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【書籍発売中】美形インフレ世界で化物令嬢と恋がしたい!  作者: 菊月ランララン


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敵愾心


【SIDE:スチュアート】



「スチュアート様の求婚を断るなんて、やはり……」

「アマデウス様とは親戚におなりですし、事業のお得意様でもあるそうですもの。公爵夫になるお方には逆らえないのでしょう……」


 理知的な瞳と煌めく象牙色の髪をしたフォルトナ・ヴィーゾ侯爵令嬢に恋をした私は、彼女の希望に沿う条件を提示し婚約の打診をした。

 面会をした感触も悪くはなかったため、何故断られたかさっぱりわからなかった。

 断られるとは思ってなかった周囲にも驚かれた。そして友人の令嬢の言葉で理由がわかって頭を抱えた。


 アマデウス・スカルラット伯爵令息の姉君とフォルトナ様の兄君が今春結婚する。その縁を繋いだアマデウス様はパシエンテ派との縁談を良く思わないということだ。

 フォルトナ様は次期公爵のジュリエッタ様や次期公爵夫人のカリーナ様とも友好的な関係だし、そのような嫌がらせをするとは考えていなかった。彼の野心を甘く見過ぎていた……。


 ――――公爵家に入るためにルドヴィカ姉様を裏切った人。

 姉様とのことなど何もなかったかのように公爵令嬢に求婚し、『ルドヴィカのことは鬱陶しいと思っていた』などと悪評を流して貶めた。


「軽率に鞍替えした上に姉様の悪い噂を流すなんて……どうしてそんなひどいことができるんだ……!」

「ダメよスチュアート、公爵家に睨まれるようなことを言ってはダメ。……大人にならなきゃ」


 その時はまだ子供だったから、婚約が成立寸前でダメになったとルドヴィカ姉様が哀しげに微笑む様子に同情しつつ少しだけ喜んでしまった。出来ることなら姉様と結婚したいと思っていたから。


 その後私が忙しくなったこともあり疎遠になり、そのルドヴィカ姉様も無事伯爵家の嫡男と婚約が成った。素直に祝いの言葉を言えるくらい初恋にも区切りはついている。

 ついているが……シレンツィオ派への不信感はずっと燻っている。そして、新しい恋の前にも彼は立ちはだかった。


※※※


「アマデウス様はそんなことはなさらない! の一点張りで……"信奉する会"の方々は聞く耳持ちませんわ」

「彼が潔白だと思い込んでいらっしゃるのね……哀れな」


 私を応援してくれている令嬢達が"アマデウス様を信奉する会"に彼の行動は問題があると思わないかとそれとなく訴えてくれているのだが、取り付く島もない。

 彼の信奉者は彼が私とフォルトナ様の縁談を邪魔しているなんて思いもしない。彼が"化物令嬢"を純粋に慕い、聖女様をたまたま見出し後援になったと思っている。言っては悪いが……少々残念な方々だ。


「ご存じ? ジャルージ辺境伯爵家のニネミア様……姉から聞いたのですけれど、お茶会でお会いした時、アマデウス様の話題になると不自然な様子を見せたのですって。どこか怯えるような……」

「世間の知らぬところで何か良からぬことでも言われたか脅されたかしたのではないかしら……それで王子妃争いから離脱なさったのかも」

「一部で流通していた記事で、彼の淫らな生活を告発するようなものがあったそうですわ。すぐ取り締まられてしまったそうですが……」


※※※


「ご歓談中に失礼致します、アマデウス様。お初にお目にかかります、シプレス子爵が嫡男、スチュアートと申します」

「初めまして、スチュアート殿。お噂はかねがね。……私に御用ですか?」


 食堂で友人と一緒に軽食を済ませお茶を飲んでいた彼に声をかけた。

 彼と一緒に卓を囲んでいる一人、金髪金眼の眩い青年はアルフレド・タンタシオ公爵令息だ。自分より美男子を見たのは初めてだったので少し驚いた。

 アマデウス様は、整ってはいるが飛び抜けて端麗な容姿というわけではない。だが長い脚と目を引く鮮やかな髪、明るく輝く瞳、自信が漲っているように見える佇まい。これで演奏の腕が天才的というのだから人気があるのも頷ける。あまり女誑しには見えない雰囲気に初な婦女子が騙されるのだろう。


「畏れながら、一つ申し上げたいことがあります。……貴方は、どこか私の兄に似ている」

「えっ」

「兄は……節度を知らない人でした。いえ、知っていたけれど、見ない振りをしていた……自分に都合の悪いことは起きないと信じ込んで、その結果取り返しのつかない事態を招いたのです」


 自分には優しい兄だったから、刺されて死んだというのに世間からまるで罪人の様に悪しざまに囁かれるのは辛かった。女性の気持ちを軽んじた兄の行いが災いになって返ってきたことはわかっているが、それでも。


「どうか、人の気持ちを軽んじるのはおやめになってほしい……破滅を招く前に。それだけ申し上げたかったのです」

「……そうですか。軽んじたつもりはありませんが……肝に銘じておこうと思いますよ」


 目を細めて微笑んだ彼の目にはどこか私に向けた憐れみがあった。

 嗚呼、きっと私の思いは彼に届かない。


 悔い改めてくれないならば――――やはり外側から少しずつでも崩していくしかない。



※※※



 次の授業までの昼休憩(と言ってもおやつの時間くらいだが)、食堂にて男子達でテーブルを囲んでいた。食堂に行く時は基本的に男女で分かれて食べている。男女混合の時もあるがなんだかんだ同性同士の方がリラックスして飲食できる面があった。女性陣は少し離れた場所でお茶している。


 俺は皆にカレーの話をしていた。マーデンから手に入れたサーグリーという煮込み料理のレシピを元に、スパイスを俺好みに調整したのだ。

 教えてもらったレシピのままは結構刺激が強く、料理長カルドと一緒に数々のスパイスや小麦粉と睨み合い嗅覚を狂わせながら空いた時間で試作を繰り返した。そしてようやく俺の知ってるカレーにかなり近い味に辿り着いた。


「もともと結構辛い料理なんですが、辛さはスパイスの二つくらいを調整すれば子供でも食べられる甘口も作れてェ……」

「デウス。あれ」


 リーベルトが気付きスチュアート殿の接近を俺に教える。食堂にいるのはほぼ上級生なので下級生がいると目立つ。金髪だから猶更注目を浴びていた。そして真っ直ぐ俺に向かって歩いてきた。少し離れた後方に心配そうな顔で様子を窺っている女生徒が数人。彼を讃える会の子か。


 スチュアート・シプレスは聞いていた通り、少し赤みがかった金髪にアメジストの瞳。次男であった時点では騎士志望だったのか、凛とした立ち姿は騎士見習いっぽい。髪は短めで少し癖っ毛、正義感がありそうなキリッとした眉、大きな目。少女漫画なら正統派王子様系男子かな。アルフレド様ほどではないがオーラがキラキラしている。


「……貴方は、どこか私の兄に似ている」

「えっ」


 スチュアート殿は彼の兄について語り出した。はっきり言わないから否定もできないが、フォルトナ嬢の予想通り俺が圧力をかけてると思ってるらしい。あと多分相当な遊び人だと思われてる。


 ――――彼の身内で故人だし……『女癖最悪男と一緒にしないでもらっていい?』とも言えん。


 実際の彼の兄を知ってるわけじゃないしな……それを言えばスチュアート殿は俺のことも詳しく知らないだろうが。どんな顔をすればいいかわからず俺はひとまず黙って聞いた。そして当たり障りのない返事をした。


 去っていった彼の背中を見ながら、俺は呻き声が出る。

「あれは……断られるのも無理ないかなぁ……!」

「ああ、外見は釣り合うが……中身がフォルトナ嬢に釣り合わん」

「自分に酔っている詩人のようだったな……」


 俺、ハイライン様、アルフレド様の順で呆れ気味の感想。スチュアート殿の。

 マジで自分に断られる理由はないと思ってんのか。俺が妨害していると確信してなきゃあんな物言いはしないだろう。


「会話を混ぜっ返しては失礼かと思い我慢しましたがデウス様に向かって節度を知らないなどと言いましたか、あの一年?」

「エンリーク、抑えて抑えて」


 いつの間にか目を血走らせているエンリークにぎょっとしつつ宥める。

 後で報連相しなきゃな~と暢気に構えていたら話がすぐ耳に入ったようで、放課後にいち早くフォルトナ嬢の方から来た。


「わたくしに非はありませんが巻き込んでしまい大変申し訳ないですわ」

「いえいえ、私も派閥の中心にいますしね、仕方がないですよ」


 そう言うとほっと息を吐いてからハァ~~~~~と長い溜息を吐いて、彼女は近くの空いた椅子に座る。


「……やはり断って正解だったようですわ。申し出の中に、『お嬢様の趣味の印刷の研究に関しても最大限設備を整える用意がある』……と自信満々に書いてよこしたのです。それがまあ、信用できず……癇に障りましたの」

「あちゃ~~~」


 趣味。趣味と言い切ってしまったか。

 フォルトナ嬢が研究対象と定め、自領で盛り上げていきたい仕事を。


 一応、スチュアート殿の考え方もこちらの価値観としては間違っていない。

 この国で、貴族にとって、領地を治め政に関わる以上の仕事なんてないのだ。それが至上でそれ以外は趣味や遊びの延長。金策を練って領地を富ませることは勿論良いことだが、商人や職人のやる仕事は一段下に思われている。統治するのに都合がいいからそういう風潮になっているんだろうけど。


 スチュアート殿は、侯爵家が工房を抱えて力を入れている事業の規模を把握できていないんだと思う。

 俺が発注した解説書の分だけでもかなりの金額が動いている。子爵家がフォルトナ嬢の満足いく設備を整えようと思ったら……かなりの覚悟と金が要る。平凡な子爵家なら普通に無理じゃないかな。

 印刷の影響力とこれからの可能性を今の時点でしっかり見据えている貴族はまだ少数派だろうから、子供の彼の想像が追い付かなくても仕方ないかなぁと俺は思うが……格上で年上の才媛を嫁に迎えたいなら把握できてなきゃいけなかったのだ。

 もしそれをちゃんとわかっていて『満足いただくには難しいかもしれないがそれでも』と請われたんなら、フォルトナ嬢も受け入れる余地があったんじゃないだろうか。


 そんなこんなでスチュアート殿とその取り巻きの敵になってしまったらしい俺は、俄にネガキャンをされ始めた。

 アスモデウス記事を元ネタにした色魔扱いに加え、"スチュアート様を讃える会"も一枚岩ではなかったのかフォルトナ嬢へ嫉妬があったらしい勢力が『アマデウスとフォルトナも実はデキている』と広めたりした。


 上級生は流石にそれを鵜呑みにすることはなかったようだが、下級生の間では本気にする生徒も出てきてしまい、ヴィーゾ侯爵家はあたりを付けた噂の火元に苦情を出し数人の令嬢が謹慎処分になったりした。

 フォルトナ嬢からは謝罪と「アマデウス様の悪評ってこういうふうに尾鰭がついてきたのかと理解しましたわ。冤罪以外のなにものでもない……大変ですわね、わたくしだったらもう俗世に見切りをつけて家に引き籠っていますわ」と同情された。

 そんな出家したくなるほどじゃないと思うが……と言ったらリーベルトに「それはデウスが図太いというか……大らかだからだよ」と返された。褒められてはない気がする。

 割と長いこと出る杭やってるから、そういう意味では俺って確かに節度ってものを知らないのかもしれない。


 ぶっちゃけ俺はあまり気にしてなかった。ジュリ様には申し訳なく思って謝ったが、とばっちりだし何も悪くないと許してもらえた。それに他に考えることが色々あった。薬局のこととかパレードとか次の公演とか。


 だがしかしそんな俺の状況を"信奉する会"が放っておくわけもなく……学院の雰囲気は不穏になっていた。


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スチュアート氏…キラキラしいイケメンというだけではアマデウス様達と仲が良くて見た目も性格も能力も最高な殿方と接していて目が肥えまくっていそう+ご本人もハイスペックでいらっしゃるフォルトナ様のお相手には…
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