外聞
国一番の醜女と呼ばれている人と婚約したことについて。
驚愕したり怪訝な顔をした楽師三人にポーターも呼び出して、まとめて説明した。
「言ってなかったけど、向こうの世界とこの世界では美の基準が違うみたいで。俺の目からみたら、ジュリエッタ様は全然醜く見えないんだよ」
「そ、そうなのですか…?かの令嬢は、顔を直接見た者が昏倒したり泣き叫ぶほどだとお聞きしていますが…」
ラナドは妖怪の話でもしてるような恐々した口調である。大袈裟だよ~ハハハ、と言えたら良かったんだけど事実だからな……
「こっちの人が見たらそういう反応になってしまうみたいだけど…俺は平気だし、むしろ美人だと思ってる」
ラナドとロージーとポーターは混乱顔だが、バドルは「違う世界でお育ちになったというと、そういう価値観のズレも生まれるのですね…」と納得顔。
歳を取ると新しいものを受け入れ難くなるとか考え方が固定されがちだとかいうけど、バドルは年の功で考えが柔軟になってる方だよなぁ。そういう歳の取り方をしたいものだ。
「その…つまり…恐ろしい世界にいらっしゃったのですね……」
ラナドに遠慮がちに同情された。ヤバいクリーチャーだらけの世界だと思われてるっぽい。そうか、こちらの人にとってはそうなるのか…?顔にシミや肌荒れの全くない人なんてほとんどいないもんな向こう。つまりこちらの人にとっては悲しいことに不細工ばかりである…。顔もこちらの人ほど整ってないし。
この世界の人が記憶を残したまま地球に転生しないことを祈る。生き辛そう過ぎる。
「別に元々その世界に生きてたら恐ろしくないよ。ほら、黒目黒髪ばかりの国だったって言ったでしょ?だから黒髪にはむしろ親近感があったりするし…」
「黒は不吉な色ではなかったのですか?」
「喪服の色ではあったけど…」
しかし喪服が黒、のイメージは外国から持ち込まれた概念だったはず。日本の喪服は白か黒だったけど、開国後に列強に合わせて黒に統一する流れが出来たんじゃなかったかな。詳しくは憶えてないけど…確か欧米(雑なくくり)でもまあまあ近代、あるデザイナーの登場まで黒の服は喪服に見えるとして忌避されていたんだったはず。
そう―――――ファッション史に名を残すデザイナー、ココ・シャネルが黒のドレスの流行を生み出すまで。
そうか。ここの服飾史はいうなればシャネルが現れる前の時代……より、黒の立場は厳しいけど。
なら、黒のドレスを流行らせることが出来れば――――――ジュリエッタ様のような、黒が体に出た人のイメージも多少向上するんじゃないだろうか……?
黒色のイメージが、向上すれば。
「デウス様?」
「次にやりたいことが決まったかも……ああ、うん、不吉な色と決まってた訳ではなかったかな」
「そうなのですね…想像が追いつきませんが」
ロージーは首を捻っている。色のイメージって国で変わったりするらしいし、生まれ育った環境に依存しそうだな。俺が知ってる例は日本でエッチな感じの色はピンクだが英語圏だと青ということくらいだけど。
「金髪や金色の人気はあったけど、金が一番美しい色とも決まってなかったし」
「な、何故です!?」
ポーターが愕然とした。常識を否定されると なんで???!!! ってなるよね…
「そういうものだったとしか…俺からしたら髪や目が金だからって一段上の美人とされてる方が不思議。未だに」
「~~~~……ほ、本当に…違う世界にいたんですね…」
頑なに『俺の前世の話は妄想』というスタンスだったポーターがついに異世界の存在を認めざるを得なくなった。
そこまで衝撃だったか……俺がジュリエッタ様に婚約を申し込んだことも決め手の一つかな。
※※※
翌日。
「先日学院の外でお会いする機会がありまして…申し込み、成功しました!ご協力有難うございました!!」
放課後、いつもの五人が合流出来たところでまとめて報告。
貴族同士の婚約が決まると貴族院玄関前の掲示板に貼り出される。王城内と王城前でも広報などを掲示する場所があるらしくそこに貼られるという。そこを逐一チェックして貴族それぞれの家に迅速に知らせるのも隠密の仕事だと聞いた。
まだ王家の承認が下りてないから貼り出されていないが、話してもいいと言われたので言っちゃう。王家が承認しないなんてことはないですよね?と聞いたら公爵家の機嫌を損ねるからそれはないだろうと言っていた。一口に王家と言っても俺を邪魔に思っている派閥とそうでない派閥があるらしいし。
「そうか、それは良かった」
「うむ、めでたい」
「やっとか」
「おめでとう、デウス!」
「へへへ」
皆祝ってくれた。だらしない顔になってしまう。
「では、いずれお前は私と並ぶ身分になるのだな…不思議なものだ」
アルフレド様がしみじみという感じで言った。ジュリエッタ様に婿入りすると俺は公爵夫という立場になる。地位的にはアルフレド様と並ぶのか。確かにそれは何か不思議だ…実感がない。
「まぁ私は私ですから、皆は何か変える必要はありませんよ」
「…そうもいかないだろう、やはりお前は身分に対する考えが甘いな」
ハイライン様がぶすっとしながら言う。
「勿論公の場では身分に応じた対応が要るとは思いますが。私ももっと色々頑張らないといけないのはわかってます…でも普段の会話では同じでいいでしょう、ハイライン様に今更敬語使われたくないですし」
「なんだ、私の敬語の何が不満だというんだ?」
俺の酒が飲めねえのか、あぁ?みたいな絡み方。でもちょっと嬉しそうだ。ハイライン様らしい。
「違和感が凄そうです。ね、リーベルト」
「そうだね、気持ち悪いかも…」
「リーベルトまでなんだ!」
アルフレド様もペルーシュ様も笑って、ハイライン様は拗ねてたが結局皆に釣られて笑った。
ジュリエッタ様もお友達に話したらしく、公式に発表はされていないが俺達の婚約はじわじわと広まったみたいだった。同じクラスの人達から時々祝いの言葉をもらったり。
正式に貼り出されたのは三日後。
貼り出されているよとリーベルトが教えてくれたのでせっかくだし見ておこうと見に行った。
今までもいくつか上の学年の人の婚約が掲示されていたので見に行ったことはある。婚約が発表されている時は結構人がたむろしている。
「あ…アマデウス様」
「ジュリエッタ様!」
向かう途中にカリーナ様とプリムラ様と一緒のジュリエッタ様とばったり。笑いかけると向こうも少し恥ずかしそうに笑い返してくれる。
カリーナ様とプリムラ様にすごく注視されてる気がしたが、とりあえずいつも通り挨拶を交わす。
「掲示板を見に行こうとしていたところです。ジュリエッタ様方も?」
「ええ…一回は見ておきたくて」
「一生に一度ですもんね。一緒に行きませんか」
「!は、はい…よろしいんでしたら」
…? よろしくない理由があるか…?
手を差し出すと手を乗っけてくれる。リーベルトもカリーナ様も少しニヤリとして見てくるが、プリムラ様はじっと観察するような目で見ていた。
掲示板の前に来てジュリエッタ様がよろしいんでしたら、と言った意味を理解する。
むっっっっ………ちゃくちゃ注目されとる。
その場の人間の目が一気にぐぁっ…と俺達に向けられた。こわい。
まぁそりゃそうだよ。王家の次に偉大な貴族、公爵家の婚約だぞ。前世でいう皇族の結婚相手くらい注目の的だろう。
うわ~~~~~~~~~~……わかってたつもりだけど視線が恐ろしいな…粗をさがされてるようで。
…今まで、ジュリエッタ様もアルフレド様もこういう視線を受け止めて来たんだろう。
パートナーになるということは同じだけ見られる覚悟を決めなければ。大丈夫大丈夫、舞台度胸だ。回数熟せばある程度慣れる!!はず。表情筋をコントロールする練習はずっとしてきたし。たまに緩んじゃうけどこういう場ではイケる。
「改めまして、これからよろしくお願い致します。ジュリエッタ様。…そうだ、私もジュリ様とお呼びしてもいいでしょうか」
「!…は、はい。それでは、わたくしも…えっと…デウス様とお呼びしても?」
「勿論です」
ジュリエッタ様が恥ずかし気に顔に片手を当てつつ、繋いでいる手に力を込めたので俺も応えるように握り返す。
すると嬉しそうに微笑み返してくれる。あー可愛い。仮面で顔半分が見えないのが個人的にちょっと残念。絶対可愛い顔してるのに。
俺達を見てひそひそと何かを話す声がした。何を言ってるかは知りようがないし、あんまり見られてても居心地が悪いのでとりあえずその場を離れることにする。
「もっと見せつけてもよろしいんですのよ」
歩きながらプリムラ様が真面目な声音で俺達に言った。
「見せつけ…てたつもりはないですが」
見られてただけで。
「そうですか…ではその調子でいきましょう」
「はぁ」
>その調子でガンガンいこうぜ
プリムラ様から何らかの作戦(?)の指示が出た。よくわからないけどこの調子でいいなら頷いておいた。
プリムラ様のその言葉の意味がわかるのは、少し後だった。




