良しアピールとしてまず考え付いたのはペアルックだった。だがいつも服を揃えるのは難しかろうと、ペアグッズの提案にした。どうやら男女が同じ物を身に付けるというのはあまり見られないようだ。対になるようなデザインの服を着るとか所属を表す為に集団で同じ物を身に付けるとかはあるけど。言われてみれば男向けは男向け、女向けは女向けとすごくはっきり区別されているところがあるからな…。あんまり女性らしいものは男が付け辛く、男性っぽいのは女性には無骨過ぎるとかあるのかも。
ジュリ様はあごに手を当てて少し考え込んでいる。
「変ですかね?」
「…おそらく、注目されるとは思います。カリーナ、プリムラ」
「はい」
「何でしょう」
呼ばれてサッと二人が寄ってくる。この二人はジュリ様の友達だけど、いずれ側近になるのだろうか。二人とも跡継ぎではなかったはずだから可能だと思うが、縁談によって立場はまた変わるか。
「わたくしとデウス様がお揃いの物を仕立てて身に付けていたら、どう見られるかしら…」
「お揃いの装飾品…ですか?男女で?」
「そういう例は…わたくしは存じ上げませんわね。アマデウス様の思い付きですか?」
プリムラ様が探偵みたいな真面目な顔を俺に向ける。
「はい…」
「…良いと思います。とても仲睦まじく見えますわ」
ふむ、と頷いてもらえてホッとする。プレゼンが好感触だぜ。プリムラ様に対してはちょくちょく上司を相手にしている気分になる。
「しかし男女でお揃いの装飾品とは、何があるのでしょう。ブローチや…指輪とか?」
カリーナ様が首を捻る。
因みにこちらには婚約指輪、結婚指輪というものはない。結婚の時に指輪を交換したりはしないし指輪は単にアクセサリーだ。
結婚式は神に誓いを立てた後二人で結婚の同意書にサインするらしい。予想はしていたが誓いの口づけもない。
「指輪は、私の場合楽器を弾くうえで邪魔になってしまう時があるので…ブローチでもいいですけど、耳飾りはどうかなと思っているんですが」
「耳飾り…ですか?」
「同じ意匠の物を石の色は変えて、片耳ずつ付けるんです。二人で一つ、って感じになりませんか?」
耳飾りはこの世界では女性に限らず男性も付けている人は多い。地球でも別に女性の物とは限らなかったか。
平民だとネジ式のイヤリングが主流だが、貴族は大体ピアスだった。何故かというと、貴族なら治癒師に同席してもらい耳に穴を開け、耳に針を通した状態で治癒してもらえばすぐに安定したピアスホールの出来上がりだから。便利~!そんな訳で割と気軽にピアスホールを開けることは出来る。
治癒師というのは医者のことだと思っていたが、魔法使いだと知った時は驚いた。貴族の三子以下の就職先で人気のある職業の一つ。魔法の素養がないとなれず、腕が良ければ貴族に雇われて高給取りになれるがそこまででなければ貧乏暇なしで、騎士になった方がマシだそうだが。
「…!!ふ、ふたりで、ひとつ…」
「お互いの為に耳に穴を開けるというのも、良いなって」
俺の言葉にジュリ様が真っ赤になった。多分喜んでくれてる反応。
合わせると一つの形になるキーホルダー持つカップルとか、暑苦しいくらいラブラブだなってなるし、アピールとして良いよなって。
恋人のピアスホールを開けるという行為をロマンチックなものとして描いたやつや、片耳ずつ付けるペアピアスをしたカップルを漫画で見た気がする。
高校で仲良くなった友達の一人、田野倉くんは家族ぐるみのアニメ・漫画オタクですごい量の漫画を持っており色々借してもらった。おススメのアニソンも教えてもらった。俺もインドアで結構漫画は読んでいたが、田野倉くんのお姉さん所蔵の少女漫画はほぼ初見で新鮮だった。少女漫画、ものによってはエロい展開もあって刺激的。官能的というか、少年漫画のスケベとは趣が違うエロさがあったり。
仲良くしてた他の友達はミリタリーオタクとオカルトオタクだった。俺もそこそこの音楽オタクで、オタク同士は惹かれ合う…というか、クラスで浮きがちなオタクが寄り集まった感じ。でもオタク同士、趣味を尊重出来ていたし良かったと思う。多分全員が 時々面白いけどほとんどわからんな~ と思いながらそれぞれの話を聞いてたけど。
「素敵ですわ!なんて甘美な発想でしょう。是非お作りになるべきですわよ」
カリーナ様は興奮したように褒めてくれたがプリムラ様は何故かジト目になった。
「…あっ、え、ええ。では、是非…!石はどうしましょうか。瞳の色にいたしましょうか、デウス様が赤、わたくしが緑の石を…」
「私のは黒で作りたいと思ってます。黒い宝石、扱っている所見つけたので」
黒い宝石は需要が少ないのだろう、取り扱っている所が少なかった。知り合いの工房関係者にさがしてもらって、見つけたのは喪服を扱っている大店。貴族向けの喪服のボタンや飾り、靴などに使われているそう。
「え」
「意匠はどこか評判の良い工房に任せたいですが、装飾品の工房にはあまり詳しくなくて…ジュリ様どこか御贔屓になさっている所がございますか?」
「あ、あのお待ちください!黒…黒い宝石をお使いになると…?」
「駄目ですか?ジュリ様の綺麗な髪の色です」
「ぁ……」
「私、黒、好きですよ」
ジュリ様は手の近くにあった自分の髪を握った。多分、黒い髪を悪く言われたことはあるのだろう。あまり触れない方が良いかとも思ったが、俺がどう思っているかは言っておいた方がいいと思った。決してお世辞ではなく、その色の石を身に付けたいと思っているとも。
「それに…黒い石を身に付ければ、私がジュリ様のものであると一目でわかるでしょう?」
「!……」
ジュリ様の仮面の穴から見える瞳が少し濡れているように見える。何か我慢するようにきゅっと引き結ばれた唇が震えた。もしや泣かせてしまうだろうか、俺は少し焦って言い訳みたいに言葉を重ねる。
「お嫌ですか?黒が喪服以外に使われることが少ないとはいっても、小さなボタンとか鞄や靴の装飾になら使われていますし…耳飾りの石に使うくらいならおかしくないと思ったのですが」
「いえっ…嫌ではないです。ぅ、嬉しいですわ…」
ジュリ様の指が俺の手に少し当たった。ドキッとして数秒固まったが、意を決して彼女の手を握った。
手袋をしていない彼女の手は少し俺より冷たい。照れくさくてへらっと笑って見せると彼女はまた真っ赤になって俯く。片手で顔を隠そうとして仮面に当たって、手をわたわたと彷徨わせた。
これは照れている。かわいい。
「…なんとまぁ、『天賦の女誑し』の面目躍如ですわね…」
プリムラ様がジト目で言う。久々に聞いたなその異名。生き残ってたんか。それにそこまで言われるほどじゃなくない???
しかしリーベルトは頬を赤くしてウンウンと頷いている。同意しないでよ。
「そ、その渾名やめて下さい…」
「あら、失礼」
「良かったですわね、ジュリ様!わたくしも、この黒い瞳も良いと言って下さる殿方に会えないものかと期待してしまいますわ…」
カリーナ様が溜息を吐いて言ったのを聞いてハッとする。
「あ、…そうだ、カリーナ様!プリムラ様にも、当然ジュリ様にもですが、ご相談したいと思っていたことがあるんです。黒について」
「黒について?」
「黒い服を―――――流行させる方法を、考えているのです」




