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【書籍発売中】美形インフレ世界で化物令嬢と恋がしたい!  作者: 菊月ランララン


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蒼顔



 一旦ジャルージ領の宿場町に行き、軽く食事を取ることになった。休憩だけ取って帰還する。


 俺は馬に乗れないため移動はひとまず備品を載せている屋根付き荷馬車にこっそり乗せてもらって移動した。このまま家まで荷馬車でもまあ構わなかったが、ちゃんと座って乗れる馬車を近くで調達すると父上が言ってくれた。


 宿に着くと先触れをしてあったのか食事がすぐ出てくる。何日も固いパンしか食べてなかったので野菜のスープが新鮮に美味しく感じた。ジュースもすげー美味い、水か酒しか飲んでなかったからな……。魚のソテーも美味……あ、湖にいたなぁ、この魚……。


 ジャルージ城にシレンツィオ公が報告へ行くため、それを待つ時間がある。風呂にも入れるというので有難くお湯を貰った。急いで真っ直ぐ帰っても二日はかかるので助かる。

 騎士達も交代で手早く入るとのこと。風呂に入るというより体を洗うだけになるだろう。待たせたら悪いなと俺もとりあえず急いで体と髪を洗った。風呂は家に帰ったらゆっくり入らせてもらおう。


 俺が無事だったことは伝書鳥(ムバという鳥。カラフルな鳩に見える)を飛ばしてスカルラット家と中央教会に一報入れたらしい。王家には教会が報告してくれる手筈。

 帰りに通る領でも顔を見せながら移動すれば一気に知れ渡るだろう。


 町の人が俺の顔を見ると「アマデウス様、見つかったんですね……!!」「無事だったんですね?!」「よかった!!」と驚かれたり手を振られたりした。大抵は俺の無事を喜んでくれているが、中にはどこか残念そうにしてる若者や複雑そうに顔を見合わせてひそひそしてる人達もいる。

 アレは何だったんだろ……? と宿についてからジークとリーベルトに訊くと(宿の入口で男女で分かれたのでジュリ様は別)、俺が誘拐されてからの世間のあれこれについて教えてくれた。


 ――――――思ったよりも大事になっとる!!


「大事件になってたんだ……」

「そりゃそうだよ。まあ想像以上ではあったけど……」

 マスコミの力を思い知るターン、思いの外早く来たな。

「ジャルージ辺境伯家も"聖女様の敵"とされてニネミア嬢の評判がかなり悪くなったので……兄上がこの領で見つかったということは、『領主が誘拐に関わってたのでは?』と勘繰る民もいるでしょうね」

「あと……残念そうな若者は、賞金が手に入らなくなったからじゃないかな」

「賞金?」


 なんと、俺が攫われて二日後にはシレンツィオ公……ティーレ様が俺に賞金をかけたという。


「……因みにおいくら?」

「小金貨百枚」

「小金貨百枚?!?!?」


 えーと小銅貨を十とした時、小金貨はざっくり百万くらいの価値だから……

 …………い、一億?????


 賞金首と考えると大物だ……。

 ティーレ様が俺にそれだけの価値を感じてくれていると思うと、嬉しくないといえば嘘になる。

 再会後にジュリ様と抱擁した後(周囲は皆空気を読んでしばらく待っていてくれた)に直接頭を下げて礼は言ったけども、帰ったら改めてお礼状とか出そう。


 考えてみれば国中の色んな所で色んな人が俺を捜してくれていたそうだ。賞金目当てだとしても有難いことだ。感謝のお気持ち表明には演奏会した方が手っ取り早いかもしれん。『感謝』とか『生きる喜び』とかをテーマにして……。



 いつでも出発できるよう準備を整えてから、ティーレ様待ち休憩。

 お茶を出してもらえたのでジークとリーベルトと暫し部屋で寛いでいると、ジュリ様が訪ねてきた。


「少しだけご一緒しても……?」

「勿論です! こちらへどうぞ、ジュリ様」


 すぐ移動するので騎士服だが、ゆっくりは出来なかっただろうけど風呂も入れたのだろう、小綺麗なものに着替えて化粧もしていた。騎士服だと大体ポニーテールにしている。凛々しいスタイルだけど上目遣いで遠慮がちに微笑む。かわいい。


 俺はそこでどうやって湖をやり過ごしたか(父上の見解で誤魔化す。後でジュリ様には本当のところを話そうと思う)や、人質であった間のことを訊かれてざっくりと話した。弦一本のフィドランを弾いたことと酒を無理やり飲まされたけど平気だったことは話した。

 ……うまく説明する自信がなかったため貞操の危機があったことは言わないでおく。ビート少年のことも。


「お酒にお強くて、本当によかったですわ……」

「俺、もしかしたらいくら飲んでも酔わないかもしれません」

「そういうこと言うと勝負挑まれたりすると思うよ、大酒飲み自慢とかに」


 それはちょっと面倒だな……。

 『酔っちゃったんでそろそろ帰ります!』とかの言い訳も出来なくなるか。まあまあ酒に強い、くらいを装った方がいいのかも。


 騎士団がずっと追いかけてくれていたから移動ばかりしていて何かされるような暇もなかったと伝えると、実は俺の靴に発信機的な物がつけられていたと知らされた。


「もも申し訳ございませんでしたっ!! ロレッタお嬢様のご命令とはいえ嘘を吐いて魔道具を仕込むなど、たた大変ご無礼仕りました……!!」

 クラウスはジュリ様の護衛の一人として丁度この場に来ていた。話が発信機(追尾と呼ばれる魔道具)に及ぶとじわじわと顔が蒼くなってついに大声で謝罪して深々と頭を下げた。もうお辞儀というより前屈ってくらい下げた。


「いや、クラウスは命令されただけだし、今回はそれのおかげで助かったからむしろ礼を言いたいくらいだよ。気にしないで」

「いえそんな……役に立ったのはたまたまですので……」


 その魔道具のことを俺が知らなかったことはむしろ良かったのだ。知ってたらビートにバレてただろう。その流れで俺は身体検査のことを思い出した。


「ジュリ様……その、贈ってくださったハンカチを……持ち物検査をされた時に取られてしまいまして。申し訳ありません……」

「え? あぁ……お気になさらないでください。御守としての役割を果たしたとも取れますわ。……また、お贈りします」

「いいんですか? ありがとうございます!」

「、……」

「ん?」

 リーベルトが何か言おうと口を開けたけどやっぱりやめたように見えた。

「あー……その、大した話ではないんですけど」

「なら教えてよ」

「……スカルラット騎士団に随行するために家を出る直前に、プリムラ様がいらっしゃって……」

「え」

「刺繍を入れたハンカチを渡してくれて……『ご武運を』と……」

「おおぉー!」

「まぁ、プリムラが?」


 プリムラ様の貴重なデレだ~~~!! ヒュー!!


「それ今持ってる? 見てもいい?」

「う、うん」

 彼が懐から取り出したそれを机の上に広げてまじまじと見ると「ぁ、あんまり見ないで……」と何故かリーベルトがすごく照れた。

 ロクティマ伯爵家とグロリア子爵家の紋章が刺繍された綺麗なハンカチ。水色と薄茶色の糸を使った上品な色合い。


「さすがプリムラ、職人が作ったと聞いても疑わない出来ですわ」

「急いで作ったんじゃなくて既に完成してた物ですよね? 渡す機を窺ってたんですかね~!」

「あ……もしかしたら六年生後半の模擬戦の前に渡そうと思っていたのかもしれませんね」


 俺とジュリ様がキャッキャしてると顎に手を当てたジークがふと気付いたように呟いた。

「ああ、兄上が儚くなっていたら、婚約が白紙になる可能性もありましたものね……」

 地味にドキッとさせられるジークの発言にジュリ様とリーベルトは一瞬ぎょっとしていた。俺は言われてみればなるほど、と思う。

「確かに……ロクティマ伯爵家の方々が別の縁談を用意する可能性は高そう」


 プリムラ様はこちら基準だとかなりの美少女だから、『次期公爵夫の専属護衛騎士』という内定を失ってただの子爵家の子息になってしまったリーベルトに嫁がせるには惜しい、と周囲に思われても不思議はない。


「それは嫌だ、という意思表示だったんでしょうね」

 ジークがそう言って微笑むとリーベルトの頬がぱっと赤くなる。

「そ、そうですかね?! せっかく作ったから婚約がなくなる前に渡しておこうと思っただけかも……」

「いやいやいや、それは卑屈に考えすぎだよ」


 そ、そうかなぁ……と嬉しそうに照れているリーベルトにニヤニヤしながら、(俺死んでたらプリムラ様にはめちゃくちゃ恨まれてたかもしんないな……)と思った。




 その後すぐティーレ様が戻ってきたと聞いて、さて出発かと準備していたら父上に向かって歩いてきた。報告がどうだったか一言言いにきてくれたのかと思ったが、表情がどことなく暗い。


「ティーレ様、想定より早いお戻りでしたね」

「ティーグ殿、それが……ジャルージ伯には会えなんだ」

「え? お留守ではなかったはずですが……」

「何やら取り込み中らしい。面会を断られたので報告は書状にして託していく。貴殿も確認し署名を頼む」

「面会を断られた? …………」


 驚いた後、思案顔になる父上。


 国境に面したジャルージ領の民は他の領民よりも"守られている"という意識が高かったらしく、ジャルージ家を大っぴらに悪く言う者は少なかったという。

 きっと外国人と揉めた時などにジャルージ家の対応や騎士に助けられた経験がある人も多いのだろう。


 それでも俺の誘拐騒動でニネミア嬢と家の評判はかなり傷付いたはずだが、公爵と面会して直接礼を受け取れば面目も立つ。それなのに面会を断るのも、城にいるのに報告を聞かないというのも流石におかしい。

 おかしいが、騎士団を領地に入れる許可を速やかに出してもらって捜索させてもらった側としては何故会わないのか、なんて追及はしづらい。ここは大人しく書状で報告して帰るべきところだった。

 あのちょっとしたことではびくともしなさそうなニェドラー辺境伯に何があったかはすごく気になるけれども……。




※※※




 時間を暫し遡り、スカルラットの騎士団が漁船を借りる約束を取り付けた頃。

 ジャルージ城に訪問者があった。紋章をつけていない馬車や装備で訪れたその集団を門番が止めると、前に踏み出した青年がローブのフードから顔を露にする。門番は驚愕して急いで遣いを走らせた。


「ユリウス殿下……!! こんな夜更けにいかがなさいました」


 訪問者がユリウス王太子であったことを知らせると、辺境伯ニェドラー、夫人カタフニア、長男イグニート、一時帰省していた次男ニフリート、長女ニネミアが大急ぎで見苦しくない程度に身支度をして出迎えた。


「こんな時間にすまぬな、辺境伯。だが、早い方がよかろうと判断して赴いた」

「何事でしょう?」

「実はここ暫く……ジャルージ領の国境門付近は、王家の影が見張っておった」

「なっ……! アマデウス殿を誘拐したと、我が家をお疑いだったと申されますか!」

「いや、違う。誘拐が起きる前から……冬に、其方達がアマデウスに挑発された時の様子を見た直後からだ」


 ユリウスは真顔で淡々と告げる。どちらかといえば表情豊かな普段の彼を知る者からすると不吉な予感がひしひしと伝わり、緊張感が増した。


「冬から、ですと……? アマデウス殿に『一緒に自白薬を飲もう』と持ち掛けられた時のことで? あの時のニネミアは確かに不審であったかと存じますが……」


「私は、ニネミアがコンスタンツェに嫌がらせをしたことがあるからと言ってあそこまで追い詰められた顔をするか、ということがひっかかっていた。確かにコンスタンツェに卑劣な嫌がらせをしていたと判明すればニネミアは社交界に居場所をなくすだろうが……そもそも其方達ジャルージ家の人間がそうであるように、ニネミアも社交を重視しておらん。軽んじているともいえる。そして自分の判断に自信を持って行動する。糾弾されても『聖女である前はただの男爵令嬢、身の程知らずであることを指摘しただけである』くらいのことは言う。社交界では周囲に何を言われようと堂々と振舞う。私が知るニネミアはそういう人間だ。つまり……判明したらそんな弁解も到底通用しないほどの何かを、隠していると感じたのだ」


 ちらりと視線を投げられたニネミアは、ひたすら蒼い顔で俯いていた。


「つい先程、国を出ようとしていた怪しい者達がいた。こんな時間に国境門を通ったのだ。見張りの兵士もいつものことと言わんばかりに通した。国外に出た所を捕らえた」

「そんな馬鹿な!!」

「全員は捕らえきれず、優れた影の技術を持つ数人は逃がしてしまったが、国内に逆戻りしたため国外には出ていない筈だとのことだ。捕らえた者の中には、首謀者とされる二つ黒子の男は確認できなかったが……アマデウスの誘拐と、奴隷売買に関与していた疑いがある。……其方は知らなかったのであろうな、ニェドラー。自白薬を使ったところ、そやつらが所持していた通行手形は其方のものと見せかけた筆跡で辺境伯夫人カタフニアが発行した物だ。それをニネミアもどこかで知ったのだろう」

「な、何ですと……!?」

「申し開きはあるか、夫人。犯罪者集団に手を貸した理由は? 賄賂でも受け取ったか?」


 ニネミアと同じくらい蒼い顔をしていた辺境伯夫人はガタガタと震え出した。そしてその場で膝をつき、か細い声で言った。


「いいえ! いいえ……金品は受け取っておりません、誓って……」

「カタフニアッ!! 何故そんな愚かなことを!!!」


 その言葉を聞いたカタフニアはゆるりと顔を上げ、蒼白な顔をぐしゃりと歪ませ、憎悪を込めた瞳で夫を睨む。

 その眼差しにニェドラーは怪訝な顔で目を瞠った。夫人に睨まれる理由に心当たりはなかった。

 すぐに夫から目を逸らし瞼を下ろして感情を覆い隠したカタフニア夫人は、王太子に向き合う。



「……申し開きがあるとすれば……"二つ黒子の男"ことヴィペールは……遠い昔に出奔した、ニェドラー様の実の弟君……ヒュドラー・ジャルージなのでございます」



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― 新着の感想 ―
コレリック家はもうアカンとして、ジャルージ家はニフリート先生の改心(?)もあって生き残るかな~と思ってましたが怪しくなってまいりましたね そしてこんがらがってきたので相関図作って読んでます(笑) まだ…
お待ちしておりました!! ジークリート様、悪気なく切れ味が鋭い時がちょいちょいありましたが今回も発揮されるとは…プリムラ様の好意がじわじわ知られてきていてニコニコしました。もし破談になったとしてもリー…
マジでえ!?便利有能モブだと思っていたヴィペールに仰天の背景があって先が気になってしょうがないです。 そしてユリウス殿下の貫禄に感動してしまいました。初期のこいつが王位を継いで大丈夫なのか?感が払拭さ…
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