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【書籍発売中】美形インフレ世界で化物令嬢と恋がしたい!  作者: 菊月ランララン


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歌姫たち③


聖歌隊は町の少年少女で出来ている。神の祝福を得る為に、15までの子供はなるべく参加することが推奨されるが、まあ歌が好きな子だけ参加する。

礼拝日に皆の前で歌を披露し、神を讃えるついでに教会への寄付を募る。聖歌隊に常にいるのは修道女と12までの孤児。

私は修道女見習いなので参加は義務ではないが、歌が好きなので常に参加している。



「ソフィア殿、一の町教会の聖歌隊の方にも予定が合えば是非参加して頂きたいと、アマデウス様が」

「のど自慢大会…歌の大会?ですか?」


アマデウス様の一の楽師、ロージー様が私に何か書かれた薄い板を下さった。


少し先の日にち、歌自慢集まれ。

一位に小金貨1枚、二位には大銀貨5枚、三位に大銀貨1枚という驚きの賞金が書かれていた。

大銀貨一枚あれば大人一人の一年くらいの食費が賄える。そもそも私は大銀貨なんて見たことがない、普段使いは高くても小銀貨くらいまでだ。



領主様のご子息、アマデウス様が度々町で演奏会を行っていることは数年前から知られている。

この教会でも何度か演奏会を行った。場所代と称して寄付金を下さって、教会からするととても有り難い。



最初は貴族の御子息が町の教会に来るなんて、もし機嫌を損ねてしまったら… こ、恐い!!来ないでくれませんかね…?!(泣) と思っていたものだが、アマデウス様は気さくで爽やかな少年だった。

子供達が敬語を使うのに失敗したり率直過ぎる質問をしても笑って許して下さる。侍従の若い方のほうはいつも不機嫌そうに睨んでくるからハラハラするけど…。



「私は気にしないけど、他の貴族の前では気を付けるように言い聞かせておいて下さい。まぁそうそう貴族が町の教会に来ることはなさそうですが…」

と修道士修道女達に向けて仰っていたので、貴族の中では変わり者なのかもしれない。



お貴族様が祈りに行く場合、中央教会という王都にある大きな所へ参るのが普通だそうだ。そこは司祭、修道士、修道女がほぼ全て何らかの事情で出家した貴族。

はい、そうやって区別しておいた方がお互いの為だとは思います…。


先代の時は孤児院の財政は結構苦しかったそうだけれど、今の領主様は孤児院に充分な寄付を下さっているし、アマデウス様も良い領主になって下さるでしょうね…と思っていたのだが跡継ぎは姉上様だという。少し残念。




「でも聖歌隊ではなく、これは一人で出るものなのですよね…」

「ええ、今回は一人に限定しています。今後数人で組んで出られるものも考慮するとは仰っていましたが…祭りの競争仕合のようなものと思って、どうぞお気軽に。参加費もタダですし」



謝肉祭や新年祭で競争をして一位から三位までに麦や穀物が贈られる催しがあるが、私は観戦しかしたことがない。それの順位を予想する賭けにも参加していないし、あまり詳しくない。



「これは内密の話ですが…アマデウス様は貴方に参加してもらいたいと言ってましたよ。我々もそう思います。聖歌隊で貴方が一番上手い」



贔屓していると思われると良くないのだろう、ロージー様が少し声を潜めて言う。

聖歌隊の少女が数人、アマデウス様に憧れて妾にしてもらえないだろうかと夢のようなことを言い、気に入られようと積極的に話しかけに行っている。アマデウス様本人は快く応じていて気付いていないのか気にしていないのかわからなかったが、この配慮を見るとちゃんと気付いているようだ。


「…考えてみます」




※※※




「ソフィア!!さっさと湯の支度をして頂戴!全くのろまなんだから」


修道院に買い物から戻るとフローラ様に怒鳴られる。急いで水を汲んでこなければ。


フローラ様は修道女だが、元貴族―――近くの領の男爵令嬢だったらしい。

だがどこぞの男性と関係を持ってしまい、家族から修道院に入れられてしまったそうだ。外聞を恐れて違う領に。貴族社会は貞操に厳しく、婚約していたとしても体の関係を持ってはいけない。結婚してからでないと駄目なのだ。


孤児から修道女になろうとしている私とは違い、多くの寄付金を出しているフローラ様はすでに修道女だし労働はほぼ免除されている。私や他の数人で大体の身の回りの世話を仰せつかっているが、わがままですぐ罵ってくるので苦手だ。まぁ私に限らず皆苦手にしているけど。


「そういえば、お前歌の大会に出るんですって?」

「え…ええ、よくご存じですね」


数日前に正式に申し込みをしに行った。大会はお昼過ぎからなのに朝早くに集合するように言われて不思議に思ったが、審査があるらしい。大会本番に出ることが出来るのはその審査に合格した者だけだそうだ。予想より参加人数が多かったのかもしれない。


「まぁ、事前審査で落ちるかもしれませんが…」

「わたくしも出ることにしたわ」

「えっ?!」

「わたくしは貴族なのよ、楽器も歌も出来るもの。平民に後れを取ることなんてある訳がないし…賞金を持って帰ればお父様もきっとわたくしを見直して呼び戻すわ」


フローラ様は聖歌隊にも参加しないし歌を聞いたことはないから実力はわからないが、すごい自信だ。

申し込みは本番前日まで。「わたくしの名前を申し込みに行っておきなさい」と申し付かる。ああ、明日は忙しいのに…仕方ないか。


「それに、主催は伯爵令息だというではないの。お近づきになればわたくしを召し上げて下さるかもしれないわ。平民の中ではわたくしほどの美女は目立つはずだもの…早く結婚してこんな所出て行きたいし」


確かにフローラ様は肌が綺麗で髪は金に近い茶髪、胸が豊満で同じ16歳とは思えないくらい大人っぽい。この辺だとそうそう見ない美人ではあるが、す、すごい自信だ…。



私としては、アマデウス様がそういう目で参加者を見るとは思えない。

あの方は誰にでもお優しいが、特に目が輝く時は楽器が達者な人や歌が上手い人の前である。年嵩の司祭様がクラブロを弾く姿を見ている時が一番うっとりしている。

あの方が重要視するのは目の前の人間の音楽を愛する熱量であって、それ以外のことは結構どうでもいいと思ってるのではないかしら……

と、私は思っている。

あれぐらいの歳の男子は美人に目が吸い寄せられるし妙に親切になるものだ。それ自体悪いこととは思っていない。だがアマデウス様は美人にも平凡な私にも態度を変えたりしない。

男性が苦手で修道女になろうと思った私だが、アマデウス様のそういう所は好ましいと思っている。

まぁ、平民がそういう対象にならないだけかもしれないけれど。



孤児になる前、父親は酒飲みで幼い私によく暴力を振るった。

父よりも父を送り届けてくる夜業の女性の方が私に親切だったくらいだ。家に連れてきた女性には優しくするのに私は怒鳴られ家から度々追い出された。

結局父は私が7歳の時、酒を呷って冬に外で寝て凍死してしまった。



孤児院には15までしかいることが出来ない。支援者から紹介された仕事や縁談もあったが、子供ならともかく大人の男性がどうにも苦手で、修道女見習いを選んだ。

修道院の皆は親切心で「若いんだから結婚も考えたらどう?」と言ってきたりするが(修道女は年寄りが多い。若くして自分から修道院に入る娘は滅多にいない。結婚が決まれば出ることは出来る)、いつまでも結婚せずにいても後ろ指を指されない女の職業は修道女くらいだ。



―――――私はアマデウス様の演奏会で、初めて恋の歌を聴いた。



外国の英雄譚、騎士と姫の恋の歌。異国の調べは魅力的だった。

恋をしたらどういう気持ちになるのか、興味が無い訳ではないが…恋をする自分を想像することは出来ないのだった。



…賞金がもし手に入ったら、どうしようか。一位は無理でも三位までに入れば…。

アマデウス様が褒めて下さるほどなのだから少しは自信を持っていいのかもしれない。頭の中で思うだけならいいわよね…。

そうだ、孤児院に何か美味しいものや新しい服でも差し入れて…教会の傷んでいる床を修理したい。修道院も取れたままになっている裏口の取っ手を直したり、壁の塗装が剥がれている所を塗り直してもらったりすれば…皆喜んでくれるわ。




他の奉仕活動よりもフローラ様に怒鳴られたり世話することで疲れた体を横たえて、眠りにつくまでに間私は賞金を手に入れた時の夢に浸った。


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